ハルゼーの方針転換
「長門型一撃沈しました」
「やったか!」
攻撃隊の戦果報告が第三艦隊旗艦ニュージャージーに届き、喜ばしい内容にハルゼーは歓声を上げた。
いくら空母を主力と考えていても長年海軍で暮らしていた軍人として戦艦には格別な思い入れがある。
特に日本の戦艦を米軍で初めて撃沈できた提督として名を刻める事に喜びを感じた。
日本の戦艦はしぶとく、ソロモンでも旧式の比叡と霧島をあと一歩まで追い詰めながら、仕留め損ない、米戦艦は返り討ちに遭っている。
かつて司令官を務めたソロモンでの雪辱を果たせた、という思いもあってハルゼーは心から喜んだ。
しかもかつてビッグセブンの一角だった長門型の陸奥だ。
かつて海軍軍縮時代世界に七隻しかなかった一六インチ砲搭載戦艦、世界で最強と言われた七隻、世界的に名の知れた一隻を自分が撃沈出来たのは、喜びであり歴史に名が残る。
「偵察機の報告では敵艦隊が反転しているようです」
「流石に戦艦一隻を失っては離脱するか」
敵艦隊が有する八隻の戦艦の一隻、戦力の一割の喪失は撤退を考えるレベルだ。
しかも開戦以来日本で最初の戦艦喪失。
心理的衝撃は凄まじく艦隊を反転したとしてもおかしくない。
「最早、この戦艦部隊は戦力にはならないな」
更に、攻撃隊の報告から、多数の損害を第一遊撃部隊に与えていたとハルゼーは考えていた。
実際は、回避行動により損害を最小限に抑えていたのだが、至近弾で出来た水柱を魚雷命中と誤認したり、主砲発砲を命中、誘爆と誤認する事が多かった。
そして、士気を維持するため、上層部が認めることも多かった。
戦果の誤認、過大報告は日本軍の専売特許ではなく、連合軍でも起きており、記録の食い違いが多くあった。
現場を知るハルゼーも勿論承知していたが、数百機による攻撃ならば損害を与えているはず、という先入観と願望もあり、少なくとも敵艦隊が戦意を喪失し撤退するだけの損害が発生していると考えていた。
「閣下、追撃を行いますか?」
参謀長がハルゼーに尋ねた。
追撃戦こそ、戦果を拡大する最大のチャンスである。
古来より追撃戦を行うことで戦闘の勝利を確固ものにしてきたのだ。
「追撃はなしだ」
だが、ハルゼーは首を横に振った。
「何故ですか」
「戦意を失った連中など最早用はない。勝手に逃げていくだけの腰抜けだ。何の脅威でもない」
第一遊撃部隊の反転をハルゼーは戦意喪失による撤退と判断し、再攻撃は行わないことにした。
腰抜けに使う爆弾魚雷はないのだ。
「それより機動部隊だ。山口の機動部隊が俺たちの獲物だ」
ハルゼーは、身を乗り出して断言した。
米軍最大の脅威は日本の空母機動部隊であり、何度もいたい目に遭っている。
ここで日本機動部隊を撃滅して後顧の憂いを絶つのがハルゼーの考えだった。
ニミッツからのお墨付きも貰っており、見つけ次第叩くつもりだった。
レイテへ上陸しているマッカーサーの援護など知ったことではない。
マッカーサーの護衛など、マッカーサー指揮下にあるキンケイド率いる第七艦隊に任せておけば良い。
第一遊撃部隊を攻撃したのも機動部隊が出てこないため、準備運動代わりに攻撃していっただけだ。
そして今撤退しようとしている連中にではなく空母に爆弾魚雷を撃ち込むのがハルゼーの目的だ。
レイテへ突入しようとした戦艦部隊を撃退し脅威が無くなった今、自分が最優先の目標へ、日本機動部隊、山口提督率いる第三艦隊の動向にハルゼーは注意を向けた。
「連中の居場所を探せ、必ず近くに居るはずだ」
「は、はい!」
ハルゼーの命令に参謀長は震え上がった。
闘志に満ちた目に睨まれたからだ。
参謀長の事をハルゼーは気に入っていたが、ハルゼーの目は既に日本機動部隊の撃滅に向いており、日本の空母への闘争心が、すでに燃えさかっていた。
「太平洋艦隊司令部にも問い合わせて、日本空母の情報を集めろ。見つけ次第、攻撃する」
そして、ハルゼーの願いを叶えるように日本機動部隊の位置情報はすぐにもたらされた。
「提督! 日本機動部隊が現れました!」
「ようやくか! それで何処だ!」
「ウルシーからの緊急電です! 現在、ウルシーは空襲を受けています!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます