24日朝の状況
24日夜明け。
第一遊撃部隊司令部の要員は夜戦艦橋から上がってきて全員、昼戦艦橋である第一艦橋に集まった。
再び、艦隊の状況が報告される。
だが、この日は他にも情報が履いてきた。
「第三部隊所属最上の偵察機がレイテ偵察に成功。敵船団を発見致しました」
昨夜、南を進む西村率いる第三部隊が偵察機を発艦させレイテ湾への侵入に成功。
湾内の状況を確認し報告してきた。
「レイテの状況は?」
はやる気持ちを隠せず宇垣が電文を持ってきた伝令に尋ねる。
「敵船団多数、浜辺に上陸部隊ありです」
「そうか」
ブルネイで受けた軍令部からの情報通りであり、受信しているレイテの守備隊の報告とも合致した。
四日目になってもまだ上陸を進めている、ということは敵は大規模な兵力で攻めてきており本格的な侵攻を始めたということだ。
第一遊撃部隊の目標がレイテ湾にいるという事でもあり、突入は確定したと言って良い。
「我が艦隊の索敵機は?」
「発艦を終え、索敵中です」
夜明け前、サン・ベルナルジノ海峡東方に居るであろうハルゼーの機動部隊を探すために第一遊撃部隊からもカタパルト発進で各艦より水上機による索敵機を出していた。
まだ発見の報告はなかったが、いずれ見つかるだろう。
しかし、問題はまだある。
「左前方上空に敵機!」
見張の報告に全員が上空を見上げた。。
中翼でキャノピーから尾翼まで一体となり尾部が切り詰められたシルエット。
朝焼けに上部の青い塗装と下部の白い塗装が鮮やかで、胴体と翼に星を描いた機体は、米軍のヘルダイバー急降下爆撃機だった
「敵信傍受班より報告! 至近距離より大艦隊発見の報告が発信されております」
「あの敵の偵察機が発信したものでしょう。見つかりましたな」
宇垣が呟くように言った。
敵も日本軍を見つけ出そうと偵察機を出している。
ハルゼーの目である偵察機に接触してしまった。
いずれ接触するだろうが、出来れば、もっと遅くに接触したかった。
しかし、接触し通報された今は、悔やんでも仕方ない。
敵の空襲に備えなければならない。
「敵偵察機に接触したことを艦隊に知らせ。前衛の部隊に電探使用を許可。敵機の来襲に備えよ。それと航空艦隊に増援の戦闘機を要請」
南雲は敵に備えて簡潔に命令した。
命令は直ちに第一遊撃部隊および第一航空艦隊に伝達され、各部署で準備が始まった。
七十年程前に出来たばかりの海軍だが、開国と同時に貪欲に各国海軍の技術、慣習、常識を学び日清、日露で勝利し世界に名だたる海軍となった日本海軍だ。
状況を伝えるだけで各級指揮官が、最適な行動を行うよう訓練されており、このときも、日々の訓練に裏打ちされた行動を行い、来るであろう敵機に備えた。
アメリカ軍偵察機が発信した第一遊撃部隊発見の電文は予想通り、アメリカ第三艦隊旗艦ニュージャージーに受信され、司令長官であるハルゼーの元に送られた。
「敵大艦隊を発見しました!」
「ジャップの機動部隊か!」
「いえ、戦艦を含む。多数の艦隊です。空母はおりません」
「なんだ」
伝令の報告が戦艦部隊だったことにハルゼーは露骨に落胆した。
「空母はいるか?」
「詳細な報告が入ってきましたが、戦艦のみです」
「そうか……」
空母ではなく戦艦のみ。
五〇歳手前で水雷屋から航空へ転科して以来、ハルゼーは空母が海軍の主力という信条を抱いている。
ハルゼーにとって最大の攻撃目標は空母であり、空母がいないのは残念でしかない。
「機動部隊の前衛部隊では?」
参謀長がハルゼーを慰めようと自分の推測を言った。
「いや、日本の機動部隊が、山口が西にいるはずがない」
ハルゼーは参謀長の意見を否定した。ハルゼーの勘がそう告げていたからだ。
確かに南シナ海に機動部隊が展開し、フィリピンを盾にして、攻撃隊を出してハルゼーの機動部隊に空襲を仕掛ける作戦は有効だろう。
だが、あの山口がそんな消極的な作戦を行うとは思えなかった。
できる限り、敵に近づき何度も攻撃するのが機動部隊の戦い方だ。
それに、フィリピンによって安全だが位置が固定されるため、機動部隊の武器、機動力、自由自在に海を駆け回り、敵を奇襲する事が出来なくなる。
「もし、山口が来るならフィリピンの北か東だろう」
ハルゼーは勘で言ったが、外れてはいなかった。
南はあり得ない。
ニューギニアの陸軍航空隊が索敵を行っている。
陸の飛行隊は役立たずだ、とは思うが、機動部隊を見落とす程間抜けではないとハルゼーは理解している。
日本軍が攻撃前に連合軍に見つかる危険を冒すとは、考えていなかった。
「では何故、戦艦部隊がシブヤン海に」
空母と共に行動し、前衛となり、敵を排除してきた日本の戦艦部隊が単独で行動していることに参謀長は疑問を抱いた。
「囮でしょうか?」
「いや、違う」
ハルゼーは参謀長の意見を否定すると、自説を、自分の勘を披露した。
「大方、サボ島沖海戦、ソロモンの再現を狙っているのだろう」
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