ハルゼーの第一遊撃部隊への対応

 フィリピン攻略から遡ること二年前の42年8月。

 米軍でサボ島沖海戦、日本側では第一次ソロモン海戦と呼ばれる海戦があった。

 ガダルカナル奪回の為に第一海兵師団を載せた船団に対して、日本軍は第八艦隊を出撃させ、船団に対して夜戦を決行。

 連合軍の油断もあり、護衛部隊は全滅。

 無防備になった船団は再突入してきた第八艦隊の標的となり、次々と撃沈され、壊滅。

 これがきっかけとなり上陸した米海兵師団は孤立し撤退を開始。

 だが、連日の第八艦隊による艦砲射撃と妨害により海兵師団は半数のみ脱出に成功し残りは降伏。

 米軍の反攻第一弾は大失敗に終わった。


「まさか、戦艦部隊で、狭い海峡を通って……」

「日本軍は何度もガダルカナルの狭い海峡に戦艦を突入させているぞ」


 信じられないとばかりに参謀長は声を震わせるが、ハルゼーは手強い敵を語るように目を輝かせながら、懐かしそうに言う。


「特に金剛シスターズは手厳しい」


 その後も米軍はガダルカナルへ再上陸を敢行するも失敗。

 特に金剛型戦艦が突入し艦砲射撃を行った時には士気崩壊し、当時の作戦責任者であるゴームレー司令官は撤退、作戦中止を進言してきたほどだ。

 何とか反攻の糸口を掴みたいと思っていた連合軍上層部は度重なるガ島反攻失敗を憂慮し司令官を更迭。

 ハルゼーが後任となり日本軍への反撃を行わせた。

 だからハルゼーは知っている。

 日本軍が狭い海峡、大型艦が動きにくい海域でも平然と突入してくることを。


「しかし、三十年以上前の戦艦ですよ」

「確かに。だが強い。日本軍の中でもその強さは有名だぞ。地獄榛名に鬼金剛、羅刹霧島、夜叉比叡だったか、捕虜が日本のモンスターの名前を付けて呼ぶくらい強い連中だ。レイテに突入しようと考えてもおかしくない。しかも、あの長門クラスと新戦艦が加わっている」


 長門と陸奥は軍縮条約時代、世界で七隻しかない一六インチ砲戦艦の一角であり、米海軍の脅威であり、恐れられていた。

 そして条約明けに作られた日本の戦艦のことも話題になっていた。

 マリアナ沖で味方の戦艦を沈めていることもあって、話題に上らない日はなかった。


「……迎撃しますか?」


 ハルゼーのお言葉に参謀長は恐る恐る尋ねた。

 もしハルゼーの言うとおり、戦艦八隻の部隊がレイテへ突入してきたら、船団が全滅してしまう。

 ソロモンの時とは比べものにならないくらい大きな上陸戦力、四個師団十万以上を載せており、壊滅したら損害は計り知れない。


「キンケイドの第七艦隊でも十分に防げるだろう」


 真珠湾で沈められた戦艦を復旧し近代化改装されたリベンジャーと呼ばれる戦艦六隻にコロラドが加わり、七隻の戦艦がレイテ湾で船団の護衛と、上陸支援を行っている。

 他にも護衛空母が居い発見した戦艦部隊に対して十分撃退出来る戦力がある。


「だが、山口を叩く前の準備運動に潰しておくとするか。全空母群に発見した戦艦部隊への攻撃を命令しろ」

「はい。しかし、第一群は補給の為に後方へ下がっています」

「ああ、そうだった」


 ハルゼーは、顔をしかめた。

 第一空母群は正規空母三隻を有する、第三艦隊で最も攻撃力の高い、空母群だ。

 だが、連日の支援攻撃で弾薬燃料が尽きかけており後方での補給を命じて下がっている。

 最強の戦力を叩き付けられないことをハルゼーは残念に思った。


「第一群を除く、残りの第二群、第三群、第四群に攻撃を命令。さっさと叩き潰して山口に備えろ。今日中に片づくだろうが、念のために各部隊から戦艦を抽出し第三四任務部隊を編成。サンベルナルジノ海峡を封鎖するように展開し海峡を出てきた日本の戦艦部隊を叩け」

「ラジャー」


 参謀長は命令を受けると、指揮下の空母群に命じた。

 命令を受けた航空部隊指揮官のミッチャー中将は直ちに指揮下の空母部隊に命令。

 艦載機部隊が第一遊撃部隊を攻撃すべく発艦を開始した。

 更に戦艦を抽出した第三四任務部隊の編成も始まった。

 こうして、米軍は日本軍の反撃に対する迎撃準備を整えつつあった。

 しかし、ハルゼー機動部隊の上空にも彼らを見ている目があった。

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