サイパンの戦い
「ジャップの連中、全滅したんじゃないか」
揚陸艦からサイパンを見ていた海兵隊員の一人は呟いた。
戦艦を含む艦隊が間断なくサイパン島に艦砲射撃を浴びせている。
初日にはアイオワをはじめとする高速戦艦群七隻。
昨日はコロラドとテネシーをはじめとするリベンジャーズ――真珠湾で着底し復旧した戦艦群四隻が砲撃を行った。
彼らの砲撃方法は簡単で見つけた敵陣地へ即座に撃ち込むことだった。
総計で138,891発8,500トンの砲弾が降り注ぎ、サイパン島はさながらカーペットを敷くように砲弾が降り注いだ。
「まあ、連中がいないのなら楽なんだがな」
その時、島から着弾とは違う砲火が上がった。
砲弾は、揚陸艦の近くへ着弾し水柱を上げる。
「連中まだ生き残っていたのか」
それは海軍の保有する砲台だった。
陸軍より水際防御のため、敵上陸まで発砲を禁止されていたが、敵艦隊の接近を見ていても経ってもいられず発砲したのだ。
狙われていることの米軍将兵は緊張したが、すぐに近隣の戦艦と巡洋艦が砲撃を開始し、発砲した砲台へ雨あられと砲弾を降り注がせた。
砲台からの砲撃はそれっきりとなった。
「驚かせやがる」
その光景を見ていた海兵隊員は冷や汗を拭った。
そして待機していた第二及び第四海兵師団に上陸命令が下り揚陸艇にのって浜辺を目指した。
初めは順調だったが、浜辺の遙か手前、珊瑚礁に引っかかって停止してしまった。
揚陸艇だと珊瑚礁を越えられない。
「乗り換えろ!」
海兵隊員は先発していたアムトラック、水陸両用トラックへ乗り換えた。
アムトラックのキャタピラで珊瑚礁を乗り越えて浜辺へ向かう。
タラワで揚陸艇が珊瑚礁を乗り越えられず多くの兵士が徒歩での上陸を余儀なくされ、大損害を受けた戦訓を元に改善された方法だった。
初めからアムトラックに乗れば、乗り換えの手間が無くなるが、アムトラックの航行速度は遅く、時間が掛かるため敵の反撃と、時間短縮を求める揚陸部隊司令部の方針で乗り換える事になった。
乗り換えの時砲撃を浴びるのでは無いかと怯えていたが。日本軍の反撃は無かった。
浜辺に上陸しても日本軍からの砲撃はなかった。
しかし、第二波が上陸した時、日本陸軍の砲台、砲兵部隊が反撃を開始した。
橋頭堡で無防備に上陸作業を行っていた海兵隊の真ん中で爆発が起きて、上陸部隊に大損害が発生した。
「敵陣地に多数の命中弾!」
「よし」
丘陵に作られた観測所からの報告に日本陸軍の砲兵将校は満足した。
激しい砲爆撃だったが、予め作った地下陣地のお陰で部隊も大鳳も助かった。
周囲に構築した偽陣地に、アメリカ軍が砲撃を加えて無駄玉と、陣地を破壊したという満足感で徹底を欠いたのが要因だ。
お陰で部隊は生き残り、こうしてアメリカ軍に反撃を加えることが出来た。
実際、多数のアムトラックが破壊され、以後海兵隊員は泳いで上陸する羽目になった。
浜辺から300m以上進軍できず、彼らは浜辺でたこつぼを掘って身を守るしかなかった。
「だが海軍サンにも困った者だ」
ただ、海軍の沿岸砲台が予定と違って上陸寸前に砲火を開いたのは失敗だった。
本来なら敵が水際で橋頭堡を確保し、後続が来て浜に敵兵が密集してから砲撃する予定だった。
これなら更に多くの敵を殺せたハズだった。
「まあいい、上手くいっている」
日中戦争で実戦経験を経た上、サイパン移動前に猛訓練を施した部隊だ。
命中率は非常に良かった。
「陣地変更!」
しこたま撃った後、指揮官は命じた。
部下は大砲を引っ張り、移動する。
別の陣地に移動を終えたとき、彼らが元いた場所に大量の砲弾が降り注ぐ。
「間一髪だな」
敵も馬鹿では無く、砲撃の後反撃してくる。
砲撃したらすぐに移動するのがセオリーだ。
「敵にできる限り、砲撃を加えてやる」
その後も日本軍の反撃は厳しさを増した。
それでも海兵隊は猛然と上陸を行いアスリート飛行場に向かっていく。
米軍も早期に飛行場を確保しようとこの方面に戦力を集中させ、攻撃を行った。
日本側は防衛するが、米軍の放った砲弾の一発が飛行場に設けられた魚雷庫に被弾、大爆発を起こした。
戦線の直近にあったため防衛線に穴が空き、そこから米軍に突入されアスリート飛行場を奪われ使用不能となってしまった。
貴重な大規模飛行場が占領されたことで、一航艦の戦力が減少する事になり、このことは戦局に大きな影響をもたらした。
日本側は、直ちに奪回を計画。
その夜、戦車第九連隊の夜襲を中心とした総攻撃がなわれた。
いきなり現れた戦車に米軍は驚き退却。奇襲は成功し橋頭堡へ向かって突進した。
だが海兵隊はバズーカにより反撃し陣地を維持した。
日本側はなおも攻撃を続けたが米軍の抵抗は激しく膠着状態となってしまう。
そして日が昇ると共に陸上の様子が確認できた米海軍艦艇の艦砲射撃が行われ、朝日を浴びた日本軍へ砲弾が降り注ぐ。
日本側総攻撃参加部隊に大損害が発生し、反撃中止が命令され、彼らは砲弾を浴びつつ、退却した。
そのためサイパン島守備隊は後退。以後はおとなしくしている。
しかし米軍も一日で五千人近い死傷者を出し、予備の第二七歩兵師団を全て上陸させることとなる。
そして、サイパンの泥沼の戦いに米軍は脚を踏み入れ脚抜けが出来なくなった。
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