カクヨム賞 『棒銀の玉将串刺しフライ 〜森林限界を抜けて〜』の感想

棒銀の玉将串刺しフライ 〜森林限界を抜けて〜

作者 空何(くうか)

https://kakuyomu.jp/works/16816927861579243536


 銀将が好きな白香は五歳年上の翔馬といつか横に並んで歩けるように成ってみせると、彼の手作り弁当を食べつつ、こども将棋大会の優勝を目指す物語。


 本作は企画物で、『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト カクヨム賞』を取った作品。審査に際し、最も重要視した点は「いかに料理がおいしそうに描かれているか」「料理を注文した後、その料理の登場する小説を読みながら、いつ自分のもとへ届くのかとワクワクしてしまう物語を選んだ」とあります。


 いわゆる将棋めしがでてくる恋愛小説である。

 しかも年齢差の片思い。

 主人公は白香、一人称私で書かれた文体。描写より心情を重きに置いた独白めいた実況中継で書かれている。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 五歳年上の高校生である翔馬さんに好意を持っている主人公は、彼には実妹のように思われている。なので、ついつい毒づいてしまう。

 子供将棋大会でまだ優勝したことがない主人公は、なんとか午前の部を勝ち越せたものの、棒銀を分かっていない人に勝って、分かっている人に負けて機嫌が悪かった。

「切り替えて、お弁当食べよう」と彼が作ってきたお弁当の蓋を開けると、一面にブロッコリーが埋め尽くされた『棒銀の玉将串刺しフライ 〜森林限界を抜けて〜』だった。

 白香得意の棒銀にちなみ銀串揚げにし、玉将から玉子を連想されているという。また、棒銀で勝利して森林限界を突破するようにとも込められていた。

「その人がすごいから、白香ちゃんは無理って、自分の限界を自分で決めちゃう?」

 彼の指摘は的を得ていた。

 くだらない冗談をいう彼に「上を目指してほしいと思うなら、玉将をもじってちゃダメですよ。将棋には、王将と玉将があるんです。格上が王将を使って、格下が玉将を使うんです。上を目指すんですから、私が取るべきは玉将じゃなくて、王将なんです」言い返すも、彼は折り紙で王冠を作り、「これを添えて、王様にしちゃおう」といい、主人公の頭に乗せる。

 彼の手間をかけたお弁当を食べきると、彼にいつまで保護者ヅラをさせておくのだと自身に言い聞かせ、銀将が練金となって横に移動できるように彼の視線が斜め後ろではなく真横になるよう成長してみせると誓い、午後の対局へ向かう。

 

 翔馬は、主人公の隣家に住む五歳違いの高校生とある。

 なので白香は、小学五、六年生である。

 白香は彼が好きなのだけれども、彼は保護者ヅラの子供扱いしてくるので、冷たい態度を取ってしまう。

「翔馬さんノロマのヘナチョコのアンポンタンのくせに、料理だけは本当にうまいですからね」

 いつもツンツンしていているのだろう。

 彼は「僕は白香ちゃんのこと実の妹みたいに思ってるのに、なかなかデレてくれないなー」といっている。

「デレてほしい」と思っている彼は、かわいい白香の姿を見たいと思っているはず。

 ただし、妹としてなのだろう。

 シスコンか? いやいやそうではなく、小さい頃から面倒を見ていると妹のように思えてしまうのだろう。

 これは仕方ない。

 彼が小学生の時、主人公はようやく歩けるようになったころで、勝手に遠くへ行ってしまわないか、転んで怪我しないようにいつも気にかけていたに違いない。そうやって過ごしてきたから、今も継続して面倒を見ている感じなのだろう。

 でも主人公は小学五、六年生。

 異性として意識する。

 だけど彼は、相変わらず妹扱いする。

 それが嫌だから、

「……救いようのない愚鈍です」

「なんか罵倒の語彙が年々豊かになってない?」

 というやり取りをする間柄になっているのだろう。

 

 主人公はこども将棋大会に参加している。

 参加は小学生だけなのだろう。

 彼女が将棋をするきっかけはなんだったのか。

 親の影響か。翔馬も昔は将棋をしていたのか。

 主人公が棒銀好きなのを知っているので、将棋はできると思われる。ひょっとすると、将棋をするきっかけは彼だったかもしれない。 だけど、奨励会に入るほどでもなく、嗜む程度と推察。だから彼は、一生懸命強くなろうとする主人公を応援しようとお弁当を作るのだろうか。

「ええ、しっかり見ていてください。私は必ず成長して、格下でなんてなくなりますから」と主人公が彼に言い切っている。

 ひょっとすると彼は、こども将棋大会に参加して優勝しているのかもしれない。その姿を見て彼女は将棋をはじめ、実力は未だ彼に及ばない、だから格下なのかしらん。

 翔馬は「玉将から玉子を連想して、相手の玉将を棒銀でぐさーっとやれるようにってね」とあることから、彼は格上で、いつも玉将を狙う立ち位置なのではと邪推する。

 主人公の行動原理にあるのは常に翔馬。

 なので、彼の将棋の実力は主人公以上に違いない。


 翔馬はオヤジギャク的な言葉遊びで、お弁当を作っている。

銀鱈のフライはお手製だろう。ブロッコリーのソテーにもひと工夫している。

「……しょうが、効いてますね」

「もうちょっと将棋にかけたくてね、一文字違いだから」

 将棋にちなんだお弁当、となると洒落みたいな言葉遊びが大事になってくるのかもしれない。

 

「ここに置くのが、一番しっくりくるよ」と彼は折り紙で作った王冠を主人公にかぶせる。

「この人は、本当に、こういうことをする。こんな、屈託のない、ほれぼれとするような笑顔で」とあるので、やはり恋愛抜きで、妹目線で彼はしているのだろう。

 それが悔しくて、悲しくて切なくて、その思いを成長へとつなげることで彼が隣で見てくれる存在になろうと誓った彼女の横顔は、きっと凛々しかったに違いない。

 その顔を、斜め後ろからみている彼には見えていなかっただろう。だから彼は主人公のデレた顔を見れないのだ。

 

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