【僕まだロボット】偽原子ーイミテーション・アトムー没案

亜未田久志

吐き癖王子の成り上がりの最期。


 月の最奥。偽原子生産プラント。

 それは歴史を揺るがす、衝撃の真実だった。

 月で採掘されていたはずの偽原子が人造物だったとは。

 偽原子とは重力を操る、新たな原子である。

 しかしその正体はナノマシンだった。

 人型兵器の制御に用いられ、偽原子の権利を巡って地球圏と月は戦争をしていた。


 その最終局面。偽原子生産プラントにたどり着いた。ゼンノウ・オウジは、そこに鎮座する機体を見た。


「これは……」


 そこにスピーカーからのアナウンス。


『ここまでたどり着いた者よ、ゼンノウ家のものよ、この機体は、偽原子の出力を十二分に発揮する。その力は他のイミテーションマンも凌駕する」


 イミテーションマンとは人型兵器の総称である。偽原子の力とは万能に等しい重力を操る力は極大だ。

 オウジは機体に乗り込む。機体名は「イカロス」。


「皮肉だな」


 偽原子で出来た蝋の翼が羽ばたく、月の本拠地を叩きに行く。月で一番大きなクレーターにつくられた要塞都市。


「今から、ここを墜とすのか……オエエ」


 最終局面になっても吐き癖は治らない。

 翼を広げた偽天使が飛び立つ。

 要塞都市の真上に陣取り、爆撃する。


「……吹き飛べ!!」


 濃縮偽原子の最大火力放出。最高傑作とも呼べるイカロスの砲身が焼ききれる。

 要塞都市が塵芥と化してさらに大きなクレーターと化した。

 さらに吐くオウジ。


「一人殺せば殺人鬼で、百万人殺せば英雄だったか」


 そうは思えなかった。ただただオウジは己のゼンノウ家の因縁にケリをつけたかった。そのための代償だった。

 

「こんな戦果あげたら本家はともかく上層部は評価するしかないだろ……勲章さえもらえれば……俺だって……」


 その時だった。敵性反応。


「ベリアル!」


 幾度ともなく戦った相手。

 イカロスの翼とベリアルの鎌がぶつかり合う。


「AIであるお前がどうして人間の味方をする!」

『私にはもうお前を倒すという存在意義しかない!』

「そうかよ! 人間以外なら吐かずに殺せてありがてぇ!」


 翼と鎌による輪舞が続く、運動性能も偽原子技術もイカロスが勝っているのに、それを超えて来るのがベリアルのAIだ。

 何度目かの撃ち合いの後、イカロスは懐から小型のの濃縮偽原子砲を取り出す。


「この射程犯からは逃げられない」

「チェックメイトだとでも?」

「俺のライバル――かわしてみせろ!!」


 撃ち放つ、迸る光芒。宇宙にもう一つの太陽が生まれたようだった。

 光が晴れた後、そこにいたのは大破したベリアルの姿だった。


「その状態で戦えると?」

「お前と共に……自爆を……!」


 その時だったベリアルの心臓部を狙撃が貫く。

 そう、それはオウジの親友、ケンからの援護射撃だった。


「わりぃ! 遅くなった!」

「いや、助かった。手持ちの武器が切れたところだった」

「そりゃナイスタイミング」

「なぁ、これで終わったのか?」


 ケンはしばらくの沈黙の後、告げた。


「俺ら次第、じゃないか?」

「それも……そうだな」

「プリンセスかエメラダ、ちゃんとどっちか選べよな!」

「お前は最後までそれかよ……」


 二人は帰還する。月面突入作戦から、その終わり。長いようでとても短い時間。

 ゼンノウ家の正当な後継者の証たるイカロスを手に入れたオウジは本家に迎え入れられることになった。

 彼は世間でこう呼ばれる。


「月面戦争の撃墜王子」と。


―――――――――――――――


 本編読んでないと意味不明でしょうが。

 本編読んでても意味不明なので大丈夫です(?)。

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