第四十四話
「ダメだ」
そうだ、ダメだ。ネットでいろいろ調べてこんな場所でうだうだしていても、何も解決しない。五稀の行きそうな所は全く思いつかないけれど、何か手がかりがあるはずだ。
「何か、何かないのか……、あ……」
そういえば友達の家に泊まりに行くと言って、土曜日の日に家を出たと言っていた。その友達は何か知らないのだろうか。いや、知っていることがあればきっと教えてくれるはずだとは思うのだが。
「そんなこともないか……」
中学生の女の子たちが何でもかんでも大人に正直に話をするとは思えない。でも、もしそれが大学生の俺だったらどうだろうか。少しは話が聞ける可能性が増える気がする。親に言いにくいことも、俺になら言えるんじゃないのか。それに、いつも五稀がどんなことをしていたか、SNSはやってるのか、どんなSNSをやってるのか、アカウントは? そんなことを少しでも知ることができたら、何か糸口が見えるかもしれない。
「そこからだ。まずは、そこから辿っていけばいいんだ」
壁掛け時計を見ると、いつの間にか昼を過ぎていた。時刻は十三時二十五分。俺は急いでスマホの乗り換え案内アプリを立ち上げた。青色の電車のキャラクターがアイコンになっているアプリをタップする。程なく行き先を選択する画面が現れ、自分の住んでいるアパートから、実家がある街の駅までの時間を調べた。アパートからは路線バスで駅に向かう。そこからは乗り換えを二回して約四時間。今から一番はやいバスに乗って向かったとして、到着予定時刻は、十九時四十六分だった。
「遅い、そんな時間かかるのかよ、くそっ」
改めて、同じ県内とはいえ、実家までの遠さを実感する。その距離は俺と五稀の心にも比例しているような気がした。近づかなくてはいけない。妹に、はやく。そして見つけ出して、言ってやらなきゃいけない。いつもそばにいるから安心して頼ってくれって。
「どの口がそれを言ってんだ……」
頭で思うことを否定してくるもう一人の自分がいる。けれど、今はそんな否定的なことは後回しだ。まずは、何がなんでも探し出さないと、もしかして、これから事件に巻き込まれたりするかもしれないじゃないか。それがあのさっき読んだ猟奇的殺人事件だとしたら……
《内臓の抜き取られた頭部のない少女の遺体の足首には、紙でできたタグがつけられていて、そこには、「#家出少女 #神 #少女の実名」が書かれていた》
脳裏にその記事の文字がそのままの配列で染み付いている。あの遺体発見現場の写真もだ。絶対ないと信じているけれど、最悪のケースがもしも足音を立てて近づいているのだとすれば、それを何がなんでも阻止しなければいけない。五稀が連続殺人犯に首をはねられ、血抜きをされて山の中に捨てられるなんて、絶対にあってはいけない。そう強く願えば願うほど、気持ちばかりが焦ってくるのがわかった。
「あと五分」
バスが来るまではあと五分、雨が強くなってきているから多少のズレはあったとしても、もうすぐにでも家を出た方がいい。足りないお金は駅構内のATMでおろせばいいと思った。俺は着ていた部屋着を急いで脱いで、ジーパンとパーカーに着替え、雨に濡れて重くなったコートをもう一度羽織った。そして、鞄にノートパソコンとスマホの充電器を突っ込んだ。バス停はアパートの真前だ。そこでバスに乗れば、今よりも実家に近づく。五稀にだって今より確実に近づくはずだ。そう願いながら、薄暗い部屋の扉を閉め、鍵をかけた。
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