第四十二話

 検索をかけると、ここ数ヶ月の間に起こった猟奇的殺人事件を紹介しているページがすぐに見つかった。


《家出少女を狙った犯行か、三人目の被害者が発見される》


 九月十七日金曜日、第一被害者の少女の遺体が、Y県内山中で発見されてから約一ヶ月後の十月十五日、今度はS県山中より、第二の被害者少女が発見された。そして、今月十九日、第三の被害者少女の遺体がY県山中にて発見される。(いずれも十代)少女達の身に何が起こったのか。犯人は未だ捕まっておらず、警察は総力を上げてこの事件の捜査を行なっている。また、被害者少女はいずれも家出人捜索願いの届出が警察に出されており、警察の早急な対応についての議論も激化している。


 確か、現在の被害者は三人。それは報道番組を見て俺も多少なりは知っている。それにしても、一ヶ月に一人ずつ被害者女性が発見されているということは、また次の犯行もあるということなのだろうか。不穏な空気が俺の体を包み始めた。


「まさか……、それは最悪すぎるケースだろ、あるわけない」


 そう呟きながらも、他のページも読んでみることにした。もっと、詳しく載っているページはないだろうか。そう思いながら、検索画面に戻り、下にスクロールをしていくと、週刊誌のウェブ版らしきページを見つけた。


「週刊女性ナイン……、おばさんとかが読む系のやつかな」


 検索画面のタイトルに恐る恐るマウスを合わせ、クリックすることにした。タイトルは「家出少女達が危ない! SNSに潜む危険! 恐ろしい猟奇殺人事件現場ルポ」とある。そのタイトルを目で追うだけで、口の中が乾いてくるような嫌な感じがした。


《本誌独自取材》


 派手なピンクのタイトルバックに、白い縁取りの赤い文字でデカデカと書かれているページだった。そのすぐ下には、第二被害者発見現場と文字が書いてあり、警察の黄色いテープが張り巡らされた山の中にブルーシートがかかっている写真が載っている。そのブルーシートの向こうが発見現場なのだろうと容易に想像できた。しかし、こんな山の中でよく発見できたものだとも思った。普通の人はこんな山の中に入ることはあまりないだろう。しかし、その下の部分を読んで、納得できた。発見者は地元猟友会のメンバーだったのだ。その下に書いてある文字を読んで、俺の心は凍りついた。


《 これから料理でもするのかと思うくらいの下処理がされた遺体だった 》


 どういう意味なのか、それを読んでも頭の中にイメージが湧かない。でも、とんでもなく凶悪な殺人事件だということは想像できる。急いでその先を読み進めることにした。


 第二の被害者が発見された十月十五日の翌日、本誌取材班は事件現場のS県M郡へと向かった。そこで、第一発見者Aさんと一緒に行動していた猟友会メンバーから発見当時の詳しい情報を聞くことができた。これは、警察発表されていない、被害の実態を明らかにする、本誌独自スクープである。


 【猟友会メンバーの証言】


「あの日は、狩猟解禁が十一月十五日からなので、その下見にみんなで山に入っていました。みんなでと言っても、ある程度エリアを決めて、そこを見回る感じですね。それで、Aさんが慌てふためきながら、メンバーの一人に電話してきて、それで、そこにいた仲間たちで、急いでAさんのいる場所まで走っていったんです」(猟友会メンバー)


 なるほどと思った。猟友会であれば、狩猟期間前に下見に行くこともあるだろう。それにしても山深い気がするのは俺だけだろうか。そんな場所まで遺体を運ぶとなると、土地勘があるのか、それとも下調べに力を入れて発見できない場所を探していたのか、いや、それとも発見されること前提で遺体を置いたのか。さらにその下の記事を読むことにした。どうも、最初に書いてあった《 これから料理でもするのかと思うくらいの下処理がされた遺体だった 》の部分が気になってしまう。一体どういう状況だったのか。


「私は比較的、状況を見ていた方だと思いますね。正直気持ちも悪いし、血の気もひきますけど、なんかあった時に警察に聞かれて、細かく説明できたほうがいいかと思って。実際、発見当時の状況は、Aさんよりも詳しく説明できていたと思いますよ。あれは、鹿や猪を解体しているような状態でした。解体っていっても、切り分けて肉にするって事じゃなくて、なんと言うか、きちんと血抜きされて、内臓の掃除がしてあるって感じです。頭部はなかったですね。それは報道されていると思うんですけど、内臓もきれいになくなっていて、血もほとんど見えませんでした。本当、狩猟した害獣を捌く途中のような、そんな感じです」(同・猟友会メンバー)


「嘘だ……ろ、そんな……」


 なんて酷いことをするのだ。確かに頭部のない遺体だとはテレビのニュースで知っていたけれど、まさかそんな状態だったとは。


「解体って、どういう神経してんだよ」


 家出少女を殺して、頭部を切り取り、内臓を取り除く、想像しただけで吐き気がしそうだった。しかし冷静に考えて、頭部がない遺体がどうしてそんなにすぐに家出少女と分かったのだろうか。さらにその下へスクロールして、記事を読み進めることにした。マウスに添えている手には嫌な汗をかき始めている。絶対にあり得ないと思いつつも、どこかで妹のことを考えてしまっているのだと思った。


「そんな想像、やめろって」


 自分に言い聞かせ、その下の記事を読んで、すぐに身元が判明した理由がわかった。記事にはこう書いてある。遺体の足首には、紙でできたタグがつけられていて、そこには、「#家出少女 #神 #少女の実名」が書かれていた、と。それを読んで、最初に読んだ記事に書かれていた「被害者少女はいずれも家出人捜索願いの届出が警察に出されており」という部分を思い出した。被害にあった少女は家出人として捜索願を家族が出すような家の子供、つまり幼児虐待や育児放棄などをしていない家庭ではないかと想像できたからだ。ごく普通の両親のもとで育った普通の家庭の子供。


「嘘だろ……」


 俺はしばらくそのままパソコン画面を見つめていた。頭の中で自分の声が響いてくる。まさかそんなことはあるわけない。自分の妹がこんな酷い犯罪に巻き込まれるわけがない。でも、可能性は……


「ゼロじゃない……」


 雨の音だけが部屋の中に不気味なくらいに響いていた。

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