36.誕生日について
「ルーナ、話はなんだったんだ?」
部屋に戻ると、なぜか腕立てふせをしているカリネが顔だけ上げて訪ねてきた。
しかし私は空気が読める女なのだ。
触らぬ神に祟りなし、である。
「誕生日のことと、お兄ちゃんが帰ってくることだったよ」
「そうか。じゃあ、ハンブルブ家からもお祝いしよう!」
「そう?」
そうかー、お祝いしてくれるのかー。
それはなんだか楽しみになってくるなぁ。
なんたって、ハンブルブ家の当主はお父さんの義弟だし、伯爵様だし。
期待しちゃっても良いよね。
笑みを浮かべるそんな私を、カリネはジト目を向けてくる。
そんな目で見られる謂れは無いのだが?
ま、いいや。
せっかくチムちゃんが来たんだから、遊ばなきゃね!
「チームちゃーん!」
「ルーねーね」
私は
そしてすぐそばで待機するナムルに一緒にダイブ!
ぷるるん。
「今日も一緒にだらだらしようね!」
「う!」
尊い!!
可愛いかよ。
カリネやチムちゃんが来ようが来まいが、私のやることは変わらない。
本を読んだり、だらだらしたり、チョスしたり、だらだらしたり。
充実してるよね、私の生活。
これはリア充と言っても過言ではないのでは?
私はナムルの質感を堪能しながら、チムちゃんをお腹に天井を見上げる。
嗚呼、我は至福である。
「なぁルーナ?」
「んー? 筋トレ飽きたの?」
「い、いや、その話ではない!」
何をそんなに顔を赤くして。別に恥じることじゃないのに。
お貴族様、それも伯爵様の御息女様が暇な時間に筋トレをすることのどこに恥いらうポイントが?
触らぬ神に祟りなし? カリネは神ではありませんけど、何か?
ぷっ。
「おい、今馬鹿にしただろ」
「してない」
「ま、まぁそんなことはどうでも良いんだ!」
「どうでも良いんだ……」
私はカリネの話を聞くために、上体を起こす。
「で、どうしたの?」
「いや、ルーナは誕生日に欲しいものはあるのか?」
「お金」
「……」
キメ顔で答えたのに、あからさまに引かれたんだけど、なぜ?
食い気味の即答がダメだったのか?
「それ以外でないのか……」
「えー」
プレゼントかぁ~。
お父さんの時もそうだったけど、思いつかないんだよね。
正直、貴族が貰って喜ぶ物。宝石や壺、魔物の希少素材とか貰っても困るだけだしな。
うーん。
でもまぁ、カリネからもらえるのであればなんでも嬉しいかな?
初めて仲良くなった、同年代の子だし。
うーん。
「あっ!」
「な、なんだ!?」
私がいきなり大きな声を出したのに対し、カリネが驚く。
でもそれ以上に、私は私の考えに驚いていた。
欲しいもの、あったよ。
私は視線をしたに下ろす。
「私、チムちゃんが――」
「却下だ」
チッ。
流れ的にイケた気がするのに、即答かよ。
「じゃあ小説本、とか?」
「……じゃあ、それを私からルーナに誕生日プレゼントとして送ろう」
「ありがとう?」
「どういたしまして」
カリネは少しドヤりながら私に告げた。
その日は、談笑をしたりして解散した。
※
後日、私は柄にもなく深く考え込んでいた。
私は誕生日のことを楽観視していたのかもしれない。
それに、お兄ちゃんが帰ってくる情報も与えられ、他のことは考えられなかった。
私は次の誕生日で8歳になる。
一度お父さんの方に抗議したとはいえ、社交界デビューが10歳から始まってしまう。
私がお父さんに直談判した時の記憶が蘇る。
確かあの時、私は『私には礼儀作法はありません。勉強もしてません。そんな不出来な娘を社交の場に出したら、お父さんの顔に泥を塗ることになっちゃうよ?』と言った。
言ってる自分が情けなくなったから、かなり鮮明に覚えている。
それに対するお父さんの返事は、社交界が10歳から始まることを伝えてから『それまでに家庭教師をつければその辺の礼儀等はどうにかなる』とか言っていた。
間違いなく、言っていた。
私が、勉強? 私が、礼儀?
私に、家庭教師がつく?
いつ?
10歳までの期間を考えて、家庭教師が一年ってことはないよね。
短すぎるし……。最低でも2年……。
ってことはだよ、次の誕生日後。8歳になってすぐに家庭教師がつくことになるよね?
本気でなんとかしなきゃいけない。
早く私に見合ったチートを見つけて、私を家に置く価値を高めて、自宅警備員として独り立ちしなくちゃ。
「お嬢様、何をぶつぶつ言っているんですか?」
この後、私はロニーに本気で心配された。
怠惰の森の不動姫 アユム @uminezumi
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