35.お兄ちゃんが帰ってくるみたい

 お父さんに呼び出された私は、カリネとチムちゃんを一旦部屋に残してお父さんに会いに来た。

 どうやら私の誕生日が近いみたい。

 どんな誕生日がしたいと聞かれれば、身内だけの屋敷内で完結するごく普通な物を所望し。

 どんなものが欲しいか聞かれれば、正直にお金が欲しいと答えた。

 だって、今一番欲しいものは働かずしてお金を稼ぐ才能やチート能力なんだもん。

 ここがファンタジー世界だから、目とか手に邪神や龍が宿っても良いけどね。

 要するに、今現在の私にこれといった欲しいものはないのだ。

 だからこそのお金。

 貰って嫌な気持ちになる人間なんていないでしょ?

 子供らしくないって言うのは無しです。禁句です。

 じゃあ、唐突だけどここで問題です。デデンッ。

 誕生日にあまり嬉しくない物を貰いました。

 その感情を隠して、無理に笑顔を作る子供と、いらないと言う子供。

 どちらが子供でしょうか?

 答えは簡単、間違いなく後者だ。

 でも、流石にそんなことはしないよ?

 祝ってもらっている身で、プレゼントをもらって『いらない』とか言う子供は、私が地獄に叩き落とす。

 私が言いたいのは、どちらも嫌な気分せず、嬉しい結果に落ち着かせるにはお金ってこと。

 もし欲しいものができたら、それで買えるし。

 元から欲しいものがあるなら、お金ではなく現物の方が喜ばれるかもだけど。

 とにかく、そういうことなんだよ!

 蘇る前世の記憶、誕生日にネトゲ仲間からのプレゼントギフト。

 あぁ、あれは嬉しかったな。

 そして、話は終盤へと差し掛かる。


「そういえばなんだがな、がルーナの誕生日に久しぶりに帰ってくるそうだ。夏季に帰ってこられなかったから、会ってお祝いがしたいんだとさ」


 お父さんの発言に、私は首を傾げる。

 エリム……はて?

 どちらさんですか?

 聞き覚えのない名前だけど、夏季に帰ってこられなかった、か……。


「もしかして、お兄ちゃん?」

「そうだが。そうか、目が覚めてから初めて会うことになるのか」


 お父さんの大きな手が私の頭を優しく撫でる。

 なんだか、憂いに満ちた表情を浮かべるお父さん。

 私には転生して目が覚める前までの……、ルーナとして生を受けて私の目が覚めるまでの記憶がない。当然、お兄ちゃんの存在は知っていても、会っていないから記憶はない。

 そのことに負い目でも感じているのかな?


「お兄ちゃん、帰ってこれるんだ」


 お兄ちゃん……ということは、次期ゾルブ領領主にして伯爵位を継ぐ者。

 ということは! 私を養ってくれる、寄生主じゃないか!

 かなりの重要人物だった。

 というか、私はお兄ちゃんと会ってお兄ちゃん扱いできるかな。

 前世で、リアルでの同年代の男の人とは全く関わりなかったからな。

 強いて言うなら、プリントを前から後ろに配るくらい?

 ネットを介せばどうとでもなるのに。

 誤解しないで欲しいんだけど、別に男の人が苦手とかってわけじゃないんだよ。

 単に話すことがない、男性女性問わず前世では他人に興味がなかっただけだから。

 ま、それらが原因で学校には週2以上で通う健全なニートだったんだけど。

 なんか、前世のこと色々思い出すとネトゲが恋しくなってくるよ。

 はぁ……。

 それはそうと、私のお兄ちゃんはどんなお兄ちゃんなんだろう。

 目が覚めたばかりのころにロニーから聞いた話だと、お父さんお母さんに負けずとも劣らない甘々っぷりみたいだけど。

 もしかしなくても、重度のシスコンだったり?

 うん、いや、それはないな。

 私の脳がそれをすぐさま否定した。

 だって学校があるとはいえ、半年以上も会っていないんだよ?

 もし私がチムちゃんに半年以上も会えなかったら、寂し過ぎてポックリ逝っちゃう自信がある。

 どっちにしろ、警戒はしておこ。

 もしかしたら、学校で想い人ができてウチを継ぐんじゃなくて、嫁ぎに行っちゃうかもしれない。

 そしたら私はニート……じゃなくて、プロの自宅警備員として就職できない。

 それは困る。

 お兄ちゃんの今後や行動思考。将来についいて、最低限の注意警戒はしておこう。


 話がひと段落ついた私はカリネたちが待つ場所へと戻っていた。

 そんな中、一緒に歩くロニーが口を開いた。


「…………お……お嬢様」

「んー?」

「あの、ですね。いつまで”それ”にお乗りになっているんですか?」


 ロニーの視線は私の下へと向けられていた。

 ちょっと何を言っているかわかんないな。


「お嬢様」

「ん?」

「私室では構いませんが、旦那様や奥様にお会いする時。というより、私室にいる時以外はそのようなはしたない姿をお見せするのは……その、どうかと」

「……」


 ちょっと何言ってるか分からないな。


「お嬢様」

「んー?」

「私の言いたいことわかりますか?」

「ちょっとよく分から――っ!?」

「ナムル、とりあげます」

「ごめんなさい」


 私はロニーの気迫に負け、人を堕落させるスライムで全自動生活補助魔物のナムルからスッと立ち上がった。

 さっきお父さんとお母さんと話をした部屋で感じていた視線はロニーだったのか。

 だってさ、歩かなくて良いんだよ?

 こんなに私の意思を酌んでくれるのに、それを無碍にはできなかったんだよ。

 ロニーさんや。もう、私は反省してるからナムルを窓から捨てようとしないで!

 私はロニーの腰にしがみついた。

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