34.季節は冬

 収穫祭が終わって二ヶ月が過ぎた頃、私は私自身の価値を高める新たなる力の模索をしていた。

 題して、異世界チート探し第二弾! ドンドンパフパフ~。

 前回のチート、『料理』は私の性に合わなかったんだよ。

 そもそも、料理できない私が料理でチートを発揮しようとしたのが間違いだったんだ。

 だからこそ、今度は私ができる範囲で、現代知識を持って異世界チートで自堕落生活を手にするんだ!


「お……さ……」


 チート、次のチート、何かあるかな……。

 私は真剣に考える。いつになく真面目に頭を、脳細胞をフル活用して考える。

 目の前には踊るようにパチパチと揺れる暖炉の火が、そして手元には串に刺さったとろけかけているチーズが。

 拾った時と比べて更に大きく成長した、人を堕落させるスライムことナムルに埋もれながら、それはもう真剣に考えていた。


「はぁ、ここは天国か」

「……じょう…………ま」


 季節はすっかり冬。

 私はちゃんと、大真面目にチートを探す気はあるんだよ。本当だよ?

 でも、冬って動けないじゃん?

 寒いじゃん?

 だから、ダラダラしているように見えるかもだけど、私は真剣だということを信じて欲しい。

 それに、チートだって思い当たらなくもないんだけど。

 うーん。


「お嬢様!」

「わかった、聞こえてるよ!」


 はぁ。

 私の天国は儚い火花のように散っていく。

 私はナムルのお腹をつつき、呼びかけるロニーの方へ座ったまま方向転換する。


「……」


 なんかロニーの私を見る目が、日に日にダメな人を見るような目になってきている気がする。

 目つきが鋭かったり、何もかもを諦めたような表情をしていたり、そうかと思ったら顔を染めて視線を逸らしたり。

 まったく、私をなんだと思っているんだ!

 私は将来、武装しないこの屋敷専属のプロの自宅警備員なんだぞ!


「で、どうしたの?」

「……お忘れですか? 今日は週末ですよ。カリネ様やチム様がいらしました」

「おぉ!」


 もう一週間経ったのか。早いもんだな、一週間と言うのは。

 私は自宅を警備する者として、家から出ることはできない。

 しかし! しかしだよ!

 私はせっかくできた従妹のチムちゃんと離れ離れになりたくないのだよ!

 ついでにカリネも。

 だから、親戚同士もっと友好を深めるために毎週末にウチに来てもらっている。

 カリネが「こっちにも来たらどうだ?」と来る度に言ってくるけど、それはできないお願いなので聞き流しています。


「いれていいよ~。私も――」

「ルーナ!」


 いきなり部屋の扉が開かれた。

 前髪を綺麗に切りそろえられた、セミロングの赤っぽい濃い茶髪の可愛い同年代の少女。

 寒さ対策で、もこもこのコートを来ているのがまた愛らしい少女。

 そう、扉を開けたのは従姉妹のカリネだ。


「いつまでダラけているつもりだ! もうチムも来ているのだぞ!」


 口調が可愛くない。というか、私が言うのもなんだけど貴族っぽくない。


「な、なんだ。何か私の顔についているのか」


 私はカリネにジト目を向けるのをやめて、ニコッと微笑む。


「待ってたよー」


 嘘です、忘れてました。

 いや、待ってたのは嘘ではないな。うん。


「ネーネ、ルーネーネ」

「っ!?」


 私に天使が舞い降りた。……他意はないよ。

 カリネの足元にいるのは、可愛い従妹のチムちゃんだ。

 チムちゃんはカリネよりも髪色が明るい赤髪で、最近前髪の一部分が金髪になってきていた。

 ハンブルブ家の奥方、チムちゃんたちのお母さんの金髪遺伝子がそこに出たのだろう。

 まぁ、それは置いておいて。

 とにかく今は、何もかもが可愛いチムちゃんが私のことを”ルーネーネ”と呼んだことが大事なんだよ!

 まだ言葉をあまり喋れない、数少ないレパートリーの中に私が入り込んでいる。

 本当に可愛い、超可愛い、マジ尊いよ!

 私は人をダメにするスライムの魔の手から、なんとか腰を浮かしチムちゃんに抱きついた。


「お姉ちゃんだよ~」

「あひゃっ。キャッキャ」

「ルーナ……」


 あぁ、我が妹が一番可愛い。

 毎週末に来てもらっている甲斐があるってもんだよ。


「あ、そういえばお嬢様」

「なに?」

「カリネ様やチム様が来たばかりですけど、先程旦那様が呼んでおりました」

「えー」


 お父さん、最近私と会話する時べったりなんだよねぇ。

 ロニー曰く、週末はカリネやチムちゃんと遊び、他の日はダラダラ過ごすかお母さんとチョスするかで、お父さんに構ってあげていないせいだって言うんだけど。

 ロニーはかなり早い段階でナムルになれたのに、お父さんは未だにナムルのこと警戒しいているしなぁ。

 まぁナムルに対する扱いはロニーの方が雑だけど。

 今は例外として、私は基本ナムルと一心同体になりつつあると言うのに。


「どんな用件か分かる?」

「多分ですけど、お嬢様のお誕生日が近いのでそのことでしょうか」

「誕生日?」




 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 最近のお嬢様はたるんでいる。

 なのに、今のダラダラしているお嬢様は以前にも増して愛おしい。

 気が緩むと、つい表情が緩んでしまう。

 私は頬をパンと叩く。

 今日こそ、今日こそは注意せねばいけない。

 お嬢様の誕生日も近い。その上、あと約2年後の社交界までには私たちの大事なお嬢様が恥をかかないよう教育もしなくはいけない。

 でも――…

 私は扉を開け、お嬢様のいる部屋へと足を運んで息を飲んだ。

 ナムルと名付けられた得体の知らないスライムに全身を預け、暖炉の火を眺めながら何かを考えている様子のお嬢様。

 火の暖色と外の白い光によってまるで夕日と朝日を混ぜ合わせたかのような輝く銀髪。

 溶けたチーズを口に運び、小さく整った桜色の唇に橋がかかる。

 それは、息を飲む幻想的な光景だった。

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