33.新しい家族

「私は反対です!」


 スライムが卵を捕食して数分、ロニーの猛反発が始まった。


「それは魔物なんですよ、お嬢様。人間に害を成す存在なんです」

「これが?」

「うっ」


 私は大きくなったスライムをつまみ上げ、ロニーに見せつける。

 私を心配してくれるのは嬉しいけど、さすがにこんなぷにょぷにょに対して危ないって言われると、それはそれで虚しくなってくる。

 私はそんなに虚弱に見えるのだろうか?


「だ、旦那様からもなんとか言ってください!」

「うーん」


 お父さんはずっとこんな感じで、唸り声の様なものをあげて返答しているだけ。

 ちなみにお母さんは私サイドだから、問題ない。


お前ロニーの意見も分かるし、私も心配ではあるんだがな……」


 お母さんと私をチラ見した後、再度スライムを視る。


「要監視対象として対処すれば、きっと……多分、大丈夫であろう?」

「旦那様!」

「そんなことより、ルーナ。この子飼うんだったら、ちゃんと名前を決めなきゃダメよ?」

「奥様、まだ飼うと決まったわけでは――」

「名前?」

「そう、ペットとはいえ家族にするんでしょ?」

「わかった」


 ロニーの声が遠ざかっていく。

 ごめんねロニー。

 でも、私がこんな事態を招いたわけじゃないんだよ?

 だから、怒らないでね? その短気なところ直していこうね!

 それにロニーは、ちょっと神経質になりすぎなんだよ。

 卵を取られたのがそんなに悔しかったの? それとも、本気でスライムこれが危険だと思うの?

 多分だけど、憶測だけど、これの攻撃力皆無だよ?

 このスライムボディーからパンチされても全く痛くないでしょ?

 それはそうと、名前だよ。名前を決めなくちゃ。

 スライムと言われて、まっさきに思い浮かぶのは国民的RPGのドラクエのモンスターだろう。

 あのスライムのくせにとんがった頭を持った、ニコニコした奴。

 で、たしか名前はスラりんとかだっけ?

 他でスライムで思い当たるのは……転生したらスライムだった件のリムルかな?

 私的にはリムルって名前の語呂とか語感は可愛い感じがして好きだけど、流石に一緒は……ね?

 一文字捻ってナムルとかどうかな?

 いい感じじゃない? ナムル。

 ナムル……。

 あれ? そんな名前のお惣菜なかったっけ?

 でもまぁ、このスライムは植物系のなんかの卵を食べたわけだし、いつの日か極上の食材へと進化を遂げるやもしれない。

 最悪非常食として活躍できるかもしれない。

 うん、決定だね。

 私は卵を食べて少しだけ大きくなったスライムを抱き抱える。


「これの名は”ナムル”にする!」

「意味は?」

「ん、特にないよ? なんとなく頭に浮かんだから、決めたの」

「そう、いいんじゃないかしら」


 お母さんは笑顔でナムルという名前を聞き入れてくれた。

 屈んでナムルをぷにゃるお母さん。


「私も異論はない。が、ルーナ。これだけは約束してくれないか?」

「約束?」

「もし、ルーナに危害を加えたら、即刻そのナムル? は討伐する」

「いや、私は別にいいんんだけど……」


 お父さんから出された条件のような約束に、私は顔を引きつらせた。

 私も名付けの時点で、食材になるかもとか思っていたから別に討伐されること自体に反対はしない。

 けどさ、名前つけた理由忘れたの?

 家族にするんじゃなかったの?


「ロニーもそれなら納得いくか?」

「……はい」


 渋々といった感じで、首を縦に振るロニー。


「よかったわね!」


 こうして、私たちに新しい家族ができた。

 その後、ロビーに向かうと帰り支度を済ませたハンブルブ家が待機していた。

 チムちゃんを待たせちゃったことに、少し罪悪感。

 私はナムルを手放し、チムちゃんに向かって走り出した。


「チムちゃーん! お姉ちゃんのこと忘れないでね! いつでもウチに来ていいから。カリネが意地悪したらちゃんと言うんだよ?」


 まだ乳離れしていない従妹に抱きつき頬擦りする。

 ナムルと違って、暖かい。あとミルクの匂いがする。

 次に会えるのはいつかな。

 私はいつでも家にいる、というか家にいることが自宅警備員としての仕事だから外に出れない。

 だから通ってもらうことになるのか……。

 毎週末には来てもらおうかな。


「ルーナ、チムは私の妹だぞ」

「まぁまぁ」

「はぁ……。それより、あのスライムの処分はどうなったんだ?」

「家族になったよ」


 カリネは特に驚いた様子は見せなかった。

 結果を知っていたかのような落ち着いた様子だ。


「そうみたいだな」


 お母さんがナムルを抱えて、ロビーにやってきたのを見て呟くカリネ。


「なぁルーナ。あのスライム大きくなってないか? 本当に危険じゃないのか?」

「大丈夫だよ。良い魔物の卵を食べて大きくなっただけだから」

「良い魔物ってなんだ……」


 ジト目を向けてくるカリネに、私はチムちゃんから一度離れる。

 良い魔物がなんなのかなんて、そんなこと知るわけがないじゃん。

 ロニーからの説明途中でナムルが食べちゃったんだから。


「ちなみになんだが……」


 カリネはさっきの態度とは打って変わってモジモジし始めた。


「それは、その、獣系統だったか?」

「分かんないけど、多分違うと思うよ。植物系統だってロニーが言いかけていたから」

「そ、そうか」


 少しホッとしてる?

 たしかカリネは、食堂にある趣味の悪いキモい魔物の生首の壁飾りに対して『素敵だな』とか言ってたっけ。

 もしかしなくても、動物が好きとか?


「カリネは、動物が好きなの?」

「な、何を言っているんだ! 馬鹿を言うな!」


 なぜか声を荒げられた。

 そんなに恥ずかしいことではないだろうに。

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