32.所詮スライムだよ?
「拾っただと?」
「えっ、何をそんなに驚いているの?」
私、何もおかしなこと言ったつもりないんだけど?
だって、所詮スライムだよ?
しかも、ファンタジーといったらその名を聞かないことの方が珍しいほどの、超有名なモンスター。
こっちの世界で読んだ小説にも大抵出てくるメジャーなモンスター。
少なくとも、ウチの食堂に飾られている生首の壁飾り以上には変ではないよね?
「ルーナ、そいつは魔物だぞ」
「うん。そりゃ知ってるけど……」
魔物は恐ろしい物なんだろうけど、このスライムは……。
うん、無いな。
人畜無害感が醸しでているし、実際昨日一晩枕にしたけどなんともなかった。
むしろ、筋肉痛さえ目をつぶれば快眠できたと言って良い。
私は頭に乗っけていたスライムを持ち上げる。
両手の隙間から、少し下に垂れ下がるスライム。
捻って抓って引っ張って顔をスライムに押し付け。
「ね?」
「「……」」
その後は、ハンブルブ伯爵一家は何も言わなかった。
終始カリネの両親から、怪訝な視線を受けながらだったけど、私はそれなりに食事を楽しめた。
そういえばチムちゃん……これでしばらく見納めになっちゃうのか。
結局従妹のチムちゃんよりも、同い年で従姉妹のカリネとばっかりいたような気がする。
最後は、最後くらいは。
私はチムちゃんを膝の上に乗せ、カリネ達との最後の
食後、私はお父さんとお母さんに呼び出された。
扉を開けるとオロオロした様子のお父さんと、少し驚きつつも興味津々な様子で私を見るお母さんと、少し遅れて入ってきたロニーがいた。
どうせ、みんなもスライムについて聞きたいんでしょ?
分かってるよ、カリネと同じ顔になってるもん。
「ルーナ。それは、スライムだよな」
お父さんが心配そうに言ってきた。
ほら、ね?
何をそんなに怯える必要があるの?
魔物だから? 何度も思うけど、これはスライムだよ?
私からしたら犬や猫の方が危険だと思うの。牙や爪もあるし、臭いし、うるさいし。
比べてスライムはどうよ?
はぁ、融通が効かない大人にはなりたくないね。
「これはスライムだよ」
「なんでそれを」
「お父さん! これはスライム。あの有名なスライム。ちゃんと見て、問題ありそう?」
「……」
お父さんは黙りこくってしまった。
心配なのはわかるけど、別にそこまで大事にすることではないはず。
ドラゴンを連れてきたんじゃあるまいし。
「ルーナ?」
「ん?」
次はお母さんからだ、けど……。
「その子、貸してくれない?」
お母さんは両手を伸ばす。
これは、同族の目だ。やっぱ、スライム気になるよね!
「はいっ」
私はお母さんにスライムを手渡した。
するとお母さんは引っ張ったり、捻ったり、揉んだりして危険じゃないことを確認してから頬擦りし始めた。
「お嬢様……。そのスライムが危険じゃないことはわかりました。昨晩も一緒だったみたいですし」
「えっ!?」
ロニーの発言にお父さんが驚くが、それは放置しておこう。
危険じゃないって知ってもらっているなら、これ以上お父さんを説得する必要はないし。
「私が知りたいのは、そのスライムをどうするおつもりなのか、です」
あー、えー、うーん。
知らん。
無責任だけど完全に興味本位で拾ったっだけで、後先のことは考えていなかったな。
取り上げられても、困る物ではない、けど……
ひんやりしていて、プルプルで、程よい弾力もあって、安眠グッズどして使えないかなって思っているんだよなぁ。
というか、地球人だったら普通にスライムを見つけたら捕まえない?
捕まえないか、うん。
「ルーナ、ペット欲しいって言っていたわよね?」
「あーうん、まぁ」
確かにそんなこと言っていたな。
忘れてたけど。
スライムがペットか。
私の枕なんだけど……ペットか。
「待ってください。その件でお話があるのです」
ロニーは持っていた鞄の中から、タオルに包まれた球体を取り出した。
「これは、昨日お嬢様の借りたお金を支払いに行った時に、賭博場支配人の方にいただいた物です」
そう言いながら、ロニーはタオルをほどきスイカくらいのサイズの卵を取り出した。
「こちらでこの卵について調べましたが、問題はないとの結論に至っています。調べた結果ですが、これは植物系統の魔物の卵。害どころか、益をもたらす存在の卵でした。もし、ペットが欲しいのでしたら――」
ロニーが早口で喋っている途中で、その卵とやらは消えた。
正確には私が拾ったスライムに喰われた。
「「……」」
ロニーの口がパクパクしている。
こんなロニー初めて見た。
って、え? なんで私見るの?
私のせいじゃなくて、そのスライムの独断だよ?
私ちゃんと話聞いてたし。私悪くないよ、ロニー。
微妙な空気が私たちの間に漂いながら、スライムの体内で卵が跡形もなく綺麗さっぱり消滅した。
それと同時にスライムが少しだけ大きくなった。
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