31.収穫祭のその後

 次の日、私は全身筋肉痛に見舞われた。

 特にお尻が痛い。うつ伏せじゃないと寝れないぐらいヒリヒリする。

 あれだけ街中を歩きまわされ、挙げ句の果てには長時間椅子に縛りつけられたんだよ?

 当然の結果だよね。

 これが労働した証というやつか。

 昨日のミスター&ミスコンについてだが、結果は昨年と変動なしで時間の無駄と言わざるを得ない結果に終わった。

 先に行われたのがミスターコン、次にミスコン。

 各2,30組のエントリーで、最後の出場枠に昨年度受賞者の二人が出る。

 中には完全にネタ枠として出場している人もいたけど、まぁ簡単な流れだったけど長い時間拘束されたわけだ。

 かなりの時間はかかったし、ずっと座って他人を評価しないといけなかったし、眠ったら後ろに立つロニーに起こされたし。

 もっと言えば賭博場では利益でなかったし。

 はぁ……。

 私は息を吸い込み、両膝を地面に着く。

 そして――


「なんの成果も得られませんでした!」


 叫んでみた。

 最後の方で、私もミスコンに参加させられそうになったけど、それだけはなんとか回避できた。

 私はしっかりと審査員という名の仕事を真っ当したんだから、それ以上の労働は不要でしょ?

 コンテストは閉幕しても、熱気が治まることはなくしばらく舞台は人に囲まれて大変だった。

 その後は伯爵家の娘としての任務は無いみたいだったし、疲れたから私はみんなよりも先に家に戻ってきた。

 それが昨日の最後の出来事だ。

 そういえば、たしか今日でカリネ達は自領に戻っちゃうんだっけ?

 昨日は結局あの後会えてなかったし、挨拶くらいはしておこうかな。

 一歩一歩が筋肉を刺激し痛いけど、私は我慢して部屋を出た。


「お嬢……さ、ま?」

「あ、おはようロニー」


 相変わらず、ロニーが私の部屋の前で出迎えてくれた。


「……お、おはようございます」

「ん? どうかした?」

「いえ……」


 ん? どうしたんだろう?

 ロニーの視線がキョロキョロと動き続けている。

 何か変なところはあっただろうか?

 私は自分の髪を手櫛で梳き、着ている服にも視線を落とす。

 いつもはパジャマだけど、昨日は疲れていてそのままの格好で寝ちゃったから変ではない、はず。

 何が原因なのか心当たりがないんだけど。

 まぁ、いいか。

 それよりも今は、カリネとチムちゃんだ!


「今カリネ達ってどこにいるか知ってる?」

「……カリネ様はおそらく食堂にてご食事中かと」

「そっか、ありがとう」


 食事中かぁ。

 今はあまりお腹空いていないけど、私もついでにご飯にしようかな。


「じゃ行こっか」

「お、お嬢様。えっと、その、その子? と一緒に行かれるのですか?」

「うん」

「……さ、左様ですか」


 今日のロニーはどこか変だ。

 なんか、私と会話しているのに私を見ていないというか。

 もしかして、昨日の賭博場の事でまだ怒っているのかな?

 一番心配してくれたみたいだし。

 でもなぁ……。

 ロニーを見るが、そんな感じでもない気がする。

 いつもみたいに、身嗜みに関しても何も言ってこないし。

 今日のロニーはやっぱり変。

 体調でも悪いのか、それとも昨日の収穫祭で何かあったのか。

 うーん……。

 私は首を傾げながら、食堂に向けて足を進めた。




 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 今日で私たちは自分の家に帰る。

 そうだというのに、今日はまだルーナを見かけていない。

 従者に聞いても、まだ寝ているの一点張りだ。

 もう昼時だぞ?

 いくらなんでも寝すぎではないか?

 そう言っても、困った顔をされただけだったけど。

 昨日はいつのまに帰っちゃっていたし。

 せっかくルーナをミスコンに推薦しておいてあげたのに、出ないまま終わっちゃっていたし。

 せめて帰る前には礼というか、挨拶くらいはしておきたかったんだがな。

 そんなことを考えていたら、扉をノックする音が聞こえてきた。


「失礼しまーす」


 現れたのはルーナだった。

 ルーナだったんだけど、探していた、待っていたルーナだったんだけど。

 それ以上に気になることがあるぞ?


「「……」」


 お父様もお母様も戸惑った様子で、ルーナと私を交互に見ている。

 私にそんな目を向けられても知らない。

 でも、そうだな。気持ちはわからなくない。


「……ルーナ」

「ん?」


 本当に何もわかって分かっていないのか、キョトンとした表情で首を傾げている。

 違和感しかないんだけど。

 私はルーナの頭上を指を差して、口を開く。


「その、それはなんだ?」

「ん? あー、この子? 拾ったんだよ」

「……」


 ………………………………は?

 私たちの食事している手は止まったままだ。

 いや、時が止まったのかもしれない。

 そんな感覚に陥った。

 拾った、だと?

 何を平然に言っているのだ?

 ルーナの頭には青いプルプルした流線型の粘性魔物、スライムが乗っかっていた。

 魔物とは基本討伐対象で、人間に害をなす存在だ。

 ルーナの頭の上に乗っているのは、人の頭よりもひとまわりくらい小さいサイズだが、物理は効かないし、悪食で触れる物全てを食い溶かす厄介な存在だ。

 それを、拾った?

 ここの屋敷の人間はそれを黙認しているのだろうか?

 私にはわからない。理解できない。

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