30.収穫祭へ③
時は流れすっかり日が暮れた夜。
街はいまだに明るく、この日最もな盛り上がりを見せていた。
至る所で多種多様なコンテストも開かれている模様。
それは収穫祭にちなんで大食い/早食い大会だったり、料理大会だったり。
冒険者っぽい人たちによる、今日討伐してきた一番の大物を決める大会だったり。
他にも、売り上げ一番の商店だったり、酒豪コンテストだったり。
とにかく、そこらじゅうで歓声が聞こえるくらいには盛り上がっていた。
一方で私はというと、盛り下がっていた。
理由は単純明快、働かなくてはいけなくなったからだ。
どうも、私が賭博場で遊んだ罰だとかなんだとか。
どうやら借金をしたことよりも、そこで子供だけで遊んだことを注意された。
遊んじゃダメな所を領都に置くなよ! っておもったけど、それも後の祭りである。
私は三度の飯より労働が嫌いなのだ。
それなのに、それなのに……。
何が領主の娘としての役目だ!
何がこういった経験も大事だ!
私は納得いってないぞ!
カリネは自業自得だって言うし、チムちゃん連れてどっか行っちゃったし。
今、私はとある舞台の上に、お父さんとお母さんと一緒に立っていた。
それと言うのも、収穫祭の数あるコンテストの中で最も人気があり白熱する物。
領内ミスター&ミスコンテスト紛いの審査員兼舞台挨拶係だ。
そう、まったく収穫祭関係ないのだ。
他所でやってよ。
ってか、どこに領主娘としての役目があるんだよ。
「只今より、収穫祭目玉イベント。今年度のミスター&ミスコンテストを開催いたします!」
『うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
空気は揺れ、大地は割れんばかりの大盛況。
ぎゃーっ。こ、鼓膜がーーーー!
耳を両手で押さえるが、なんの意味もない。
なんでみんな平気なの!?
本当に他所でやって!
「まず初めに、我らがゾルブ領領主様のご挨拶です!」
私が参加する意味が謎。
挨拶はお父さんが、審査員長はお母さんが、私は……マスコットか何かか?
お父さんの挨拶は滞りなく進み、次に大会のルール説明へと移った。
しかしそれも想像通りで、候補者が順番に舞台へと上がり投票するというものみたい。
私はこんな大会の何が楽しいのかわからない。
まだ、ハブ対マングースの沖縄デスマッチを見ていた方がマシだ。
見たことはないけどね! というかもうやってないんだっけか?
そのくらい、このコンテストは私にとってどうでもいい。
はぁ……。
「続きまして、審査員の紹介でーす!」
『うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
「まずは、この大会の創設者! 我らが領主、バン・フォン・ゾルブ伯爵ー!」
『うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
まさかの身内!? 創設者が父!?
何、暇なの? 暇だったの?
この祭りって収穫祭って名前だったよね?
名前変えて文化祭にしたらいいと思うよ。
お父さんは、舞台の端に用意された審査員席の中央の位置から立ち上がり、一礼して席に着く。
「次にぃ、初代ミスコン受賞者にして、3年連続受賞で殿堂入りなされた銀姫! 我らが領主の奥方様、レイナ・クリエルド・ゾルブ伯爵夫人!」
『うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
また身内!?
というか、すごく恥ずかしいんだけど!
なんなんだこの辱めは。羞恥プレイがエグいよ!
帰りたい、すごく帰りたい、今すぐにでも帰りたい。
想像して見てよ。自分の母親がミスコン殿堂入りと、街のど真ん中で叫ばれる気分を!
確かに、私のお母さんは自慢だし、可愛いと思うけど、それはそれこれはこれだよ。
しかも、三年連続て、銀姫て。お母さんも何してんの!
お母さんもお父さん同様に席を立ち上がり、ニッコニコな笑顔で一礼して席についた。
「次は昨年度のミスコン受賞者! 実家の定食屋で給仕をする下町の天使! イナミ・クロヴェール!」
『イ・ナ・ミ! イ・ナ・ミ! イ・ナ・ミ!』
恥ずかしそうに耳まで真っ赤な顔を伏せ、フルフルと立ち上がる王冠を被ったイナミさん。
年は15,6歳といったところだろうか、綺麗な夜空のような藍色のストーレートの髪の毛、整った顔立ちと抜群のプロポーション。
そして何より声が可愛い。
学年というよりは学校単位で一人はいるレベルの美少女、それが彼女イナミさんだ。
うん、確かにすごく美人さん。
だけど、多分この子の意思でここに立っていないんだろうな。
勝手にエントリーさせられて、受かっちゃった的な?
私も、罰として労働させられてここにいるんだよイナミさん。
嫌々という同じ境遇の人間として同情するよ、うん。
「そして、同じく昨年度のミスターコン受賞者! 顔よし中身は、まぁよし。冒険者としても腕が立ち、求婚者が後を立たないと噂のこの男! ガッカリイケメンのケイル・サイリーン!」
『チッ』
『きゃああああああぁぁぁぁーーーーー!』
歓声の色が変わった。完璧に二分化したな。
ケイルさんは高身長で金髪碧眼、男性陣が嫉妬するレベルのイケメンだ。
冒険者としても腕が立つなら、金銭面でも優秀だろう。
あれ?
どこがガッカリなんだろう?
「みんな! 僕の勇姿をしっかり見ててね! 子猫ちゃんの剣は僕の剣が受け止めてあげる! 僕は凹でも凸でも、可愛い男の子ならウェルカムだよー!」
『……』
『きゃああああああぁぁぁぁーーーーー!』
うん、察しました。
ケイルさんの挨拶で、いくつかの見物客の男性が自分の下腹部を隠しながら顔を青ざめさせていた。
多分だけど、そういうことだろう。
いいんじゃないかなと思うよ。
人の好みはそれぞれだし、女性見物客はそれを知っていて歓声をあげている気がしなくもないし。
「最後になりますがこのお方! 我らが領主、そして銀姫の娘。本日賭博場でのひと騒ぎの張本人である、息を飲む絶世の美少女! ルーナ・フォン・ゾルブ!」
『うおぉぉぉぉーーーーーーっ!!』
……。
この辱めは労働以上の罰でしょ。しかも、賭博場のひと騒ぎって何?
少しだけ泣いちゃったけど、それのこと?
あれは悔し涙というか、目汁がとめどなく溢れてきて争えなかったというか。
「ルーナ様ー!」
「マジ天使、来たコレ」
「こっち見てくださーい」
……。
だからお願いかかわらないで、そっとしといてくださいな
だからお願いかかわらないで、私のことはほっといて
私の脳内で、そんな歌詞が流れた。
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