四月の雪花

水定ゆう

嘘と雪花

 その日はある晴れた午前だった。


「ちょっと待ってよ、ヒビキ!」

「ん?」


 ヌリエは前を歩くヒビキを呼び止めた。

 その後ろでネコは眠そうにしながら、ヌリエに追いつく。


「歩くの早いよ。もう少しゆっくり行こ」

「そんなこと言ってたら、お花見の場所、なくなっちゃうよ」

「それはそれからはこれ。ほら、ネコこんなになってるよ」


 ネコはグデーンとしていた。

 しかしヒビキはそのことにまるで驚かず、


「いつものことだろ」

「まあ、そうなんだけど……」


 結果2人とも話を流した。


 私達はせっかく近くの桜が満開なので、お花見をしに行くことにしていた。

 だからこんな朝早くに起きたのに、皆んなバラバラいつものことだった。と、ヌリエは思う。

 そんな中、ふとネコが視線を左に向けると、そこには空き地があって、誰かがいた。


「あれは?」

「「ん?」」


 ヌリエとヒビキも釣られて視線を移す。

 するとそこには少女の姿があった。白いワンピースを着たか弱い少女で、その視線は何処を向いているのか。ゆっくり折っていくと、そこには白い小さな花弁を揺らす木があった。


「あれは……」

「雪花だよ。確か、妖怪の花」


 ヌリエは知っていた。

 あれは雪花と呼ばれるほんの一日だけ咲くと、すぐに散ってしまう花だと。

 それこそが妖怪、雪花。そっち界隈かいわいだと、決行有名なものだった。


「なんであんなところに女の子がいるのかな?」

「聞いてみよ」


 ヌリエは3人を連れて、空き地に入る。

 するとそこには少女が1人ぽつんとしていて、声をかけた。


「なにしてるの?」


 代表して、ヌリエがそう尋ねた。

 すると、可憐かれんな声が返ってきた。


「私ね、ずっとこの花が咲くのを待ってたの。ずっと、ずーっとね」

「そうなんだ」


 ヌリエは優しく声をかける。

 しかし少女は話をやめない。


「でも、1人で見るのは寂しかった。誰かと一緒に見たい。そしたらお姉ちゃん達が来てくれたの。ねぇ、お姉ちゃん達。一緒に見よ」


 そう言ってくれた。

 その顔色は少しもの寂しげだった。それを聞いて、先にヒビキが返す。


「いいよ。私達もちょうどお花見に行こうと思ってたから。2人もいいでしょ」

「うん。問題ないよー」

「構わないかな」


 3人とも同意した。

 すると少女は笑う。そして、


「ありがとう」


 そう口にしていた。

 それから3人は少女と一緒に、咲くのを待った。少女の曰く、もうじき咲き誇るとのことで、少女はその瞬間を今か今かと待ち侘びていた。


「ねぇ、どうしてこの花が好きなの?」

「だって綺麗だから」

「綺麗?じゃあ君は、前にも見たことがあるのかな?」


 ネコはそう尋ねた。

 しかし少女は首を横に振る。


「ううん。でも聞いた話だと、そうみたいなの。だからずっと楽しみだった」

「そっか。それは楽しみだね」


 そう口にした瞬間、


「あっ!?」


 ヌリエは叫んだ。

 目の前で雪花が満開に咲き誇る。

 しかしそれは同時に、雪花の終わりを意味していた。


「これでいいんだよ」


 少女は笑う。

 その笑みは薄らとしていたけれど、とても穏やかなものだった。


「お姉ちゃん達、ばいばい」


 少女は最後に笑う。

 その光景を目の当たりにして、3人はただただ感極まっていた。

 そうして少女がいなくなると、花は瞬時に散ってしまった。

 そうして、先に口にしたのはネコだった。ネコは、いや3人は気づいていたのだ。あの少女は人ではないと。そして、この世界そのものの真実が、


「まあ、この世界そのものが嘘なんだけどね」

「そうなんだよね」

「うん」


 3人は気づいていた。

 ここは夢の世界だと。だからこれは優しい嘘なのだ。

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四月の雪花 水定ゆう @mizusadayou

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