実は強い系主人公と俺(3)

 異世界に召喚されて二日目。

 王女、魔族に拉致られる。

 勇者でもない異世界人を今は構う余裕がないのだろうが、部屋に放置というのはなんとも異世界味が無くつまらない。


 俺が勇者とかだったらここで手を貸してくださいとか頼まれるのかもしれないが、平々凡々な俺のスキルでは荷物になる未来が目に見える。

 今の俺にできることはぼんやりと窓の外を眺めるくらい。


 そう思っていたらメイドさんがやってきてついてくるよう言われた。

 同様に渡司と利絵も呼び、何食わぬ顔でメイドさんは村田の部屋を通り過ぎる。


「村田は呼ばなくていいんですか」


 俺の問いかけに一瞬足が止まったものの彼女は何も言わず歩き出した。

 これ以上聞くのは地雷を踏み抜きそうな気がして、何か言いたげな利絵の口を塞いで、彼女の後ろを続く。


 そうして案内されたのは召喚された時のどでかい部屋だった。

 いるのは王様と重装甲な騎士が一人。

 ひりついた空気が漂う中、王様が頬杖をつき神妙な顔つきで口を開く。


「単刀直入に言う。君たちにも娘の救出を手伝って欲しい」


 嫌ですと言いたいところだがこの空気感で言えるはずもなく。いきなり争いとかはちょっと……とやんわりと断ろうとしたら、まさかの横槍が飛んできた。


「分かりました。任せてください」


 そう名乗りあげたのは異世界に来てから完全に空気と化していた都司だった。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 慌てて二人の間に割りこみ都司を部屋の端に引っ張る。


「おい、どういうことだよ」

「どうもこうも困ってる人がいたら助けるのは当然だろ?」

「地球でする人助けとは訳が違うんだぞ。命かけてまでその王女とやらを救いたいのかお前は」

「修平こそ大丈夫か? 異世界なんてあるわけないだろ。寝言は寝て言え」

「いや、昨日の出来事思い出せよ。いきなり見知らぬ場所にいて騎士みたいなやつもいる。昨日食った飯も地球では見たことないものばっかりだったろうが」

「高校生を主役にした大掛かりなドッキリかなんかじゃないのか」

「その可能性も十分ないわ」


 都司の反応を見る限り冗談を言っているようには見えない。

 確かに都司はアニメとか見なさそうなタイプだが、当然とばかり思っていた大前提が異なっているとは思ってもいなかった。ただ、こうなると利絵とも認識の差があるのだろうか。


 と、考えることに集中するあまり隣にいたはずの都司が居ないことに気づいたのは都司が了承の旨を伝えた時だった。


「感謝する」


 そこで俺たちの謁見は終了した。

 後で遣いを寄越すと言い残し俺たちはそれぞれの部屋に戻される。道中、仲間と話がしたいとメイドさんに伝えるも、今は無理の一点張り。勇者という訳では無いのにいきなり魔族と戦わされることになって、不安を抱えながら部屋に入ると村田が当然のようにくつろいでいた。


「あ、おかえり。あいつらなんて言ってきた?」

「その前になんでここにいるのか話せよ」

「おきたら誰もいなくって、気配辿って盗み聞きしてたら国王の側近の騎士にバレてここで待機していた」

「なるほど。じゃあ起きたこと簡潔に話したら出てってくれるか?」

「……そんなに避けなくてもいいじゃないか」

「なら、持ってる暗器全部出せ。そしたらひとまず信じる」

「……」


 村田は少し考えた素振りをして昨日見たナイフを床に置いた。


「それだけか?」

「今はこれだけしか持っていない。信じてくれ」

「はぁ分かった」


 正直まだ持っていることを疑っているが、早く帰って欲しい一心でさっきの出来事を話した。


「あの野球部やばいな」


 こればっかりは村田と同意見だ。

 都司のことは表面的なことしか知らないが直情的で自分の見たいものしか見ない、そんな感じの性格だ。今までならばクラスメイトとして接していればよかったが異世界に召喚された今は控えめに言って厄介極まりない。


 さてどうしたものか、と考え込んでいるとコンコンと扉が鳴った。


「在田様よろしいでしょうか」


 もう時間なのか。

 村田にどっか行けと言おうと振り返ったら既に村田は姿を消していた。


「相変わらず仕事が早いこって……」


 次からは勝手に入られないように部屋の窓を閉め、部屋を出た。

 朝と変わらずメイドが俺を待っていて俺はとある部屋に案内される。そこは一言で言うと運動部の部室。ただ、木剣や先の丸い槍、弓などの様々な武器が揃えられていて暑い、臭い、かっこいいが詰まった部屋だった。


「在田様にはここから手に馴染む武器を選んでいただきます。本来であれば基礎訓練をこなしてから実践となる手筈だったのですが、状況が状況なのでご了承ください」

「今更なんですけど、他三人がここに居ないのはどうしてなのでしょうか?」

「立花様(利絵)は回復職かつ小柄な女性ですので武器は不要。都司様は球状の投げ物をご用意しております」

「……それであとは俺だけだと」


 メイドは無言で頭を縦に振った。

 彼らにとって村田は戦力外として扱っていくことに決まったのだろう。その行動が村田にとっての最善であるということを当然彼女達は知らない。

 俺自身も村田のことはいまいち信用できなくなっているため、ここは頭を切り替えてこれからのことを考えよう。


 まずは武器をどうするかだが、これに関しては俺の中で既に決まっていた。






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モブだけどトラブルに愛されすぎて主人公達を蹴落としてた件 世良 悠 @syuumatudaidai92

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