実は強い系主人公と俺(2)
「在田か。こんな時間にどうしたんだ?」
「いや、それはこっちのセリフなんだが。ナイフ持って何やってんだよ」
「あぁこれ? 護身用に一本拝借してきたんだよ」
「護身用って……。実はトイレの帰りでした、なんてことは無いのか?」
冗談めかして言う。
笑い話で済んでくれればそれでいい。のだがーー
「そんなわけないじゃん! てか、在田ってそっちが素なの?」
「どうでもいいだろそんなこと。今は俺が質問してるんだから答えろよ」
「おお~怖っ。そんな睨むなって。飯食う前に言っただろ? この国のことを探ってたんだよ」
「無能力者のお前がか?」
俺がそう尋ねると何がおかしかったのか村田はくつくつと笑いを堪えていた。
「何がおかしい?」
「あー本当に在田ってば何も知らないんだな。信用もくそもない相手に個人情報明かすバカがいるかよ」
ふと村田の視線が俺の斜め後ろを捉え釣られて振り向いた瞬間、さっきまで俺がいた場所を銀色の軌道が横切った。
間一髪。そう思っていたが制服の袖が僅かに引き裂かれ血が滲んでいる。
「元クラスメイトに躊躇いってもんはないのかよ」
俺じゃなかったら怪我では済まなかったぞ。
というかどうして俺はこんなバトル漫画をしているんだ。トイレに行きたかっただけなのに。あ、やべ意識しちゃったから尿意が蘇ってきた。
そういえば俺のスキルに身体強化とかあったな。
この世界に来てから何だか体が軽いとは思っていたけど、これが限界なのだろうか?
魔法の使い方なんて知らないが何となくでできないだろうか。
こう足に力を込めて、ぐんっと走るイメージでーー
え?
距離が離れていた村田はいつの間にか目と鼻の先にいて。何が起きたのか、それを理解するよりも俺と村田が衝突する方が早かった。
ゴンッ。
頭同時がぶつかり俺達は揃って意識を失った。
☆彡
何やら周囲が騒がしくて眠っていた俺は目を覚ます。
利絵の顔が目の前にあり、いろいろな考えが頭を駆け巡った結果「は?」と抜けた声だけが零れた。
「修平君! 痛いところはない? 見えるところで怪我は治したけど......」
どうして寝ころんでいる俺の目の前に利絵の顔があるのか。
自分が膝枕をされていると気づいた瞬間、体が跳ね起きた。
当然覗き込んでいた利絵と俺の頭がぶつかるわけでお互いに額を押さえる。
「たたたっ。もぅいきなり起き上がらないでよ」
「......すまん」
昨日についで二回も頭を打つなんてーー。
「村田は!?」
「村田君? 彼ならまだ見てないけど......ってそれどころじゃないんだよ!」
「ん? 何かあったのか?」
「この国の王女様が誘拐されちゃったの!」
「え、誰それ」
え、誰それ。
確かに王女様誘拐されたのは一大事だけど、あったことないからあまり声に感情が乗らない。だから、さっきから周囲の音がうるさいのか。それにしても誘拐って誰がーー
「在田、ちょっと話いいか」
人の波をかきわけて村田が出てきた。
どうやら昨夜の頭突きで村田も頭をやられたらしく、小綺麗な布が頭に巻かれていた。俺は利絵が治してくれたのか傷一つ残っていなかった。
「できれば後でにしてほしいんだけど」
「緊急の用事だから先に頼む」
緊急もくそも昨日の口留めかなんかだろ。
ここなら人目もつくし村田自身下手なことはできないだろうから、なぁなぁで有耶無耶にしたいところなのだが。同郷の人間にナイフ突き刺すような人間だ。何するか分からないし大人しく首を縦に振った。
「利絵悪いけど先に部屋に戻っておいてくれ」
「あ、うん。それは構わないんだけど」
「じゃ。あ、怪我直してくれてさんきゅーな」
村田に案内されたのは何故か俺の部屋。
そこは自分の部屋(仮)じゃないのかよと言ったら無視された。なんだこいつ。
「それで話ってなんだ?」
「昨日のことは誰にも言わないでくれないか?」
「素直に誰にも言うなっていえばいいじゃないか」
「昨日は何というかテンションが限界突破しちゃってただけなんだ。うっかり殺しかけたことは謝るよ」
頭は下げてくれたけど、こいつまじやべえよ。
うっかりで人殺すとかお前どんな壮絶な人生送ってんだ。
「それで返答をきかせてくれないか?」
「俺と利絵。それから一応渡司に手を出さないのであれば黙っててやるよ。お前の言う通り今は何処を信じたらいいかわかんなくて迷ってんんだ。下手に敵を作りたくない」
そう答えると村田は俺の答えが意外だったのかきょとんとした顔を晒す。
「意外か?」
「いや、手を汚さずに済んでよかったなって」
「その顔でその考えはおかしいだろ。お前もしかしなくてもサイコよりか」
「そんなことはない。ただ初めてじゃないってだけ」
「ん? それってどういう......」
「さてな。取り合えずこれで話は終わり......じゃなかった。一つだけ君に頼みがあったんだ」
やっぱり息の根は止めをーーと思っていたら、どうやら利絵に回復魔法をしてほしいとのことだった。そんなこと自分で言えよと言ったら
「流石に女子に話しかけるのはちょっと緊張して」
村田、意外とシャイだった。
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