実は強い系主人公と俺(1)
目が覚めると俺は見知らぬ場所にいた。
体育館ばりに広い一室。視線の先には何人かの人がいて、その中心には椅子に座る男が一人。
周囲をグルりと見渡すと、偽物か本物か。剣のようなものを腰にかけた人に囲まれている。
そして、見慣れた顔ぶれもそこにはいた。
「修平くん……」
今にも泣きそうな利絵。
「……ここはどこだ? さっきまで学校にいたはずだが」
バット片手に周囲を見渡す渡司。
「え、これってもしかして……」
教室でいつも本を読んでいる
違和感を感じみると利絵が暗い顔で制服の裾を掴んでいた。頭に手をのせると少しだけ顔が綻ぶ。
「成功だ! 勇者召喚に成功したぞ!」
どこからかその声が上がり、きっかけとなって多くの歓声が上がった。
状況がまるで理解できない俺たちに反して相手方は思い通りにシナリオが進んでいるようで。出来れば誰かに説明をお願いしたいところだ。
「お前達一旦落ち着け! 勇者様方が困惑しているだろう」
その声を上げたのは一人椅子に座る偉い人。
その一声で周囲の喧騒は静まり、視線が一気に集まった。これはあれだ、集会で校長先生が皆の前にたった時に似ている。やっばりあの人はお偉いさんに違いないのだろう。
「勇者様方、此度はーー」
話を纏めるとここは地球とは別の世界。魔王という脅威にさらされており俺達を召喚した。伝承では異世界を渡ったものには強力なスキルが宿っているため力を貸してほしいという事らしい。そしてお偉いさんはなんと王様だった。
俺はなんとなく状況を理解したが、利絵と渡司は理解半分ってところ感じか。村田はーー
「ステータスオープン!」
そう叫んでいた。
恥ずかしげも無くそういうことを言い切るあたり意外とメンタルが強いようだ。
どうやら村田は《見えている》ようなので俺も心の中でステータスと念じてみた。すると、目の前に透明な板が現れそこにはいくつかの情報が書かれていた。
ーーーーーー
在田 修平 16歳
スキル 『身体強化』 『第六感』
ーーーーーー
魔法が使えることに対する喜びはあるものの、与えられるスキルはその人の性格や人生に依存しているのだろうか。
「修平君。村田君はさっきから何をやってるの?」
「あぁ村田はな」
「勇者様方こちらに鑑定士がおりますのでステータスを確認してもよろしいでしょうか?」
タイミング悪く説明が途切れてしまったがやることは変わらないので承諾する。
俺、利絵、渡司、村田の順番で作業は行われて行き、二つ問題が発生した。
俺のスキルは見ての通り。利絵は回復スキルに寄り、渡司は魔獣使い。村田はーー
「......村田様は無能力者です」
鑑定士の言葉にこの世界の人々は信じられないといった様子だ。
勇者がいなかったうえに召喚したうちの一人はスキルをもっていない。彼らの詳しい状況は知らないが相当不味いのではなかろうか。
「一度考える時間が欲しい。異世界の方々には一人一人個別で部屋を用意している。メイドの案内に従ってくれ」
王様のその言葉を最後に俺達は部屋を後にした。
案内された部屋はとても豪華で勇者たちのために用意された部屋だったんだろなぁとしみじみ思う。
個別に部屋を用意されたが夕飯まで目の届く範囲であれば自由行動していいとのことなので俺の部屋(仮)に三人は集まっていた。
「僕たち本当に異世界に来ちゃったんだね」
沈んだ空気に耐え切れず、余所行きモードでぼそりと呟く。
......。
何か反応してくれると嬉しいのだが。
ちなみに俺達は今のところ元の世界に帰れないらしい。
異世界からの召喚魔法は一方通行。しかし何としてでも帰る手段を見つけると彼らは言った。同時に魔王ならばそう言った知識があるかもしれないーーということも。
家族と一時的に。いや一生会えないかもしれないがあまり実感が湧いていない。これは後々辛くなりそうだ。
もう誰も反応してくれなさそうなので名指しで話しかけよう。
「村田君だよね? なんだかんだ話すのは初めてだね」
「そうだな」
「勘違いだったら悪いんだけど、こういった状況に詳しくない?」
「修平君どういうこと?」
「以前、村田君が読んでた本の表紙がたまたま見えたんだけど異世界物の有名作品だったんだよ。だからもしかしたら、と思って」
俺も異世界物の漫画に興味はあったのだが、読む前に実体験してしまい全然知らない。小説の話と現実の話が共通しているとは思わないが知識として知っておいて損はしないだろう。
「......まぁそうだな。俺の知っている範囲で言うと、国の協力のもと魔王を倒すパターンと国自身が腐っているパターンの二つがある」
「一つ目は納得だけど二つ目はどういうこと?」
「そもそも魔王が悪とは限らないじゃないか。人間が私利私欲のために魔王を襲っていたり、魔王を倒した後にお前たちが次の魔王だーって殺されたり」
「ひっ」
「もちろんこれはフィクションだ。この世界の人たちがそうとは限らない」
そうだ。村田が言ったのはあくまで読者を楽しませるために考えた設定の一つに過ぎない。そう振り切ってしまえば楽なんだが、俺のトラブル体質が見逃してくれるかどうか......。
その後も村田に幾つか質問をしているといつの間にか夕食の時間になっていて俺達は勇者のための歓迎パーティーに招待してもらった。
異世界の食はどれも美味しく存分に腹を膨らませ俺達は異世界生活一日目を終えた。
☆彡
膀胱の悲鳴を聞いて俺は飛び起きた。
肩からつま先までぬくぬくのはずなのにどうして。
俺は廊下を走った。やはり異世界でも
突き当りを曲がってすぐ。
何とか間に合いそうだ。その時だった。
まずいッ! 角を曲がってはいけない。そう感じて反対方向に床を蹴ると俺がさっきまでいた場所に銀色の何かが現れる。
「誰だ!」
暗闇の中に見えるぼんやりとした人影が一歩前に出た。
月明りが俺達を照らし現れた男に俺は驚いた。
「......は? おまえ村田か」
全身を黒装束で身に纏った村田はナイフを片手にうっすらと笑みを浮かべていた。
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