モブだけどトラブルに愛されすぎて主人公達を蹴落としてた件

やしゃじん

プロローグ

 俺はいつもそいつの事を考える。

 やってくるときはいつも突然で自宅でも学校でも用を足している時でも、そいつは無遠慮にやってきた。初めは嫌だ嫌だと思っていたけどこうも君のことを理解してしまうと返って愛着が湧いた。


 あぁ次は何処から現れるんだ。

 その全てを時に強く受け止め、時に冷たく当たってしまう俺を許してほしい。



 あぁ、愛しのトラブル。



「って、なんじゃこれは!」


 放課後、俺はB5用紙に書き連ねられた俺とトラブルとの関係を描いたラブロマンスを読まされていた。


 内容は控えめに言って悍ましい。

 ページがまだ残っていたので軽く目を通すが、俺とトラブルがピーする場面が描かれていたので即閉じ。呆れる俺に対し、この物語をかいた幼馴染の利絵は何処か自信あり気だ。


「どうだった!? 今回のは自信作だったんだけど感動のあまり修平君も言葉が出ないって様子だね!」


 その自信は何処から湧いてくるのか。

 ネットにあげて意見を聞きたいとぬかす利絵を宥めつつ、カーテンを閉め外から飛んできた野球ボールを受け止める。ドンと音を立ててボールが床に落ちるが利絵の口は止まっていない。というのもこんな事態、俺も利絵も日常の一部でしかないから。


 ボール片手に利絵の話を右から左へ聞き流していると教室の扉が勢いよく開けられた。


 やってきたのは渡司 信三とし しんぞう。野球部の部長を任されている男でこのクラスの委員長。坊主と日焼けが抜群に似合う野球男だ。


「大丈夫かーーって、なんだ修平か」

「あはは、を何だと思ってるのさ。それよりも渡司君ボール取りに来たんでしょ? はいこれ」


 渡司の元まで歩いてボールを渡す。


「おう、サンキューな。大丈夫だと思うが怪我はしていないか?」

「うん。大丈夫だから安心してね」


 いきなり現れたこいつ誰だって? 俺だよ俺。

 仲のいい奴とそれ以外の奴とで、対応を変えるのはよくある話だろ?


「それよりもお前放課後の教室で一人何してたんだ?」


 え、俺は一人じゃないけど。と思い振り向くが教室には誰もいない。


「ちょっと塾の宿題をね。ほら分からないところがあったら先生にすぐ聞けていいでしょ?」

「相変わらず修平は真面目だな」

「ありがと」

「それじゃ俺は部活に戻るわ」

「うん、がんばってねー」


 渡司がいなくなったのを確認すると俺は誰もいない教室に話しかける。


「もう出てきていいぞ」


 俺達が座っていた席の影から利絵が姿を現す。


「渡司君もう帰った?」

「あぁ」

「ふぅ全く、いきなり来るのやめてほしいよね」


 席に戻ると、さっきの原稿を机に戻し利絵も座った。

 それは戻さなくてもいいんだが。


 利絵は俺の幼馴染で美人で頭は良いけど極度の人見知りだ。

 クラスではいつも物静かでできる女と思われているが実際の所はこれだ。


 話をするのが好きで変な創作物を創ることが好き。


 俺はそんなこいつのことがーー



 それは一瞬の出来事だった。

 視界を眩い光が包み込み、浮遊感を感じると同時に俺は意識を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る