第1話(1) 汚ねぇぇえぇぇ!!!
とりあえず私がどういう人間なのか、というところを説明しておく必要があるだろう。そして、『下ネタフィルター』というのが一体何なのか、それもいずれわかることだろう。
時は遡り、207 X年。私がちょうど以前の名を捨て、
ピーンポーン。呼び鈴が鳴ったので、私は家のドアを開けた。すると、外には隣に暮らす中年の男がいて、
「僕のバナナから濃厚なホワイトチョコの液体が――」
――バンッ!
……そいつがとてつもなく変態だった。気づけば無意識にドアを閉めていた。
しかし、ぐらん……! 脳が揺れ、体から力が抜けていく。私は為すすべなくその場に倒れこむ。全身に物凄い脱力感。激しい嫌悪感。動きを鈍らす思考回路。
そうだ、私は失敗作。下ネタ耐性を極限まで下げられた、大大大失敗作なのだ――――――バタリ。意識はいつの間にか途絶えていた。
ピロロロローン、ピロロロローン。携帯から着信音が鳴り、私が目覚めたのは、およそ二時間後であった。
職場の先輩からの電話だった。私が吐き気をどうにか抑えながら「もしもし」というと、彼は少し怒ったように声を発する。
「出るのが遅いぞ。聖奈」
「すいません
「はぁ。それで倒れてたんだな。大体想像はついてたが……どれくらい経った?」
「二時間くらいです」
「そうか。だからパイプの納品が遅れてるんだな。ちょっと待ってろお前ん家行くから。とりあえずお前はそこでゆっくり休んどけ」
「いや悪いですよ先輩」
「あのなあ、お前の技術はウチの中でもトップクラスなんだ。そんなやつを無理させて失うよりも、俺みたいな雑用係を扱った方がこの会社のためになるってお前も理解してるだろ」
「ぐ……ごめんなさい。これからは下ネタに遭わないよう気を付けるので」
「ああそうしてくれ。こっちとしてはお前が元気に製品を造り上げてくれた方がいいからな、それに……いや、何でもない」
私の技術は優良だそうだが、特にすごいねと褒められて育った覚えのない私には、実感の湧かないことだった。だからといって私が先輩に謙遜したりすれば嫌な顔をされる。まあ気持ちは理解できるけれど、私は別にこの仕事をやりたくてやっているわけではないし、凄さでいえば今までずっと努力してきた先輩の方が上だと思うんだけどなあ、なんて。もしかすると先輩は、私のそういう考えが気に入らないのかもしれないけど。
「仕事、頑張れよ」
――プツン。先輩からの電話はいつもこの言葉で終わる。……私は休めと言われたはずなのだが。
「仕事かあ……この仕事、いつまで続けられるんだろう」
たまたま給料欲しさに始めたバイト。いつしか技術を認められて昇格してしまい、辞める機会を失ってしまった……。
その仕事というのもよくわからない怪しいもので、詳しい内容は先輩レベルの立場の人しか知らないらしい。噂では何かの組織の使うものを収集する仕事だとか何とかで……。
よくわからない謎の部品を集めさせられる。はぁ……危ない仕事だよね、絶対。機を見てやめた方がいいやつだよね、マジでさあ。
なんでこんな仕事始めっちゃったんだろう。給料はもらえてるからおかげでいいマンションに引っ越せたってのも事実だけど。大丈夫だよね? 犯罪に加担してたりしないよね?
恐怖は一層募るばかり。私はもう、先輩が来るまで寝て、疲れきった体を癒すことにした。
――しばらくした後、ピーンポーン。
「来たぜ。可愛い後輩ちゃん」
「ふわぁ? あ、我絽先輩」
「よぉ。集めたパイプを俺によこせ。回収する」
「あ、これです」
私は、梱包されたパイプの入った箱を手渡す。さりげなく先輩の手を握るようにして。
「はいありがと。これじゃノルマは足りないけど、残りは俺が埋めとくから」
「あ、ありがとうございます先輩。じゃあ先輩もお仕事頑張って――」
「俺はまだ帰らないぞ」
「え?」
どういう意味? も、もしかして……?
「お前のことを……」
え、え? ちょっと待って、まだ心の準備が……。
「……俺と同じ、ダウンバースト幹部に任命する。悔しいが、今からお前は俺と対等だ」
「ヤダもう先輩ったらそんな急に――って、えっ⁉ 何⁉ ふぁっ⁉ 幹部⁉ て、え? だうんばーすと?」
……思考が追いつかない。考えていたことと天と地ほどの差があった。というか……『ダウンバースト』とは何だ?
「どうした? 言葉通りの意味だぞ喜べ。お前は組織から正式に認められたんだ。だからお前にはこれから組織――〝ダウンバースト″の情報を開示する」
「……………………えぇぇぇぇ⁉⁉⁉」
下ネタフィルター作動してください! 星色輝吏っ💤 @yuumupt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。下ネタフィルター作動してください!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます