第26話

あぁ、最悪だ。



翌日になっても熱はひかずに学校は休むしかなくなってしまった。



喉は痛いし頭は痛いし、食欲もない。



両親は仕事にでかけてしまって、今は家にひとりだ。



心細くてスマホを開いてみると、さっきスマホをいじってから5分くらいか経っていないことがわかった。



今頃みんな勉強中かなぁ。



そんな当たり前のことを考えて天井を見上げる。



トイレに行くだけで体がフラつくので、勉強だってできない。



せっかく特別学級で培ったものが、熱のせいでどんどんこぼれ落ちていきそうな気がしてキュッと強く目を閉じた。



今はこの風邪を治すことが先決だ。



少し無理してでも眠ろう……。


☆☆☆


お昼にはお母さんが用意してくれていたお粥を少しだけ食べて薬を飲んで、すると自然と眠りにつくことができた。



次に目が冷めたときには階下から包丁を使う音が聞こえてきて、窓の外はオレンジ色に染まっていた。



「もう6時か」



スマホで時間を確認して呟く。



階下から聞こえてくる音はお母さんが夕飯の準備をしている音だ。



しばらく布団の中で目を閉じてその音に耳を傾ける。



小気味いい音が続いてまた夢の中へと引き込まれて行きそうになったとき、それを遮るように玄関チャイムが鳴り響いた。



私はうっすらと目を開ける。



包丁の音が止まり、玄関へ向かうスリッパの音が聞こえてくる。



お母さんが玄関を開けて誰かと会話している。



男の人だろうか、遠くてよくわからないけれど低い声が聞こえてくる気がする。



セールスマンとかだったらどうしよう。



お母さん、ちゃんと断れるかなぁ?



そんな心配をしながら再びまどろんでいたとき、不意に部屋のドアをノックする音が聞こえてきて一気に覚醒された。



目を大きく開いてドアへ視線を向ける。



「知奈、起きてる? 学校の人がお見舞いに来てくれたわよ」



お見舞い?



私は上半身を起こしてドアを見つめた。



もしかして雪ちゃんたち?



でも、来るなら事前にメッセージをしてくれそうなものだ。



そんなメッセージはもらっていない。



誰? と、質問する前に「入るわよ?」と言うお母さんの声が聞こえてきてドアが開かれていた。



白いエプロンをつけたお母さんの後ろから入ってきたのは私服姿の男性だった。



一瞬誰だろうと思ったが、その体型を確認して私は大きく息を飲んだ。



布団の中に隠れたのはそれと同時だった。



こんな姿、彼に見せたくない!



「知奈なにしてるの?」



お母さんの呆れた声が聞こえてくる。



「だ、だって、なんで、佳太くんが!?」



「突然来ちゃってごめん。今日学校を休んでいるって聞いて、気になったんだ」



その声は紛れもなくずっとずっと会いたかったその人のもので、涙が滲んできてしまった。



「で、でも来るってわかっていれば髪の毛をか、顔とか、服とか、どうにかしたのに!」



こんなこと言いたいわけじゃないのに、また文句が先に口から出てきてしまった。



言ってしまった後で下唇を噛みしめる。



私、いつからこんな嫌な女になったんだろう。



「そんな言い方しなくていいじゃない。あんた病人なんだから。じゃあ、ゆっくりして言ってね」



お母さんは何かを感づいたのか、楽しげな声でそう言うと部屋を出ていってしまった。



待って、2人きりにしないで!



なんて言う暇もない。



私は仕方なくゆるゆると布団から顔を出した。



今日は顔も洗えていないし、髪の毛もボサボサだし、こんな姿佳太くんには見せたくなかった。



「体調大丈夫?」

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