第10話
特別学級へ戻ってきた私は大田先生からA組での様子を聞かれていた。
ついさっき起きた出来事を思い出して胸の奥がまたチクリと刺されたように痛む。
だけど左右に首をふり「なにもありませんでした」と、説明していた。
無駄な心配をかけたくないという気持ちもあるけれど、昨日出会ったばかりの先生に相談するほどの勇気がなかった。
「そうか、よかった。でも無理そうなら遠慮せすに言うんだぞ?」
大田先生の言葉に私はただ頷いたのだった。
☆☆☆
それから放課後になるまでは早かった。
授業の進みが早いのでとにかく一生懸命に取り組まないと置いていかれてしまうからだ。
「矢沢、ちょっといいか?」
教室を出ようとしたとこと大田先生に呼び止められて私は教卓へと向かった。
「今日1日どうだった?」
大田先生は身を屈めで、まるで子供に話しかけるような調子で話しかけてきた。
「みんな、すごく頭がいいんですね。ビックリしました」
私は素直な感想を告げた。
今日1日彼らと一緒にいて一番感じたことだった。
すると大田先生は笑って「ここにいる生徒たちは病気を持っているけれど、みんな脳には異常がないからね。むしろ成績は優秀なんだ。よく勘違いされているけれど」と言った。
私も同じだ。
特別学級というと知能も遅れていると思い込んでいた。
だけどこの学校はそうじゃないらしい。
「もちろん、そういう子のための学級もあるんだけどね」
「そうなんですか?」
「あぁ。でもそっちは他の生徒たちと鉢合わせしない時間帯や曜日を使ってるんだ」
学校側の配慮ということらしい。
自分がイジメられているところを思い出してみると、確かに鉢合わせさせないほうが懸命だと思えた。
「話は変わるけど、このクラスは校舎裏の花壇の世話もしてるんだ」
「花壇ですか?」
私は首をかしげる。
入学してから校舎裏には1度も行ったことがないことに気がついた。
「あぁ。A組にだって色々と係や委員はあるだろう? そういうもんだ」
先生の説明に納得する。
花壇係ということらしい。
「で、今日からは矢沢にやってほしいんだけど、どうかな?」
「え、私ですか?」
私は自分を指差して目を丸くした。
今日始めて特別学級で勉強を初めて、右も左もわからない状況だ。
「そう。花壇の手入れは放課後、水やりをするだけでいい」
「あ、それくらいならできます」
花の世話なんてやったことがないから、どうしようかと焦ったところだったので胸をなでおろした。
草むしりとか、肥料やりとか、やることは沢山あるのかと思っていた。
「そうか。じゃあ引き受けてくれる?」
「はい」
私は大きく頷いたのだった。
☆☆☆
帰宅する準備を済ませた私は校門へは向かわず、校舎裏へと向かった。
すると先生が言っていたとおり、そこには花壇があった。
茶色いレンガで囲まれた花壇には色とりどりの花が咲いている。
広さは畳2畳を横に並べたくらいだ。
「えっと、ホースは……」
先生が教えてくれた花壇横へ向かうと青い巻取り式のホースが置かれているのが見えた。
ホースの端はすでに水道とつながっている。
私は水道の蛇口をひねり、ノズルをひねって水やりを始めた。
チューリップやスミレ、芝桜なんかもある。
一見乱雑に植えられているようで赤から白へとグラデーションになっている花壇はとてもキレイだ。
「キレイ」
水やりをしながら呟く。
こんな素敵な場所があったなんて知らなかった。
「花が好きなんだ?」
突然後方から男の人の声が聞こえてきて私は半分ほど飛び上がって驚いた。
驚きながら振り向くとそこには私服姿の男子が立っていた。
「驚かせてごめんね。俺も今水やりにきたんだ」
「そ、そうなんだ?」
水やりに着たということはこの人も特別学級の人?
でも、私服の生徒なんて1人もいなかったし、声にも聞き覚えがなかった。
私が困惑して動きを止めていると「そこ、水やりすぎじゃない?」と、指摘された。
見ると芝桜が水にひたひたになりはじめている。
慌ててノズルをひねって水を止めた。
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