第8話

☆☆☆


夕飯時、特別学級に入りたいと伝えると、両親はひどく驚いた顔を浮かべた。



「どうした急に。なにかあったのか?」



お父さんは読んでいた新聞紙を横へ置いて身を乗り出して聞いてくる。



「そうじゃないの」



私は慌てて左右に首を振って否定する。



両親を不安にさせたいわけじゃない。



「ただ、今日偶然特別学級での授業を見てきたの。そしたらみんなとても優秀で、数学の授業なんてA組よりもずっと先に進んでたの。みんな自分の病気を隠さずに堂々としてた」



思い出して気分が高揚していくのを感じる。



私のあんな風になりたい。



人目や人の気持を気にしてばかりいて自分を殺して行きて行きたくない。



特別学級でなら、きっとそれがうまくいく。



「本当にそれでいいの?」



お母さんは眉を下げて不安そうな表情だ。



せっかくA組での生活に慣れてきたのに、もったいないと思っているのかもしれない。



だけどそれは私がイジメについて隠しているからだ。



私は大きく頷いた。



「先生はね来たいときだけ特別学級に来ればいいって言ってくれているの。担任の先生とも、ちゃんと話してきた」


そう言うと、両親は互いに目を見合わせた。



「知奈が自分でそんなに考えていることなら、きっと大丈夫だろう」



「そうね。でもなにかあったらすぐに相談するのよ?」



私はパッと笑顔になって大きく頷いた。



「わかった、約束する」



こうして私はようやく高校生活の一歩を踏み出すことになったのだった。


☆☆☆


職員室のドアをノックして開けるとちょうど担任の先生が出てくるところだった。



「矢沢、良いところにきた」



先生は私を促して職員室横の会議室へと入っていく。



今は使われていないみたいで、誰の姿もなかった。



「今日から特別学級だけど、大丈夫そうか?」



「大丈夫です」



私は頷く。



正直すごく緊張していたけれど、昨日出会った子たちはみんな優しそうだった。



それに、これは私自身が決めたことでもある。



今更怯えてなんていられない。



「授業なんだけど、移動教室のときだけはA組に戻って一緒に行うことになる。いいか?」



「はい」



それも、昨日先生と話をしたときに聞いていたことだった。



特別学級の子たちはみんなそれぞれクラスに席があり、移動教室の時は一緒に授業をしているらしい。



実験などを行う教室が、B館にはないからだ。



「移動教室がある日は事前に大田先生に伝えておくから、なにも心配はいらない。でも、どうしてもA組の子たちと授業をしたくない時は遠慮なく言って。それからA組に戻りたいときも、遠慮なく言うこと」



大田先生とは特別学級の男性の先生のことだ。



私は先生の言葉に何度も頷いた。



私のためにここまで考えてくれているのだから、きっと本当に心配はないのだと思えてくる。


「知奈ちゃん、おはようございます」



特別学級へ入った途端景子が礼儀正しく声をかけてくる。



「おはようございます、景子ちゃん」



そう言って私は景子ちゃんの隣の席に腰を落ち着かせた。



特別学級の生徒たちはみんな真面目で、ホームルーム開始までまだ20分はあるというのにみんなすでに登校してきていた。



みんなそれぞれ好きなように時間を使っていて、時々明るい笑い声も聞こえてくる。



ひときわ大きな声で会話をしているのは金髪男子。



みんなからキンパと呼ばれている。



「みんな今日も元気だなぁ、さっさと席につけぇ!」



大田先生が教室に入ってきて声をかけるまで、みんな騒ぎっぱなしだった。



「1年A組は今日の午後移動教室がある」



そう言われて私は背筋を伸ばした。



今日からさっそく移動教室なんてついてない。



せっかくここで勉強することができるようになったのに。



そう思ったが、どうにか顔に出さずに住んだ。



大田先生へ向けて笑顔で頷く。



それから先生は他のクラスの状況も説明し始めたのだった。

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