第340話:スライムさんの特性。
グラウンドに出てスライムを創造すると、他の方たちとちょっと違うスライムさんが誕生してしまった。討伐遠征の際に出会うスライムはあまり動かないし、動作がかなりゆっくり。
それこそナメクジのような動きなのだけれど、私が創造したスライムさんはやたらと動くし、感情表現が豊かな気も。目立つから頂けないなと呟けば、私の影の中に入って大人しくしているみたいだし。術者の魔力で創造しているからか、なんとなく存在がどこに在るのか分かるし、感情もなんとなくだけれど分かってしまう。
本当に不思議。
用は終わったので副団長さまと特進科一年生で外に出ていたメンバーが教室へ戻ると、副団長さまによる解説が始まった。
「貴方のスライムは防御に特化しているようですね」
魔力の高い人は戦闘にも一緒に参加できるほどの力を持っているようだ。核とした魔石が質の低い魔石なので、ある程度の時間が経てば消えてしまうそうだけど。
「収納タイプのスライムではありませんか? 試してみましょう」
副団長さまが懐から万年筆を取り出して生徒に渡す。理由をいまいち理解出来ていない生徒に『持っていてと命じて頂ければ』と説明していた。生徒が副団長さまの言葉を復唱すると、そのスライムさんは万年筆を身体の中へ取り込んだ。
お家のゴミを掃除するスライムも居るのだから、特段驚くことはない。高そうな万年筆が勿体ないなあと考えていると、副団長さまが『戻せと命じて下さい』と言った。生徒がまた復唱すると、今度は万年筆をぽいっと吐き出し床に転がした。
「おお」
「凄い!」
「スライムなのに……!」
「あんなことまで出来るのか」
とあるスライムさんを見ていた生徒たちは、驚いていたし知能がかなり低い筈のスライムがあんなことが出来るなんて思っていなかったようで。女子の受けはあまり良くないけれど、男子生徒が盛り上がっている気がする。収納タイプのスライムさんを生み出した、伯爵家のご子息さまは驚いた顔をしている。
スライムさんの形も他の人と違って独特。丸いし、頭の部分が小さな山になっていた。どこかで見たことあるようなと、頭の中にノイズが走る。あ、コレは必要以上に考えると頭が痛くなるヤツなので、記憶を深く探るのを止めた。
「魔力で創造したスライムとなるので、術者本人の命令は守ります。人間の言葉もある程度理解しているので『止めろ』や『止まれ』で行動制限出来ますね」
授業では質の悪い魔石を使用した為に時間が経てば消えてしまうが、良い魔石を使うと生存時間が長くなるし、創造したスライムさんの能力も高くなる。言葉の理解度も上がるし、戦闘系のスライムさんとなると術者と一緒に闘うことも可能なのだとか。
スライムさん以外の生き物も創造できるので、興味があるならば魔術師団の門戸を叩いて下さいと、ちゃっかり勧誘している辺りは流石副団長さま。抜け目がないよなあと、私の番となったのでこちらへ来た副団長さまを見る。
「ミナーヴァ子爵さま。貴女のスライムを出して頂いても?」
「はい。――ロゼさん、ロゼさん」
彼か彼女かは分からないけれど、名前を呼ぶと『?』と私の影の中で疑問符を浮かべている。いつもは自分の席の寝床に居るはずのアクロアイトさまが、顔をぐりぐりと押し付けてきた。
普段はすりすりと優しく遠慮がちに顔へ顔を擦り付けてくるのだけれど、一体どうしたというのか。痛いので肩から膝の上に移動して頂いて、頭を撫でると『フスー』と息を吐いて体を丸めて寝る態勢に入った。
「出てきて下さい」
言葉を発すると私の影の中から、細長い状態のスライムさん、もといロゼさんが飛び出してくる。教室の床へと身体を付けると、まん丸な形となってぷるんと一度震えた。ちょっと可愛いかもと絆されている辺り、私の魔物や魔獣に向ける感情って一体どういうものなのだろうと疑問である。
不可思議現象に出会い過ぎて、順応速度が上がっている気がしてきた。そんな馬鹿なと否定したくなるけれど、学院に入学してからいろいろと事件が起こり過ぎだし、巻き込まれているし、巻き込んだりもしたが。中には竜や聖樹や妖精さんや他諸々のファンタジーな出来事が起きて、私の身に降り注いだ訳で。いちいち驚いていたらやっていけないなという、諦めもあるのだろう。
「やはり素晴らしいですねえ。期待通りの展開です」
いやいや、副団長さまが魔石を入れ替えたからこんなことに。魔力の込め過ぎで魔石が割れたのだから、私は本来失敗していたのだから。すたすたとやってきた副団長さまが新しい魔石を置いて、やり直しを求められればやらざるを得ないのだから。
魔石の質が上がっていたことには気付いていたけれど、まさか代表さまの血を垂らしていたとは誰も思うまい。貴重な竜の血であるし、しかも代表さまのもので。
そりゃミラクルが起きても不思議ではないと、副団長さまを見ると良い顔を浮かべている。銀髪ロン毛のイケメンなのだけれど、全く持って心を惹かれない。正体はマッドな魔術師だ。副団長さまは、お貴族さまで当主と聞いているけれど奥さんはいらっしゃるのだろうか。いきなりご家庭の話をするのは無粋なので聞くことはないけれど、ちょっと気になる所ではある。
『マスター、ドウシタ』
どうしたもこうしたも副団長さまに呼んで欲しいと言われただけで、特に用事はない。どうしたものかと副団長さまの顔を見る。
「何が出来るか聞いて頂いても宜しいですか?」
確かに、気になる所だ。
「はい。――ロゼさんはどんなことが出来ますか?」
『マモル、マスター、マホウ、オシエテ』
あれ、この口ぶりからすると魔法は使えないのか。ロゼさんの言葉通りなら、教えれば使うことが出来るみたいだけれど。
「おや。――僕の所で習ってみますか?」
『…………』
副団長さまの言葉はガン無視だった。反応してくれないことに眉を八の字にしつつも、どこかしら楽しそうな副団長さま。
「フラれてしまいました。残念です」
めげないなあと感心しつつ、ロゼさんに向き直る。
「私が教えるの?」
『マスター、オシエテ』
私が教えられるのは治癒と防御系とバフデバフなのだけれども。火力系も習ってはいるけれど、初級に毛が生えたくらいのもので。魔術の威力よりも魔力制御の方に重点を置いている為なのか、初級の魔術を行使して、初級以上の威力が出ない練習もやっているから。
副団長さま曰く、魔力を込めれば良いという物ではありませんと教えられたけど、スライムさん創造の時は咎められなかったなあ。魔力についての勉強は陛下からの命令だったような。その部分で、お貴族さまとしての副団長さまと、魔術師としての副団長さまが葛藤しているのだろうか。
「私がロゼさんに教えられるのは、治癒とか防御だよ?」
それでもいいかとロゼさんに問いかける。火力系はちゃんと使いこなせる人に教えて貰った方が良い気がするしなあ。
『……マスター、マモル、イロイロ、シリタイ』
随分と目標の高いスライムさんだった。いろいろと知りたいことがある、かあ。取りあえず、授業中なので切り上げた方が良さそうだ。ロゼさんとは屋敷に帰ってゆっくり話をしないと。
「戻って貰って良いですか、ロゼさん」
『ン』
ロゼさんが短く返事をして、私の影の中へと戻って行った。残念そうにしている副団長さまに『授業は良いのですか?』と問いかけると、はっとした顔を浮かべてそそくさと教壇へ戻って行く。
なんだか新しい仲間が増えた気がするのだけれど、私の周りって人間以外の何かが集まりやすいよねえと、副団長さまの講義を聞いていたのだった。
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