第329話:事情説明。

 どうして陛下が二人、私の前に座って難しい顔をしているのだろう。


 事の起こりは少し前。学院から子爵邸に戻るやいなや王宮からの使者が客室で待っていた。使者さんによると、急で申し訳ないが登城して欲しいとのこと。王家や王国上層部のお使いに過ぎない使者さんに文句を言っても仕方ないので、用意が出来次第出発する旨を伝え。

 

 学院の制服から聖女の衣装に急いで着替えて、馬車へといつものメンバーで乗り込みお城へと辿り着く。馬車止まりでお迎えの近衛騎士さんたちが待っているのはいつも通りだけれど、何故か宰相補佐さままでいらっしゃる。


 どうしたのだろうと宰相補佐さまの顔を見ると、ヴァンディリア王がお忍びでアルバトロスへ来ているとのこと。何故、ヴァンディリアの王さまがこの国へ来たことと関係あるのかと疑問符を浮かべていたが、思い返せば抗議の書状を送ってあった。


 それに対しての謝罪なのだろう。ただ件の第四王子さまも一緒に来ているはずだから、相手をしなくちゃならないのかとげんなりしてた。あと、眠り姫状態の側妃さまに魔力を注ぎ込む依頼を頼まれるかもしれないと、考えながら歩いていた。


 通された部屋はあまり立ち入ることがない場所で。


 豪華な扉がゆっくりと開くと部屋の中には、アルバトロス王と公爵さまに宰相さまの姿が。そしてヴァンディリア王と側近の方々数名が、部屋へと入った私の顔を見た。


 「突然呼び立てて悪かったな、聖女よ」


 アルバトロス王が私を見て鷹揚に声を上げた。その声に聖女としての礼を執り顔を上げて口を開く。


 「いえ。陛下からのお呼出とあれば、いついかなる時も参りましょう」


 目の前に座る人はこの国の最高位に座しているのだから、お貴族さまの一員となっている私は命令に従うしかない訳で。厄介ごとに巻き込まれて大変な事態になったり、子爵邸が人外魔境になりそうな気配をひしひし感じているが、孤児時代よりは良い環境なのである。


 それを整えてくれた公爵さまや陛下には感謝している。


 公爵さまは私がやらかしていることを豪快に笑い飛ばして下さる方だが、アルバトロスの陛下はそろそろ胃が持たないらしい。内緒だぞ、と手紙に書き記してくれたのが公爵さまなのだが、彼を通じてエルフのお姉さんズから頂いた薬茶を送ったが、効果はちゃんとあっただろうか。一応、目の前の陛下は健康そのものである。

 

 「そうか。――今日聖女を呼んだのは、ヴァンディリア王たっての願いだ」


 まあ座れと告げられて席を指定されたので、しずしずと腰を下ろす。第四王子殿下の姿がないことに安堵している辺り、私は彼に対して苦手意識を持っていたらしい。うーん。離れてみて初めて分かるこの気持ち。本当に国に帰って頂いて良かったと、人知れず長い息を吐く。


 「我が息子が聖女に失礼を働いたことを許せとは言わぬが、どうか受け入れて欲しい」


 そうしてヴァンディリア王から、第四王子殿下が母国に帰った際の行動と彼が無茶をした理由が語られるのだった。第四王子殿下がアルバトロス王国へ留学した真の目的は、私と接触して懇意になり婚姻した上で側妃さまへの魔力補填を行うことが目的だったそうだ。


 「もうこの世にいないから、無駄だというのにな」


 第四王子殿下のお母上は亡くなられていたそうだ。立て続けに王族が亡くなったので、側妃さまが亡くなったことは緘口令が敷かれ、ヴァンディリア国内でも一部の者しか知らない。

 ヴァンディリア王が建国祭の時に私と接触を試みたのは、王妃さまの容体が芳しくなく国内の聖女で手が追えない場合はアルバトロスに治療を願い出るつもりだった。病でどんどん側妃さまが弱っていきアルバトロスへ治癒依頼を出そうと決めた時に亡くなられた、と。

 

 母親が死んでしまったことを受け入れられない彼は、魔術師と接触し禁術である死者蘇生を執り行いたかった。それには膨大な魔力が必要となり、複数人で何日も儀式を行使するか、膨大な魔力持ちを用意して儀式を行うとか。そこに噂として流れてきたのがアルバトロスの黒髪の聖女。――私である。

 

 ヴァンディリア王はその事実を知らず、単純に母親が亡くなった悲しみから立ち上がり、第四王子としてヴァンディリアの為に『黒髪の聖女と懇意になりたい』と告げる息子に許可をだした。

 それが釣書であり、留学話だったそうで。まさかアルバトロスで無茶な口説き方をしているとは全く思っていなかったそうで。抗議の書状が届いた時は頭を抱えたし、申し訳ないことをした謝罪をと考えていたそうだが、謹慎処分中の第四王子殿下が自室から逃げ出し、母親が眠る霊廟で発見されたそうな。

 

 もうどうにもならないと判断したヴァンディリア王は、取りあえず第四王子殿下に幽閉処分を下し、背後関係を洗うことにしたのだが……。


 「禁術を執り行おうとした魔術師の名を吐かぬのだよ」


 自白剤等がないし、魔術を使って吐かせるにしても禁術に近い取り扱い。曲がりなりにも第四王子殿下なので無茶ができないらしい。禁術を平気で使おうとしている魔術師を野放しにしておく訳にはいかないので、どうにかして捕まえたいが第四王子殿下は口を閉ざしたまま。

 

 「母親が目覚めるならば話すと、馬鹿を言うてな……」


 死者を生き返らせるなど神への冒涜であろうとヴァンディリア王が、私を見据える。


 「魔術師をおびき出す為に一芝居願いたい」


 ようするに私が王子殿下の要望通りにヴァンディリアへ赴いて禁術を執り行う、と。けれどヴァンディリアに赴くのは憚られるので、ヴァンディリアに赴いたと嘘を流し数日間居留守を使って欲しいと。

 第四王子殿下を欺き魔術師をおびき寄せるとのこと。屋敷に引き籠るだけなら問題ないけれど、本当にソレで捕まるのだろうか。確率を上げるなら私がヴァンディリアに向かって、第四王子殿下に協力すると囁いて魔術師を釣った方が成功率があがりそうだけれども。


 何にしても、アルバトロス王が決めることだろうとそちらを見る。


 「暫く雲隠れを頼めるか?」


 「承りました」


 そんなこんなで、暫く屋敷の中で過ごすことになるのだった。本当に魔術師の名前を彼は吐くのだろうか。

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