第325話:模擬戦終わってる。

 第四王子殿下が帰国して一週間が経った。

 

 その間に騎士科や希望者で行われる模擬戦大会が行われ、準決勝戦にはジーク、ギド殿下、マルクスさまと騎士科の生徒一人が残り、決勝戦はジークとギド殿下。始まって一歩も動かない両者に、観客のみんなが焦れて野次り始める中、一瞬の隙を突いたギド殿下が有終の美を飾った。

 魔力量が関係ないように魔術具を使用しての純粋な肉体だけの勝負だったから、ジーク自身の実力が出せず。本人は何事もないように過ごしているけれど、悔しいのかこっそり訓練の時間を増やしていた。


 男子があるなら女子部門も当然ある。男子と比べて女子の参加者は少ないけれど、模擬戦があった。その中には何故かセレスティアさまの姿があり、順当に勝ち進んでいっていた。決勝戦はリンとセレスティアさまとの対戦となり、勝者はセレスティアさま。

 やはり子供の頃から確りとした教育を受けている人に敵うのは難しいらしく。かなり接戦だったので『運が良かっただけですわ』とセレスティアさまが言って、機会があればまた勝負したいと願い出ていた。


 リンもリンで何か思う所があったのか、ジークと一緒に訓練時間を増やしていた。女の子なのだからあまり筋肉を付けてもと心配になる。前世でスポーツに特化した学校に通っていた友人が居たのだが、体脂肪が一割切ると生理が止まるなんて言っていたことを思い出す。

 そこまでには至っていないだろうけれど、あまり激しく訓練するのも身体に負担が掛かりそうだから心配である。祝福を何節もかけて能力を底上げした方が早いけれど、本人たちは何か思う所があるのだろう。


 老婆心を働かせても仕方ないと、見守ることにしてる。無茶が過ぎればもちろん止めるけれど。


 ヴァンディリア王国に戻った第四王子殿下は、ヴァンディリア王にこっぴどく絞られた上に謹慎処分に処されたようだ。

 他国の聖女さまを私欲で利用しようと行動に出たのは不味かろうと。縁を持てれば御の字と考えていたし第四王子殿下もそのつもりだろうと考えていたのだが、本気で口説き落としているとは思わなかったそうな。

 謝罪の書状が届きアルバトロスの陛下を通して、私の下へと届いたのが昨日。ヴァンディリア王の直筆なのか代筆なのか定かではないけれど、微妙に文字が震えており大丈夫なのか心配になった。


 「お芋さんっ」


 「しゅーかくっ!」


 「早くやろうっ!!」


 子供たちの声で意識が浮上する。ようやく、というか随分と早くお芋さんが収穫可能となった為、子爵邸裏の家庭菜園畑へ赴いていた。

 子供たちの他にも庭師の小父さまとサフィール、興味本位でクレイグに天馬さまのエルとジョセがこの場に居る。もちろん私の護衛としてジークとリンも傍に居るし、アクロアイトさまは私の肩から降りて、今度は巨大ミミズではなく大きな尺取虫と格闘していた。

 

 『子供たちは元気がありあまっていますね』


 『ええ。微笑ましいです』


 エルとジョセが子供たちを見ながら目を細めている。ジョセのお腹も随分と大きくなり『そろそろ産まれそうです』と本人が言っていた。妊娠期間は不思議なことに周囲の魔素量に影響されて変化するそうだ。今までで一番早く産まれてくるらしく、どんな強い子が生まれるのか楽しみらしい。

 

 「じゃあ、抜いてみようか」


 私の声に一斉に子供たちが小さな畑の中へと入り込み、好きなお芋さんの主茎を握って引っこ抜いている。クレイグとサフィールも少し遅れて畑の中へと入り、中々抜けないお芋さんをどうにか抜いていた。

 

 「多いですな……」


 「……多いですね」


 鈴生りとはこういうことを示すのだなと言いたくなるくらいに、お芋さんが沢山根っこについていた。かなりの量が付いているというのに、平気で子供たちは抜いている。

 何だろうこの不可思議現象はと問いたくなるけれど、目の前で起こっている事実なので認めるしかない。ソフィーアさまとセレスティアさまも後で様子を伺いに行くと言っていたので、何を言われるのやら。呆れ顔で呆れた言葉を呟かれるのは確定しているなと苦笑いになる。


 「聖女さま、収穫しないの?」


 「今行くね」


 子供たちに呼ばれて、畑の中へと足を踏み入れる。手近にあったお芋さんの茎に手を伸ばし力を入れると、すっと抵抗感も何もなく抜けた。お芋さんに付いている土を払いのけて、実だけを取って籠の中へ入れる。上の部分も回収してエルとジョセのおやつに厩の馬の餌となる。

 

 お芋さんを間引いていた時の話を公爵さまと辺境伯さまが聞きつけて、余ったお芋さんの茎の部分があれば分けて欲しいと願われたのは意外だった。

 どうやらお馬さんの馬体が良くなっていることに興味が湧いたようで、試しに自身の家の馬にも与えてみたかったのだろう。公爵さまと辺境伯さまならば妙な事態にはなるまいとおすそ分けし、暫くして『馬体が良くなった』という話をソフィーアさまとセレスティアさまから聞くことになる。

 

 「全部抜いちゃって良いよ」


 今日でお芋さんを全て収穫する予定だ。日持ちするものだし、何回か分けて収穫するのも手間なので、抜いてしまおうと庭師の小父さまと話をしていた。

 私の言葉に子供たちが喜んで、残っているお芋さんを全て駆逐しようと一斉にお芋さんの茎を握る。子供たちの楽しみを奪っても申し訳ないと、ゆっくり引き抜いていると地面から小さな光が現れる。


 「え……」


 短い声が自然と口から漏れる。小さな光は段々と人の姿へと変化していき、妖精さんたちより一回り小さい淡く光る何かが具現化した。それも複数。子供たちも気付いて何事かと慌て始めるけれど、順応性が高いのか小人さんへと近づく。


 『タネクレ!』


 『シゴトクレ!』


 口々に叫ぶ小人さんを興味深げに眺める子供たちを他所に、庭師の小父さまやクレイグにサフィール、ジークとリンに私は戸惑いを隠せない。またやってしまったと遠い目になりつつ、ソフィーアさまの小言は確定だなあと頭を抱える。


 「あー……ナイ」


 「もう何も言わないでクレイグ」


 「お、おう」


 そっと私に近づいてそんな声を掛けたクレイグに、反論する気力は湧かず。これお二人がやってきたらどう言い訳しようかと考える。


 「ナイ、終わったのか?」


 「すっきりとしましたわね。最初はどうなることかと思いましたが、沢山採れているようでなによりですわ」


 こちらへやって来たお二方の方へギギギと顔を向ける。きゃっきゃと騒いでいる子供たちを微笑ましそうにお二人は見ると、異変に気付いたようで表情が凍り付く。


 『タネクレ!』


 『シゴトクレ!』


 同じことを繰り返している小人さんを見て、深い深い溜め息を吐いた。しかも長かった。


 「ナイ、済まないが、お隣に連絡を入れてくれ……」


 「……はい」


 眉間を手で押さえたソフィーアさまから亜人連合国へ連絡を入れて欲しいと願われ、やらかした原因である私は素直に頷くしかなかった。

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