第319話:お手紙届いた。

 秋が随分と深くなってきた今日この頃。冬休みまで残すところあと二ヶ月。長いような、短いような微妙な頃合いだった。


 ――ちょっとは落ち着いたかも。


 忙しかった最近だけれど、ようやく落ち着いてきた。教会の立て直しもどうにかなりそうで、枢機卿さまの選出や上層部メンバーの選出が済んでいて、あとは発表を待つばかり。

 礼拝で出会ったお婆さんの伝手で何人か現役の聖女さまや引退してもまだまだ元気な元聖女さまを紹介して頂けたのだ。真面目な方が多いのか、教会信徒でもあったから都合が良い。枢機卿さまになる人はアウグストさまと聖女さま方から一名、神父さまかシスターたちから一名選出となっている。

 

 礼拝にも時間が許す限り参加している。私が参加するようになって、黒髪の聖女が拝めると噂になっているし、アクロアイトさまも一緒に居るので物珍しさで見に来る人が多くなったみたい。

 人が多くなるイコール寄付が増えるから、教会的には嬉しいらしい。普段は礼拝に参加しない信徒の人も顔を出すし、信徒ではない人たちも参加しているそうだ。神父さまの教典のお話にハマって入信する人もボチボチいるようだし、順調に勢いを取り戻している。私の役目が終わった訳ではないけれど、少し気が楽になった。


 賜った男爵領のトウモロコシはやはり家畜用だからか、味が薄いうえに余り美味しくないという事実が判明した。火の中へ放り込んでポップコーンが出来るかなと試してみたものの、弾けてくれなかった。

 挽いて粉末状にしたあとに水を混ぜて味付けして食べるとか方法もあるはずなのだが、小麦が普通に手に入るのに、そんなことをやる必要はない。他にも食べ方があるのだろうけれど私の乏しい知識では何も思いつかない。

 ソフィーアさまやセレスティアさまがその為の学院なのだから、教諭や図書棟で調べてみてはとアドバイスをくれたので、暇があれば先生や図書棟へ通ってる。


 うーん残念と唸っていると、家畜用のトウモロコシ以外で何か量産できるものはないかと、領民に願われたので考え中である。子爵家で育ったお芋さんを収穫して、ある程度を男爵領で育ててみようと話し合ってはいるものの、何が起こるか分かったものではないと苦言を呈された。知らない人からすれば怖いだろうし、あまりやらない方が良いのかと諦める。


 ならばきちんと領地運営術を学んで、真っ向勝負で発展させていくしかないだろう。幸いにもお金には困っていないのだから、灌漑工事や耕作地開発に力を入れればどうにかなるのではと考えている。あとダウジングで何かしらを見つけるのもアリ。何もないかも知れないが、やらないよりやってみてから話を進めれば良いだけだし。


 「忙しさはマシにはなったけれど、やることが多いなあ」


 子爵邸の主室で独り言つ。誰も聞いていない……いや、聞いているのはアクロアイトさまだけなので問題はない。ちなみにアクロアイトさまは、ベッドの上で遊んでる。クレイグとサフィールが街へ繰り出した時――護衛付き――に露店で見つけたボール擬き。子供たちにと買ってきたのだけれど、数を揃えていたので一個頂いたのだ。もちろん代金は支払っている。


 ボールの上に乗って遊んだり、顔で器用に上へ放り投げたり。自分で遊ぶ方法を見つけているのだから、知能が高いことが窺い知れる。私がアクロアイトさまにボールを投げてみると、鼻先で器用に打ち返してくれるし、ちょっとしたコミュニケーションツールにもなっているかも。

 遊んで欲しい時はアクロアイトさまがボールを足で掴んで、私の下に落としているし。それを放り投げると、口で器用にキャッチしてまた私の下へ戻って口から離す。

 行動が犬と同じなのだけれど、アクロアイトさまは竜だよねと首を傾げると、一鳴き二鳴きしたので抗議していたのだろう。数度鳴くときは、何かを訴えている時だ。犬じゃないと伝えたかったのだと思う。

 

 机の上に置いている手紙に目を落とす。


 リーム王国や聖王国もどうにかこうにかやっているそうだ。時折届く手紙や報告から、いろいろと事情は伺える。すわ亡国の危機かと考えていたが、人間やれば出来るもので乗り越えようとしているのだから逞しい。

 お金を着服した枢機卿さまや関係者は鉱山送りにされ、働いたお金を巻き上げられている上に、正規の鉱山労働者から白い目で見られているそうだ。罪を犯して送り込まれた人は彼らの侮蔑の対象らしい。大変そうだけれど、人のお金を奪って美味しい思いをしていたツケが回ったのだから自業自得。鉱山労働者って高給取りらしいから、使い込んだ金額を回収できれば恩赦があるかもしれないから、どうか頑張って欲しい。

 

 子爵邸の方もジャングル状態だったお芋さんたちを間引きすることはなくなり、もう少しで収穫が期待できそう。天馬さまのジョセのお腹も随分と大きくなっている。魔素が濃い所為か、成長も早いとかなんとか。大丈夫だろうかと心配になるけれど、無事に生まれてくることを願うのみだ。

 

 ここ最近の出来事を振り返っていると、部屋にノックの音が響く。どうぞ、と入室を促すとソフィーアさまとセレスティアさまが。何故かジークとリンまで一緒だったので一体何事だろうと首を傾げる。普段よりも何か緊張感があるので身構えてしまった。

 

 「ナイ。ヴァンディリアの第四王子殿下からだ」


 ソフィーアさまがそう言って差し出されたのは一通の手紙。


 「個人宛なので中身は確認しておりません。王城の魔術師に危険物ではないことは確認済み。開封して頂いても?」

 

 確かに中身を見ないことには始まらないよねと、手紙の端をペーパーナイフで切り落とす。そうして手紙に書き記されていた内容を確認して、みんなが読んでも問題ないので机に広げた私だった。

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