第291話:これから。

 聖王国教会の大会議場で大聖女さまが必死こいて、アルバトロスやリームに周辺国の人たちへ向けて弁明していたのだけれど。


 「――教会内部の方々には頼れませんっ! 皆さまのお力添えをお願いいたします!」


 おや、教会上層部の人間は使えないと大聖女さまが宣言してしまった。でもこの状況を見ていると、彼女の言葉は仕方ないとも言える。だって教皇さまを始めとした人たちは軒並み自身の事しか考えていないか、甘いことしか言わないんだもの。

 

 「なっ、大聖女よっ! どういうつもりだっ! 教会ではなく他国を頼るなどあり得ぬっ!」


 だんと机に握り拳を落として大聖女さまへ文句を付けた。聖職者とは思えない、凄い形相になっているし、他の殆どの方も同様だった。


 「お黙り下さいっ! 貴方方のその態度が教会の権威をどんどん下げていることを自覚なさいっ!!」


 聖職者さまの圧に怯まず大聖女さまが言い返すと押し黙る。周りの人たちも同様にもう諦めたのか、これ以上何か言うつもりはないようだった。


 「苦労しそうだな。――大聖女よ、他国が介入する意味合いを理解しておるのか?」


 背凭れに凭れていた背を離して陛下が大聖女さまへと問いかけた。というか、これで介入すれば内政干渉なんだけれども。

 下手をすれば、好き勝手された上に傀儡政権とか誕生するかもしれないよねえ。搾り取られるだけの、都合の良い道具扱いなんじゃないかなあ。利用価値があるのならば、支援したり手助けするのだろうけれど、聖王国にその価値はなさそう。其処は私が判断することではなく、陛下方が考えることだけれど。


 「……正直に言いますと不勉強故に理解しかねております。ですが、この場に居る聖王国の者を頼るよりも、教会は確実に腐敗から抜け出すことができましょう」


 真っ直ぐ前を見据えて陛下を大聖女さまは見ていた。内政干渉されても良いと宣言して大丈夫かなあと、チラリと陛下の方を見る。


 「大聖女がそのように申しているが、この場に居る者たちはどうしたいのだ?」


 陛下が大会議場を見渡す。


 「……」

 

 「…………」


 ここで発言すれば、大聖女さまが背負うモノを代わりに背負う羽目になるかもしれないから何も言えないらしい。本当にこの国はよく国として保っていたなあと思う。宗教で成り立っていたから少々特殊だろうけど、よく他国から侵攻されなかったなあ。

 

 「異論はないそうだ。良かったな大聖女よ。これで教会は君の物といっても過言はないだろう」


 「今の教会に価値はないので嬉しくはありませんが……。ですが、必ず教会正常化を成し遂げて復権を目指しますっ!」


 陛下やリームの王太子殿下ならば妙な事にはならないと思うけれど、大聖女さまは本当に貧乏くじを引いてしまった。教皇さまはあんなのだし、その取り巻きも頼れない、他の人たちもあまり頼れそうにないのだけれど、大聖女さま以外にまともな人は居ないのか。

 

 「その心意気は良いのだがな……他にも大聖女のように教会に尽くす者は居らんのか……」


 大聖女さまに頼られた陛下が頭を抱えていた。リームの王太子殿下もこの展開は考えていなかったのか、陛下同様頭を抱えている。代表さまは静かに座して様子を伺っているし、エルフのお姉さんズは面白そうに大会議場の聖職者さまたちを眺めてた。


 「あ……確か七大聖家の……」


 「この場には?」


 「居ません。その……教皇さま方に疎まれていましたから」


 どうやら教皇さまと取り巻きの人たちから煙たがられていたようだ。


 「大聖女の家の者は?」


 確か七大聖家の出身だったはずだが、ご両親はマトモなのだろうか。ふるふると大聖女さまが頭を振った。どうやら期待は出来なさそう。ただ、欲があるなら大聖女さまが教皇の座に就くとならば、上手く使えば後ろ盾にはなるはず。

 

 「まずは使えそうな者の選出と七大聖家のマトモな者を呼べ。話はそれからだ」


 乗りかかった船なのか大聖女さまではなくアルバトロスの陛下が指揮を執るという異例の事態に。大聖女さまがお付きの者に指示を出して待つこと暫く、質素な教会服に身を包んだお爺ちゃんと中年男性が数名この大会議場へと姿を現した。


 「此度は我が国の不祥事に巻き込んだこと誠に申し訳なく……」


 一体誰だろうと首を傾げていると、先々代の教皇さまだそう。そして更に彼に付き従う人が十名程が遅れてやって来た。大会議場に居る高位聖職者の人たちの顔が渋くなる。理由は七大聖家の内の一家で、現教皇さまとは敵対関係だからとか。

 で、この場に呼ばれることもなく裏で待機していたとのこと。先々代の教皇さまが再度私たちに頭を下げると、彼について来た人たちもそれに倣って深く頭を下げた。


 「いつか問題を起こすであろうと危惧しておりましたが、まさか他国の方がいらっしゃる席で我が国の恥部を晒してしまい……なんと申してよいのやら」


 そういえばテレビで見る教皇さまといわれると、今にも死にそうなよぼよぼのお爺ちゃんが務めているイメージだったが、現教皇さまは元気な中年だった。今目の前に居るその人は、イメージ通りの方で。好々爺と言った感じ。


 「フィーネ」


 お爺ちゃんが大聖女さまへと声を掛けた。


 「はい」


 「事情は聴いた。本来なら大聖女の仕事ではないが、教皇があの体たらくでは何も前に進まぬ」


 「分かっております。それにアルバトロス王を始めとした方々にお約束しました。罪を犯した者に罰を下し、必ずや教会を正常化してみせると」


 もちろん大聖女さまだけの力だけでは無理なので、アルバトロスや周辺国の力も借りることになると。

 

 「そうか。――だが他国に頼るのは駄目だ、内政干渉となろう。我らは構わぬかもしれぬが、彼らの国が迷惑を被ろう」


 他国から内政干渉したと突っ込まれると。この大陸に国際機関があるかどうかは謎だけど、他の国は良い顔はしないだろう。亜人連合国と関係を持ってしまったアルバトロス王国が危険視される可能性もある。これを機に打倒アルバトロスなんて掲げて同盟でも組まれたら危ないよなあ。


 「えっ、では……どうすれば私たちは……」


 お爺ちゃんの言葉にしゅんとなる大聖女さま。まあぶっ壊して新しく作り直すか、もう止めてしまうか。大聖女さま教を新しく興すかくらいしか、選択肢がないのではと考えを改めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る