第283話:【中】大会議場。

 人間に追われて大陸北西部へと逃げ込んだ亜人の方々は一個の力が大きい故に、彼らが束となれば大陸統一など簡単な話であろう。というか代表さま一人でもやろうと思えばできるんじゃないかなあ。

 普段は人化して過ごしているけれど、竜になればとても大きいサイズだし、力を振るっている所を見たことはないけれど、魔力量は凄くえぐいし。白竜さまだって代表さまに迫る勢いだし、エルフのお姉さんズやお婆さまもかなり凄い。亜人連合国で見かけた亜人の護衛の方々だって、人間の力量を軽く凌駕している。


 そんな彼らが大陸北西部へ追いやられたのは不思議でならないけれど、人間って欲が出ると凄く力を発揮する生き物。

 卑怯な手や彼らが思いつかないような知恵を働かせて、亜人のみなさまを追いやることを叶えてしまったのだろう。共存していれば大陸はもっと発展していたかも、なんて詮無い事を考えてしまう。


 大陸統一を目指さないのはご意見番さまに無暗に力を誇示すべきではないと教えられたことと、さして人間に興味がなくて大陸北西部にずっと引き籠っている。

 ただ若い世代は大陸北西部だけでは満足できないようで、興味が先立つらしい。だから代表さまたちは『融和』が出来るならと、第一歩としてアルバトロス王国と国交を開いた訳で。

 アクロアイトさまが私に懐いてしまったというのが一番大きな理由かもしれないが。


 「せ、聖女を紹介すれば貴国との関係を持つことが出来るのか?」


 己の欲を知られないようにとどうにか言葉を繕いながら、声を上げた聖王国側の一人の男性。その人に追随して顔色を真剣なものに変える面々の心の内は、一体どういう物なのか。聖職者だというのに欲に塗れすぎなのではと、疑問を浮かべてしまう。


 「さあ、どうだろうな。我らの目に適う者が居ればの話だ」


 良い流れじゃないようなと、不安を覚え始める。リーム王国の話もあるというのに、聖王国の教会の皆さまは自国の利益に目が眩んでいるようだ。

 どうしてこうも自身の欲を優先させてしまうのだろうか。今回の議会は教会から不利益を被った人たちが集まっているのだから、悪印象しか育たないのだけれど。はあと溜め息を零すとアクロアイトさまが、私の右肩から左肩に移動した。


 「話が逸れているな、戻そう。して、聖王国は此度の一件、どう我々に釈明をする? ――リーム王国の件も意見を聞かせて貰うぞ、なあ王太子よ」

 

 陛下がリームの王太子殿下に顔を向け、場を譲る。王太子殿下が確りと頷き、口を開いた。


 「ええ。話を都合よく吹き込み聖樹の管理を怠らせた一因は神殿……教会にもある。貴国から派遣された者は歴代、聖樹に頼り切りの方策しか打ち出さず、私が聖樹を酷使していることを指摘すれば否定した」


 それをリーム王へ告げ口をしたそうで、王太子殿下はたんまりとリーム王から怒られたと苦笑いを浮かべている。聖樹に頼り切りの方策しか打ち出さなかった王家にも責任があるが、神殿の者による吹き込みにも責任はあるだろうと。

 私がお金の使い込みが発覚して倒れてしまったことにより、アルバトロス王国からリーム王国への聖女派遣が遅れた事実もある。その辺りもどう釈明し責任を取るつもりかと、責め立てる王太子殿下。その後ろで、ギド殿下が良い顔を浮かべていた。

 

 「……しかし、此度の件はそちらの国々できっちりと処分を受けたと聞く。それで十分では?」


 いやいや逃げた枢機卿さまの存在を忘れては困る。彼からもお金になるものは全て引っこ抜かなければならないだろう。そして私やお金を使い込まれた聖女さまたちの肥やしとなって頂かないと。全て毟り取った後は、聖王国で煮るなり焼くなりお好きにどうぞという感じ。


 陛下にコレを伝えると、顔色を悪くしていた。いや、お金を使い込んで私腹を肥やしていたのは枢機卿さまたちで、その報いを受けているだけ。

 私の考え方が異常な訳じゃあない。公爵さまは面白そうに笑っていたけれど、今回はお留守番。流石に同行者が多すぎるので、選抜から漏れてしまった。陛下より公爵さまが聖王国へ赴いた方が、更地にする勢いでなにもかも毟り取ってくれたかも。


 「異なことを。貴殿らの任命責任もあろう。それにこの国へ逃げ込んだ枢機卿をこの場へ直ぐに連れて来ぬ時点で、奴を庇い立てしておると判断されてもおかしくはないと誰も気付いておらぬ」

 

 間抜けよなあ、と陛下がにたりと笑った。どうにも亜人連合国の人たちや妙な人たちを相手にし過ぎた所為なのか、陛下が吹っ切れているような。それかここ最近のストレスを聖王国で吐き出そうという魂胆なのか。

 聖王国の教会の皆さまを玩具にしているとも言えるけど。まあ、確りと謝罪と賠償を頂ければ私はソレで良いのだ。――仕事が更に増えそうだけれど、もう腹を括るしかない。


 「ぐっ!」


 下唇を噛んで陛下の言葉に反論するのを我慢している人たちが大勢いるが、反論する気概はないらしく黙り込んでしまった。これで終わりかなと視線を天井へと向けたその時、大会議室の大扉が開く音が部屋へと響く。視線を扉へ向けると、逆光でシルエットしか確認できなかった。


 「――済まぬなあ、アルバトロス王よ」


 目が慣れたのか、豪華な聖職者の服を着込んだ年老いた男性が入ってきて声を上げた。アルバトロス王国から逃げた枢機卿さまを警備の人たちが引き連れ、後ろに控えさせている。彼よりも簡素にした聖職者の格好をした男性が数名居て、この大会議室へ居た人たちよりも格上であるというのが、一目で分かった。


 「教皇さまっ!」


 「おいで下さったのですねっ!」


 一人の男性の登場で、大会議室の雰囲気が明るくなった。安堵の表情を浮かべた聖王国の教会の皆さま。さて、教皇さまと呼ばれた彼の登場で、話の流れは変わるのかなと首を傾げる私だった。

 

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