第281話:聖王国入り。

 転移魔術陣を使用して、一気に目的地へと辿り着いた。


 ――聖王国につきました。


 割と大所帯になっているし、このメンバーならば大陸を簡単に落とせるのではと思えてしまうくらいの豪華さだった。陛下が王国から出るということで、護衛役は副団長さまだし、他にも近衛や魔術師団から実力者が選抜されている。

 代表さまは巨大な竜だから、ちっぽけな人間が敵うはずもなく。エルフのお姉さんズも魔術というか魔法に長けている方だから、人間が相手をするとなるとかなりの数を要すし犠牲も多大となるだろう。

 

 『失礼ねえ』


 『そうだよ。あと君もちゃんと知識と技術を手に入れれば、私たちより上になるからね~』


 魔力が多いということは、そういうことなのだそうだ。あとは元から持っている資質次第。副団長さまやソフィーアさま、セレスティアさまのように火力に全振りの人もいれば、防御系の魔術しか使えない人、全ての魔術を扱える万能型だったりと様々で。

 またしてもエルフのお姉さんズに心の内を読まれているなと目を細めていると、聖王国側の人たちが仰々しく頭を下げた。


 「ようこそ、はるばる聖王国へ」


 「出迎え感謝する。此度の件は国として見過ごせるものではない。本来であれば政が神の教えに関わるべきではないが、そうも言っていられぬ事態となった」


 陛下が厳しい言葉を聖王国側に投げつけた。リームからは王太子殿下にギド殿下と護衛の方々に神殿の人たちと、粛清された神官さまたちの姿もある。アルバトロス周辺国の人たちもチラホラと居るし、聖王国の人たちに厳しい視線を向けている。それぞれの国にそれぞれの事情があるようだった。

 

 「貴国からの使者より話を聞き、事は重大と我々も判断しております」


 「そうか。それは良いことだ。アルバトロスもリームもそして彼らも教会の汚職により被害を被っておる」


 アルバトロスでお金を着服していた枢機卿さま二人から、指示は聖王国から派遣された枢機卿さまによるものだと証言を得ている。

 嘘か本当かはもう既に関係ない。枢機卿さまが聖王国へ逃げたことが何よりの証拠なのだから。あと逃げた枢機卿さまは、昨日聖王国を目前にして竜の皆さまに捕まり『聖女たちの金を使い込んだこと、身をもって後悔するがいい』とかなんとか言ってぽいっと聖王国へ投げ込まれた。


 聖王国側にもコレを逃がしたり庇い立てすればどうなるか分かるなと脅し……脅迫……ああもうなんでも良いか、とにかく圧を掛けてくれたのだ。逃げた枢機卿さまや聖王国の教会の人たちが恐れる分には構わないが、周囲の人たちには申し訳ない気持ちで一杯である。

 なにせ大きな竜が何匹も空を舞って聖王国へと行ったのだから。アルバトロスを敵に回すと超怖いと知れ渡ったことだろう。聖女は私だけじゃないし、私はきっとカウントされていない。

 

 「把握しております。この度は亜人連合国の方々にもご迷惑を掛けた模様で……」


 「我々は迷惑など被ってはおらんが、懇意にしている者が被害を受けたのでな。掟や法を破ることは見過ごせぬし、甘い処分などされては困る。見届け役としてアルバトロス王に同道させてくれと願ったのだよ」


 そう言って代表さまは陛下へと視線を向け軽く頷くと、陛下も頷き返す。亜人連合国とアルバトロスは仲良しさんというアピールらしい。エルフのお姉さんズは微笑みを浮かべつつ、魔力による圧を掛けていた。


 『やっほー! 事情は聞いているけれど、なんだか面白そうなことになっているのね~』


 お婆さまがぱっと姿を現して私たちの周りを飛んだあと、聖王国側の人たちの真ん前に立って手を振っていた。

 全く以って彼らはお婆さまを認識できていないようなので、くつくつと楽しそうに笑っている。

 

 私は彼らにくっついているだけだ。そもそも交渉の場で口を出す権利なんてない。心穏やかに聖女として椅子に座って、ニコニコしているだけである。

 若干、アクロアイトさまが聖王国側にプレッシャーを与えるかもしれないが、それは偶々。偶々である。だって外に出る時は、私の肩に乗っているのがデフォなのだし。アクロアイトさまの後ろに巨大で強大な竜の姿を幻視したとしても、気の所為。もしくは後ろめたいことがあるが故に、見えてしまうかも。

 

 「では会議の場に参りましょう。聖王国教会の主だった者が集まっております故」


 流れ出た汗をハンカチで拭いつつ、案内役のお偉いさんが歩き始める。


 「頼む。――皆、参ろう」


 今回、聖王国へと殴り込みをかけた面子の一番上はアルバトロス王となっているので、こうして音頭を取るのは陛下の役目となっていた。

 口々に言葉を発して陛下の後にぞろぞろと続く。護衛の騎士さまたちを除くと陛下が先頭を歩き、その右横後ろに私といつのもメンバーと枢機卿さま二名と無茶振りくんにアルバトロスの教会関係者。左横後ろに亜人連合国の代表さまとエルフのお姉さんズ。次にリーム王国の王太子殿下とギド殿下が続き、他の国の方々もぞろぞろ続く。

 

 聖王国の教会は王城も兼ねている。城の廊下の窓からは城下町が望め、巡礼者や街に住む人たちでごった返していた。

 

 なんだかんだ言っても、大陸各国の教会を束ねる国だ。それなりに発展しており、活気も十分にあった。

 よく見ると、冒険者の人たちや聖王国教会の騎士さまたちが街の警備に駆り出されている。治安も良さそうだというのに、教会の内情は一体どうなっているのだろうかと疑問になる。


 まあ、組織が巨大になればなるほど管理は行き届かなくなるだろうし、聖王国教会から派遣された枢機卿さまやお偉いさんが有能とは限らない。だからこそ今回、こんなことになってしまったのだろうし。


 そうして大きくてどえらく豪華な扉の前に立たされた。少々お待ちをと告げられて、案内役の人が教会の護衛騎士に声を掛け暫くすると扉が開かれ、蝶番が軋む音が鳴り響いた。

 

 「…………」


 「……っ」


 何とも言えない空気の中、大会議場のような場所へと歩を進める。じろじろと物珍しいものを見るような視線を向けられている。特に代表さまとエルフのお姉さんズに向けられている視線が凄いものになっていて、この人たち亜人の方々をあまり良くは思っていなさそうだなあと独り言ち。


 『楽しくなりそうね。まあ、殆どの連中が泡を吹きそうだけれど』


 『だよね~。嫌な感じ』

 

 『私たちが珍しいのねっ! 亜人を追いやったのは人間だっていうのに』


 お姉さんズとお婆さまから念話のようなものが飛んできた。代表さまにも『やっちゃいましょう』『そだよ~遠慮なんて要らないよね』と続けて念話で語りかけていた。代表さまなら無暗に喧嘩を売ることはないだろう。ただ掟やルールを破っているから、その部分に関してだけは容赦はないだろうけれど。

 

 アルバトロスの陛下やリームの殿下方に周辺国の方々もこの空気を異様と感じたのか、妙な顔になりつつ案内された席へと着く。

 私も指示された椅子へと腰を掛ける。あ、あの人はギルド本部の会議室に居た人だ。出身国は聖王国で、教会のお偉いさんでもあったのか。確かに僧侶というか神官というか司祭さまと言うべきか、そんな衣装を身に纏っている。他の人たちも各々好きな聖職者の恰好で席に就いており、統一感とかが全くなかった。


 組織として足並みそろっているのかと疑問になる。


 普通は揃いの衣装を身に纏い、所属している所を明確にすると思うのだけれど、聖王国の教会はどうやら当てはまらない様子。そして直線上の席には聖職者の衣装を纏った私と同じ年ごろの少女が、静かに座しているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る