第276話:何があるのか。

 アリアさまのご実家、フライハイト男爵邸を出てすぐにダウジングを再開した。ぷらんと指輪が地面へ垂れているけれど、反応する様子はなさそう。

 アリアさまとロザリンデさまも同じようで、指輪が動く気配はなさそう。移動しながら、三方向に別れる予定で、男爵領を隅々まで歩けば夕方には終わるそうだ。何か見つかると良いのだけれど、見つかったら見つかったで男爵領が大変な事になりそうだ。


 一番平和で穏当なものは水脈か岩塩地帯の発見だろうか。金、銀、銅などの鉱脈が見つかれば、話が大きくなってくる。

 鉱石に含まれる含有量と質で価値が決まり、含有量が少なければ採算が取れず、鉱脈が見つかっても旨味がないそうだ。だから不発に終わる可能性もあると男爵さまに説明した訳だが、何が見つかるのか楽しみではある。

 

 一攫千金を夢見て一山当てた人だって実際に居るのだから、期待せずにはいられない。鉱脈が見つかれば土地を所有する男爵家のモノとなるが、魔石の鉱脈が発見されたとなれば国が介入するだろう。

 

 「良い物が発見されると良いですね、アリアさま」


 鉱山と聞くと環境汚染が心配だけれど、魔術や魔法でクリアしているそうだ。随分と昔に鉱山から金属を垂れ流しており、病気になる人が多数発生したが原因究明して対策を施したとか。

 科学的にではなく魔術や魔法で解明されたことは不思議でならないが、そういうことらしい。なら、気兼ねなく見つけても問題はなさそう。


 「ナイさま。領が発展するのは嬉しいですが、父や兄はその手の知識がないので、どうでしょう……」


 アリアさまに声を掛けると、彼女のご家族には鉱山経営の知識はないようで。言っちゃ悪いが片田舎の男爵領を運営している方に、鉱山運営の知識があったらちょっと怖い。自領に鉱脈がある可能性を見出し、勉強して知識を得たとかならまだ分かるけど。


 「そうなれば国が援助してくれるかと」


 私が副団長さまに視線を向けると、彼はアリアさまの方へ向き口を開いた。


 「ええ。何が出るかはまだ分かりませんし、見つかったとしても更なる解析が必要でしょうが、利益のあるモノと判断されれば陛下は予算を組まれるはずですよ」


規模の大きい領ならば自前で全てを出来るかもしれないが、辺境の田舎領だし経営状態もよろしくなさそう。

 まあだからこそ国が目を付けて、調査団が派遣されているから気にする必要はないが、アリアさまは真面目だから気になるのだろう。国営となっても利益の一部は男爵領に還元されるはずである。そこから領地改革を進めれば貧乏からは脱出できる。


 あとはアリアさまのお父さまやお兄さまが、欲に飲まれないかが問題かな。


 国から定期的に入ってくるお金に目が眩んで、懐に貯め込むだけだと領地が発展しないし。まあ、この後の私たちの頑張り次第だろう。


 「さて、別れてそれぞれで捜索を開始しましょうか」


 「はいっ!」


 「ええ」


 「はい」


 副団長さまの言葉に元気よく返すアリアさまに続いて、ロザリンデさまと私が返事をする。男爵邸から少し離れた場所で、山へと続く道をロザリンデさまが行き、田畑が広がる場所をアリアさまが、森の中を私が担当することになった。それぞれに護衛の騎士や専門家の人がついて回る。


 「では、また後で合流いたしましょう」


 副団長さまの言葉にみんなが頷いて、それぞれの持ち場へと散って行く。私は森の中を担当するのだけれど、魔物とか大丈夫なのだろうか。

 副団長さまが何故か私の組に入っているし、ジークとリンも居るから心配はしていないが、何が起こるか分からないのが森の中である。リーム王国でゴブリン退治を済ませた後にオークが出てきたりもしたのだから、警戒するに越したことはない。


 ジークとリンが先行して、鬱蒼と生えた草を掻き分けて道を造りながらゆっくりと進んでいく。所どころから日差しが差し込んでいるので、足元の安全確認は安易だった。後は虫や蛇に気を付けつつ、魔物にも気を配る。


 「なかなかですねえ……」

 

 小一時間ほど森の中をうろついても何の反応もない。そう大きい森でもないので、半分の調査を終えたといった所だった。


 「少し休憩を取りましょう」


 副団長さまが声を上げて足を止める。そこは小川が流れており、休憩するにはもってこいの場所だった。腰を下ろせそうな石を探しつつ、田舎故か水は透明なので川で手を洗ったり顔を洗ったり。

 アクロアイトさまが私の肩から飛んでいき、川の中へにダイブした。浅いし水量も多くないので、溺れたり流されたりする心配は皆無なので、一人遊びしているアクロアイトさまを見守りつつ休憩を取る。私の背後で妙な気配を感じたが、理由は分かり切っているので後ろを振り向くなんて野暮なことはしなかった。

 

 ジークとリン、護衛役の方たちも交代で休憩を取ってから、再開された探索。森の中をあるくこと暫く、自然の中での水遊びをしてご機嫌なアクロアイトさまが私の耳元で一鳴きして肩から飛び立つ。それと同時に指輪がアクロアイトさまが飛んだ方向へぐぐぐと動くけれど、アクロアイトさまを放っておく訳にはいかない。


 「流石に不味い。追うぞっ!」


 「ええ、何かあれば大問題となってしまいますもの。――参りましょうっ!」


 「聖女さまの指輪も反応していますので、何かあるかと。行きましょうみなさん」


 私より先に反応したのは、ソフィーアさまとセレスティアさま、そして副団長さまだった。あと少しで捜索を終える所だったのだが、急展開を見せ。


 「ナイ、行くぞ」


 「行こう」


 「うわっ!」


 ジークとリンが声を掛けると、リンが私を抱えあげて走りだす。確かに背が小さいから足が一番遅いけれど、問答無用で抱きかかえられるとは思わなかった。

 行動に移すのが早いなあと、リンの腕の中で体勢を整え前を見る。アクロアイトさまはまだ小さい所為か早く飛ぶことはできないが、大人が走るくらいの速度はあるし、こちとら人間で足元が悪い森の中。

 着かず離れずの距離を保ちながら、とある場所でくるりと戻ってくるアクロアイトさま。リンと私の周りをくるくる回りながら飛び、ゆっくりとリンの肩の上に乗ると一鳴きした。先行していたソフィーアさまとセレスティアさまは、アクロアイトさまが戻ってきたので安堵していた。副団長さまは先に何があるのか気になっているものの、私たちを待ってくれている。

 

 「何か見つけた?」

 

 視線を合わせて言葉を掛けると、一鳴き。もう走ることはなさそうなのでリンから降ろしてもらい、アクロアイトさまが進もうとした道を自分の足で歩く。

 なんとなく垂らした指輪が反応を見せており、みんなで顔を見合わせる。そうして進んだ先で目にしたもの。あとから副団長さまからの説明で珍しいものだと知るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る