第271話:目覚めた王さま。
リームの騎士の方々がギド殿下に駆け寄る。殿下のすぐ横には大きなオークの死体が転がっていた。念の為に盲目のシスターに周辺を探って貰うと、魔物の気配は一切ないとの事で一安心。これで数日間、魔物が魔石に誘引されることはない。
取りあえず魔物の死体をどうしようかと、リームの騎士の皆さまとアルバトロスの面々で案を出し合っている所。
私たちを追って来ていた騎士長さまは、ずっとその場に立ち尽くして機能していない。ギド殿下曰く、お貴族さま出身のボンボンで箔付けの為に騎士長の座に就いたようなものだから、こういう経験は全くなく血生臭い現場も初めて。
あー、本当に残念な人たちが多いなあ。でもアルバトロス王国もそういう人は少なからずいるし、お貴族さまの社会だと仕方のないことかも。前世だってズケ取り――ゴマすり――でのし上がった無能な人は居た。社会の構図だねえと、さっきから微動だにしない騎士長さまや、神殿の神官さまたちを一瞥し、ギド殿下たちを見る。
「殿下、凄いですっ!」
「ええ、このような魔物をいとも簡単に」
「いや、俺が凄いんじゃない。倒せたのは聖女殿の騎士が動けないように場を整えたからだ」
殿下を褒め称えるリームの騎士さまたちに、ギド殿下がジークとリンに視線を向け、目だけで礼を伝えてた。
「しかしどうします?」
「埋めるにも数が多いし時間が掛かるな」
「少し良いか?」
ぬっとギド殿下の横に立った代表さま。
「だ、だだだ代表殿っ!」
落ち着いて、ギド殿下。声が上ずってる。代表さまは常識人で、取って喰われやしないから。むしろ取って喰うのはエルフのお姉さんズやクレイジーシスターである。失言なんてした日には、死ぬまで言われ続けそうなんだもん。基本、優しいし面白い人たちなのだけれど、怒らせると絶対怖い。危険人物、混ぜるな危険。
『失礼なことを考えていないかしら?』
『なんだか嫌な感じがしたよ~』
ほら、これである。美人で有能で心優しいエルフのお姉さんズが怒ると怖いだなんて、あはは、ありえないありえない。天地がひっくり返ってもあり得ませんとも。
「この一番大きいオークは城まで引っ張って行こう。リーム王に現実を突きつけるには丁度良い薬だ。残りは家畜の餌として村々に配れば良かろう」
聖樹の核となった魔石が魔物を誘引していると、ほんの少しだけ事実を曲げてリーム王に伝える。神殿にある魔石がまだ機能しており、聖樹を酷使した恨みにより枯れた聖樹が王都を魔物の手で滅ぼそうとしているのだと。
それを解決する方法はリーム王が玉座から退き、聖樹脱却派である王太子殿下に譲れば収まるだろう。これで退かなければリームは滅びの道を歩むのみと、エルフのお姉さんズに解説してもらう予定だ。何だか胡散臭い占い師みたいである。ただ、神殿の神官さまたちより説得力がある気がするのは可笑しいけれど。
「そうですね、そうしましょう。――オークを解体出来る者は居るか? それか村の者を呼んでこい!」
「はっ!」
走って小さくなっていく騎士さまの背を見送り、騎士の方たちが慣れた手付きで倒したオークを捕縛用の縄で足を縛って木に吊り下げて血抜き処理。
血があると妙なモノを引き付けかねないので、防水処理された布を敷いて近くの川に流す。環境破壊をしている気がするが、気にしたら駄目。そうして待つこと暫く、オークの死体処理を終えたリームの騎士さま達やギド殿下が良い顔を浮かべ。
「聖女殿、皆さま、城へ戻りましょう」
ちなみにリーム王の命令でやって来た騎士さまは、意気消沈していて使い物になっていない。どうせ、王城に戻るのだからあんな手荒なことをしなくても良かったのに。でも彼が率いていた騎士の殆どを聖樹脱却派に回らせることに成功したので、役には立ったか。
ギド殿下の声に呼応しなかったリームの騎士さんたちは捕縛されてる。王族を守る立場なのに何もしなかったという理由で。
寝返った皆さまには実家に戻って吹聴していただいたり、奥さまや婚約者さまの実家にも現王の所為で聖樹が枯れたこと、王太子殿下にはアルバトロス王国と亜人連合国が後ろ盾になったとお伝えくださいませ。これで少しは楽に代替わりが出来るだろう。あ、あと王妃さまの実家にも王太子殿下の後ろ盾になって頂かないとなあ。
どんどん話が大きくなっているが、王太子殿下には覚悟を決めて頂くしかない。
まあ、聖樹脱却を掲げた時点で相応の覚悟はしていただろうけれど、こんなに話が大きくなるだなんて考えていなかっただろうなあ。自分の身に降りかかると厄介ごとだけれど、他人の身に降りかかるならば面白いものなのだなあと実感する。聖樹についても解決したから、他人事になっちゃったし。
もしかして公爵さまは私がこうしてやらかしたり人脈を築いていることを、面白おかしく眺めていたのだろうか。あの人なら呵々と笑って楽しんでいそうである。豪胆な性格だし、荒事も楽しむ傾向がある。今回の事も愉快愉快と楽しんでいるに違いない。
アルバトロスの陛下は気が気じゃないかも知れないが、リーム王国の王さまが交代すると大陸最年少は王太子殿下になるはず。良かったね後輩ができてと、神妙な顔を浮かべていそうなアルバトロスの陛下に心の中で合掌した。
大きなオークは代表さまが歩いて引っ張っていくそうだ。大事な客人の扱いが雑だがあのオークを馬に引っ張らせるのも難儀するし、選択肢がなかった。大所帯になってしまったのでジークやリン、アルバトロスの騎士の皆さまは徒歩である。待たせていた馬車に乗り込んで、一路リームの王城へと戻るのだった。
そうして王都へと入って城の門を潜ると、リーム王と聖樹派貴族と神殿の神官さまたちが私たちを待ち構えていた。
「良く戻って来てくれた、ギドよ。聖樹は見つかったのか?」
少しやつれた顔のリーム王は、柔和な声でギド殿下に言葉を告げる。
「陛下。聖樹は枯れました。聖樹から逃げたという魔力も霧散し大地へ還りました。――それよりも報告したいことが……」
「何を言うっ! 聖樹は我が国の要、なくてはならぬ存在っ!」
ギド殿下には聖樹の魔石が魔物を誘引していると、伝えて頂く予定だったのだが、声を荒げたリーム王本人に遮られた。人の話は最後まで聞けよと、心の中で悪態をつく。
「陛下っ! いい加減にして下さいっ! 事実を直視せず、聖樹に頼ろうとする姿はもう王の器ではございませんっ! 聖樹の元となっている魔石が魔物を誘引しておりますっ!」
一度言葉を止めて騎士の方たちへと視線を移すと、リームの騎士の方たちが五人で大きなオークを引っ張ってリーム王の前に転がした。
「ひぃっ!」
神官さまたちは死んでいるオークに怯えて顔色が悪い。リーム王もあまり見たことのない魔物に引いているようで、何かを考えているような素振りを見せる。
「父上、いえ陛下。もう貴方にはリームを任せておけません」
静かな声色でこの場へとやって来た王太子殿下と、王妃さまに第二王子殿下が姿を現したのだった。
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