第261話:現場の途中で。

 鬱蒼と草木が茂る森の獣道の先頭をリームの騎士さまたちが進み、その後を私たちが追う。進むべき道は盲目のシスターが指し示してくれていた。どうやら森の近くになった時点で魔力の気配を感じ取っており『貴女の魔力と同じなので分かり易いですよ』と言っていた。

 ただ近くに大元である私がいるので『分からないことはないですが、邪魔ですねえ』とはっきりと仰った。本当に私の扱いが悪いよねと遠い目になりつつ、道なき道を進んでいる。


 「殿下、皆さまっ! お下がりください、魔物です!」


 先頭を歩いていた騎士の方々に緊張が走る。


 「どうやらゴブリンのようだ。我々が対応しましょう。――剣を抜けっ!」


 第三王子殿下の声に、リーム王国の騎士の方たちが剣を抜き構える。相対する魔物がゴブリンの為か先程よりも、緊張感は下がっていた。暫く待っていると問題なく倒したようで、安堵のため息が漏れていた。まあ、外国の要人を守りながらの魔物討伐は相手が小物であっても緊張するのか。


 「ナイちゃん」


 「はい?」


 クレイジーシスターがいつの間にか私に近づいて声を掛けられた。彼女の隣には盲目のシスターも一緒だった。


 「第三王子殿下にこの付近に町や村はありますかと問うて頂いても?」


 「どうしてですか?」


 「ゴブリンは群れで暮らします。規模が大きくなれば後々厄介になりますし、付近に村があればそこに住む方々にもご迷惑を掛けますからねえ」


 「ええ。個では弱いですが、群れとなると方々に被害を齎しますので」


 ゴブリンが現れたら群れを疑えと言われているくらいに常識ではある。村や町が近ければ、被害が出るのは間違いないけれど。王都で魔獣が現れた時も、辺境伯領に討伐遠征で現れた時も、終わった後でゴブリン狩りが実行されたそうだけれど、この場はリーム王国である。

 リームの方々にお任せするのが筋なのではと聞き返すと『村や町の方を放置する気ですか?』『貴女は人の痛みを理解できるようにならないと』と凄く酷い事を好き放題に言われる始末。シスター二人の圧に負けて第三王子殿下に問うと『確か小さな村があったはずだ』とのこと。


 「ナイちゃん」

 

 「ナイさん」


 「あの、聖樹の魔力を追うのでは……」


 アクロアイトさまが私の肩からリンの方へと飛んで行った。


 「ナイちゃん」


 「ナイさん」


 「……聖樹」


 「ナイちゃんっ」


 「ナイさんっ」 


 「…………分かりました。殿下――」


 第三王子殿下に『ゴブリンの被害を考えると、村の方々が心配です』と聖女ムーブをかました上に許可を取り、ゴブリンの巣を探し当てアルバトロスの面子に祝福を掛け速攻で潰すのだった。


 「す、凄いっ! あの数を一瞬でっ!!」


 「何ということだ!」


 リームの騎士の人たちが驚きの声を上げているけれど、祝福を掛けて底上げしているし戦力的には過剰なメンバーだし、巣の特定は盲目のシスターが探し当てたし。

 

 「皆さま、わたくしの我儘を受け入れて下さり感謝致します」


 討伐が終わって頭を下げる私に、ゆっくりと頷いてくれた。シスターズは言わずもがな満足そうな顔で微笑んでいる。

 盲目のシスターのお陰で直ぐに終わったから良いけれど、普通に探すとなればもう数時間は掛かっていただろう。本当に特殊な力だよなあと盲目のシスターを見ると、私の視線に気が付いたのか軽く頭を下げる彼女。


 「さあ、行こう」


 「はい」


 また聖樹から消えた魔力を追う為に歩き始めて暫くすると、また魔物に出会う。その魔物もさっくりと倒し道なき道を進んでいると、突然に光る玉が現れるとお婆さまが楽しそうにこちらへとやって来た。


 「お婆さま」


 『そろそろ着く頃かと思って、来てみたの! あ、そそ。あのおじさん目を覚ましたわ』


 リーム王をおじさん呼ばわりのお婆さまに苦笑いを返すと、リームの方々が不思議そうにこちらを見ているし、アルバトロスの祝福が掛かっていない騎士の方たちも同様で。どうしたものかと考えた末に事情をお婆さまに話して、全員にまた祝福一節分を施す。掛かった後で一様に驚いている人たちに説明すると、お婆さまをあんぐりした顔で見てた。

 

 「驚かせてしまい申し訳ありません、さあ参りましょう」


 私の言葉に頷いて歩みを進めるけれど『竜だけではなく妖精まで……』『アルバトロスの聖女は一体どうなっているんだ』とか好き放題言われていた。好きでこうなった訳じゃないし、単純に私の魔力の多さでこうなっただけである。他に魔力量が多い人がいれば、私の代わりになっていたかもしれないのだ。


 ちょっとの差でこういうことって変わるのだと思う。行動の選択が何か違えば、齎す結果も違っただろうし、備わっている能力を使い切ることが出来なければ死んでしまうことだってあるだろうし。

 人生なにが起こるか分からないし、楽しんだ者が勝つのだろう。その辺り副団長さまやお婆さま辺りには敬意を抱く。副団長さまは国へ忠誠を誓いつつ、魔術に関して好き放題やっている。お婆さまは妖精さんとして、自由気ままに生きているし。真似をしようとは思わないが、精神面の強さは見習わないと。


 「きゃっ!」


 考え事をしながら歩いていると、前を歩いていたロザリンデさまが木の根に引っ掛かって転倒しそうになった所を第三王子殿下がその逞しい腕で受け止めた。


 「大丈夫か?」


 「は、はい。ギド殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


 「なんの。騎士たる者は女性や子供を助けて当然だ、迷惑ではないよ」


 第三王子殿下も王族故か随分とイケメンである。あと鍛えているようで、結構がっちりとした身体つき。で、ロザリンデさまも美人だから随分と絵になっている。

 私じゃあああいう光景にはならないよなあと、眼前で繰り広げられているやり取りをぼーと見ていた。ちんちくりんを騎士が助けても、感動的なシーンにはなり難い訳で。照れた顔をみせているロザリンデさまと、ずかずかと前を歩くことを再開させた第三王子殿下。おやおやおや、と顔がにやけてくるのが分かる。

 

 「ナイさん、そろそろ近いようです」


 『本当、良くわかるわねえ。私も近い気がするわ』


 「何となくですが、僕もこの辺りが怪しいかと」


 魔力探知に長けている三人から同時に声が上がる。行軍する人たちを止めて、周囲の探索をお願いすると一人の騎士が妙なものを見てしまったと言って、こちらへと戻ってきた。


 「こ、子供が居ましたっ! しかも半透明のっ!!」


 慌てた様子で語るリームの騎士さまは随分と必死な様子で訴えかけている。お婆さまは見ている筈だから、そんなに驚くことでもないような。でも、最近はお婆さまや妖精さんたちが近くに居ることが当たり前になっていたから、普通の反応は今目の前で慌てている騎士の方が普通なのだろう。


 『全員に祝福を掛けておいて良かったじゃない。でなければ、見逃していたはずよ』


 確かに。結果オーライだけれど、リームの方々に掛けておいて良かった。


 「聖女殿っ!」


 「行きましょう」


 第三王子殿下に声を掛けられ、半透明の子供が居た現場へと向かう私たちだった。


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