第260話:現場まであと少し。

 リームの城下町はちょっと寂しいと感じてしまったのは、アルバトロス王国王都の街を知っているからだろうか。アルバトロスも王城から一歩出れば穀倉地帯が広がって長閑な光景なのだが、リームは更に平和な光景が広がっていた。


 田畑が広がって森や池が点在しており、道は未舗装状態。風に乗って鳶っぽい鳥が空を滑空して『ピョロロロロ』と鳴いている。

 王さまが乗るような豪華な馬車ではないので、衝撃吸収機能が低い。これはお尻に負荷が大分掛かりそうだと苦笑いするが、デキモノとかあれば絶対に乗りたくない。


 農作業をしている人がチラホラ見え、籠を背負って同じ場所を何度も行ったり来たり。おそらく収穫でもしているのだろう。本当に、長閑な田舎の風景だ。


 「アルバトロス王国の方々からすれば、リームは物足りないだろうな」


 案内役の第三王子殿下が苦笑を浮かべ、馬の手綱を器用に操っている。私たちが乗っている幌付きの馬車は、全体を覆ったものではなく天井だけが布を囲っていた。


 「長閑でいい場所ではありませんか」


 物は言いようである。自然は多いが人工物がかなり少なく、ところどころにある村もどこか寂しいものだった。私の言葉に周りの人たちが微妙な顔になる。第三王子殿下の言う通り、アルバトロスに比べるとリームは劣っていると言っても良いのだから。


 「だが、きっと兄上……王太子殿下や我々が梃入れをすれば、民は今よりもいい生活になるはず」


 うん、素直に頑張って欲しいと願う。聖樹がなくとも、きちんと農業知識が身に付けば改善効果は直ぐに現れそうだし。

 聖樹が枯れそうになってからはあからさまに収穫量が下がっていたそうだ。それに対して何も手を打っていなかったと聞き、リーム王の無策に頭を抱えたくなるが、こうしてやる気のある人たちが居れば大丈夫。

 

 「やれば出来ます。大丈夫ですよ」


 若いし体力が有り余っていそうだし、彼ならば民と一緒に田畑を耕しそうな勢いがある。第三王子殿下の部下と名乗った方たちも、朗らかで気の良さそうな人たちで、元気が有り余っていますといった感じ。王太子殿下と第二王子殿下が頭脳で、第三王子殿下が現場に出て指揮を執るなら、付いてきてくれる人も多そうだし。

 

 外務卿さまと王太子殿下と第二王子殿下方は事務方として、協議の席についてこれからのことを朝から話し合っている。

 リーム王を放っておいて良いのかと疑問になるが、外務卿さま曰く『アルバトロスは王太子殿下に付く、という意味合いもありますので』と言っていた。現在のリーム王政権を認めないということなのだろう。ついでに神殿の方も探っておけと陛下から言伝もあったそうだ。

 なんだかリームの王さまが代替わりする為に、ちゃくちゃくと進んでいるこの状況に驚くけれど、私から見ても現王は玉座に就く資格はないと断言できる。だからこそのアルバトロス王家がリームの王太子殿下のサポートをすることに、何の躊躇いもなく出来るのか。


 「有難いことにアルバトロス王も我々に好意的です」

 

 本当に留学して貴女と級友になれてよかった、と朗らかに笑う第三王子殿下。彼の周りに居る直属の部下の方たちも、うんうん頷いていた。


 「あの、リームの神殿は聖王国の教会が本流ですよね?」


 聖王国の教会から枢機卿さまや司祭さまだか、神父さまだかが派遣されているはず。

 

 「ええ。大昔に聖王国の教会から派遣された者が教えを広めつつ、聖樹を崇めていた我々の国に合わせて、馴染みやすいものにしたと聞いている」

 

 教えが広まらないと元も子もないので、その地域の風土に教えが合わなければ、ローカライズするという適当っぷり。そこは自信を持って自分たちの教義を教えようと言いたくなるが、聖王国から他国へ派遣された人たちが追い払われて帰国すれば無能扱いらしい。

 聖王国へと逃げて行った枢機卿さまは、自国に戻れば無能呼ばわりされるのでは。いやでもまあ、教えは一応広まって多くの人たちが信徒になっているのだから、昔ほどではないはず。


 「アルバトロス王国では教会だが、我々の国では神殿と名を変えて存在しているが……」


 が、最近はリーム王と共謀して聖樹が枯れそうになっているのを隠そうとしていたそうだ。第三王子殿下が王太子殿下の代わりに苦言を呈すと激高され、殴られたそうな。リーム王は文官畑の人なので大した威力はなかったそうだが、殴り返すのはぐっと我慢して反抗の機会を狙っていたらしい。

 

 「碌な連中を派遣してこない聖王国の教会も腹立たしいが、それらと結託した父が一番愚かだ」


 聖樹を奪ってこいと父から言われたと貴女方に言い放った時はスカっとしたよと豪快に笑った。


 「アルバトロス王国の教会上層部も褒められたものではないですが……」


 「だが、聖女殿は竜を従え一矢報いたではないか」


 話を聞いただけでも面白いと更に豪快に笑う第三王子殿下。あまり腹芸は向いていなさそうと彼を見ながら、笑い返す私。


 「いえ、まだ終わってはいませんから」


 まだ終わっていないんだよねえ。捕まった枢機卿さま二人からお金の回収はまだ済んでいないし、聖王国へと逃げ込んだ枢機卿さまはまだ野放し状態。聖王国へ逃げ込んだ所で、向こうとコンタクトを取る予定だけれど、どうなるのやら。


 「――着いたな。皆さま、魔物の出る森となっております、お気を付けを」


 副団長さまが居る段階で緊張感がさっぱりなくなっているけれど。行軍に慣れていないシスターたちが居るので、ゆっくりと進む予定となっている。


 他の方たちはそれなりに慣れているはず。騎士の方々とジークとリンはもちろん、私も経験者だし、ソフィーアさまとセレスティアさまも経験者。アリアさまとロザリンデさまも一度だけではあるが討伐経験アリ。近距離・中距離・遠距離に対応でき、防御系にバフと治癒なら聖女が三人も居れば、この人数編成ならカバー出来る。

 

 「参りましょう」

 

 私の声にそれぞれが返事をして、足を進め始めるのだった。

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