第258話:改めて。

 アリアさまのダウジング結果により、早々に王都の外へと向かうつもりだったのだが、日が暮れる時間となったのでリームの王城で一泊し、明日の朝一に出発しようという事になった。リーム側から宛がわれた部屋へと移動して、アルバトロス王国の面々で雑談を繰り広げていた。

 

 「私の結果を信頼しても良かったのでしょうか?」


 自信がなさそうな顔をしつつ、不安を込めた言葉で私に問いかけてきたアリアさま。彼女の心配は理解できるが、大規模討伐遠征の時も反応していたと聞くから大丈夫だろう。

 侯爵家の聖女さまは逆に落ち込んでいた『才能、ないのかしら……』と。副団長さまは、ダウジングによる調べ物は得手不得手があると言っていたので、そんなに落ち込む必要はない気がする。


 何となくアリアさまの実家の領には、何かあるんじゃないかと期待している。男爵家は貧乏だと言っていたが、鉱脈等の資源が出れば採掘して利益を得ることが出来るし、そのお金さえないなら国営にして何割かマージンを貰うだけで良いし。どちらにせよ、男爵領が潤うことは確実だろう。


 「自信を持って下さい。アリアさまは討伐遠征の時もあの場所を指し示していたと、ヴァレンシュタイン副団長さまから聞いていますので」


 ご意見番さまが居た場所に反応を示したのは、アリアさまと私だけだったそうだ。魔力感知系に長けているのではないか、とは副団長さま。

 今回、私はダウジングの理由を知っていたので参加はしなかったが、魔石や魔鉱石が眠っている場所も探知できそうな。副団長さまが、時間が出来ればアルバトロス全土を調べてみましょうねと、語尾にハートマークが付きそうな勢いで私に迫ってきたのだが、果たしてそんな鉱脈が発見できるのか謎だ。


 ちなみに副団長さまは第一王子殿下の依頼で聖樹の下へと行っている。地下に埋もれている魔石がまだ有用なのか、聖樹がまだ生きている部分はないのか調べるらしい。副団長さまの名声は他国にも知れ渡っており、実力と魔術具作成の腕、知識の多さから重宝されることがあるようだ。


 本人はお金は必要ないので気の済むまで調べさせて下さいと言っていたが、多少の支払いはあるのだろう。だって他国の要人をタダでこき使ったとかあり得ないし。お婆さまも興味があるのか副団長さまに付いて行ったので、聖樹について詳しいことが分かりそう。


 「ありがとうございます、ナイさま。でもやはり、何もなかったらどうしようと思ってしまって……」


 そうなれば、もう一度振り出しに戻るだけである。最悪、何もなかったごめんなさいで逃げることも可能だし。


 「何もなければ、ナイが責任を持つさ」


 「そもそも、他国の事ですから気にする必要は微塵もありませんわね」


 すまし顔でソフィーアさまが私に責任があると言ってのけ、セレスティアさまは他国の事だから気に病むことはないと言い切った。

 

 「え、えっと……」


 突然の高位貴族のお嬢さまたちから援護を受けて、あたふたしているアリアさま。ここ最近は、確りした人かぶっ飛んだ人にしか会っていないから、なんだか和むし新鮮だ。

 子爵邸で雇った人達もかなり厳選されているようで、言葉遣いとか態度は洗練されたものがある。下働きの人たちはそこまでではないが、ちゃんと区別は出来ているので妙な事になることはない。


 「明日を楽しみにしていましょう。見つからなければ、地道に逃げた魔力を追うだけです。シスターも協力して下さると仰っていましたので」


 近くになれば分かるだろうと、盲目のシスターは言っていた。それに私の魔力を取り込んでいる、というか殆ど私の魔力なので分かり易いとの事だった。

 副団長さまも『貴女の魔力ならば分かり易いですねえ』と零し、近くになれば直ぐに分かるらしい。お婆さままで『貴女の魔力は大きすぎて分かり易いわ。儀式で補填したから随分と注いだようだし直ぐに分かるでしょ』と言われてしまった。


なんだか私の位置が丸裸になっているような気がすると、渋い顔をしていたら『勝手に探るような無粋は……』『女性の位置を探るなど……』『用がある時しか探らないわよ、興味ないし』とお三方。

 一応、私のプライベートは保たれていたらしい。でもまあ、基本は王都に居るんだし、緊急時でもない限り調べようとはしないか。国や陛下からの指示なら、盲目のシスターと副団長さまは何の遠慮もなく探るだろうけれど。そんな事は早々ないのだし。

 

「はい!」


 アリアさまが綺麗に笑って答えてくれた。元気で素直な子だ、少し羨ましくはある。一応、私個人の行動ということで、今回の派遣団の何割かはアルバトロス王国へと戻っている。

 本来の目的であった聖樹への魔力補填は終えているので、多く編成されていた女性陣は転移魔術陣を使用して国へ送り届けた。もちろんその際には、私が魔力タンク替わりになったのは言うまでもなく。


 アリアさまと侯爵家の聖女さまは残ってくれ、捜索に加わってくれるとのこと。


 「リヒターさまも、ご協力感謝致します」


 「あの、聖女さま……どうして家名呼びなのですか?」


 「? ――名前を呼ぶ許可を頂いておりませんし、でも名を呼ばないのは失礼ですので家名を、と」


 侯爵家の聖女さまと私の顔を見て、ソフィーアさまとセレスティアさまが小さく噴き出すと、アクロアイトさまが私の肩から何故か侯爵家の聖女さまへと移動した。


 「……~~っ!!!!!」


 凄く妙な反応というか、めっちゃくちゃ固まっている。泡を吹いて倒れそうなのだけれど、大丈夫かな侯爵家の聖女さま。アクロアイトさまはアリアさまにも、ああして膝上に先程乗っかっていたが『可愛いです! あの、触っても良いのでしょうか?』と許可を求めてくれたのだけれど。

 

 「助けてやれ、ナイ」


 「…………妬けますわ」


 アクロアイトさまは限られたメンバーにしか懐いていないので、セレスティアさま的には複雑な心境のようだった。ソフィーアさまの言葉に椅子から立ち上がり、アクロアイトさまを回収すると一鳴きされたのだが、その声にはどういう意味があるのやら。


 「リヒターさま。――ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ナイ・ミナーヴァと申します」


アクロアイトさまを抱いたままとなるが、普通に礼を執った。聖女でも貴族でもない礼だから、意味合い分かると良いのだけれどと侯爵家の聖女さまを見る。アクロアイトさまが膝上に乗ったショックから抜け出し椅子から静かに立ち上がり、彼女も聖女でも貴族でもない礼を綺麗に執る。


 「こちらこそ、遅くなり失礼いたしました。ロザリンデ・リヒターと申します。是非、ロザリンデとお呼びくださいませ」


 「では私も名前でお呼びください。これからよろしくお願いします、ロザリンデさま」


 「はい、よろしくお願いいたします、ナイさま」


 出会いはあまり良くはなかったけれど、こうして平和に自己紹介を済ませられたのならば、これからもロザリンデさまとは関係が続いて行くのだろう。

 

 「呼捨てで大丈夫ですよ」


 多分だけれど、侯爵家と子爵家では家格が違うし、ソフィーアさまとセレスティアさまだって私の事は呼捨てである。

 

 「いえ、これはケジメのようなものですから」


 真剣な顔をしてロザリンデさまが首を振った。よく分からないと思いつつ、こういう事に厳しいソフィーアさまが何も言わないので問題はないのだろう。そうして夜の帳が落ち、夕食を頂いて就寝となった。若干物足りないご飯の内容に、子爵邸の料理長が作ったご飯が食べたいと、ベッドの中でぼやくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る