第257話:捜索方法。

 リーム王に玉座を早期に渡して貰う為、会議のときは私たちに説明役を付けなかったらしい。リームのお貴族さまの勢力図なんてあまり気にしていなかったので、綺麗さっぱり抜け落ちていたけれど。本来ならば級友として、こういうときは状況説明の為に同席するのが普通だと後から知った。


 「お気になさらず。――王太子殿下、殿下は聖樹からの脱却を望んでおられているのでしょうか?」


 「ああ。私だけではないよ、弟二人もそうだし、この場に居る者たちも私と意思を同じくする者たちだ」


 数は少ない為、大っぴらには言えないけれどねと苦笑している。あ、だからか。聖樹をどうにかできそうなアルバトロスとの縁が強いのは、第三王子殿下である。謁見の場や見送りの時に顔は知っているから、面識のない王太子殿下や第二王子殿下よりも頼りやすいだろう。

 傀儡にするなら御しやすい人の方が良いものなあ。もしかして、報酬云々もワザとだったのかも。でも、第三王子殿下は演技とか腹芸は苦手そうなイメージがあるが、人は見かけによらないともいうし隠すのが上手いのだろうか。


 「聖樹が枯れたと報告を受けた時は驚いたが、逆に好機とも考えたよ。ショックを受けて倒れたとも聞いたしね」


 「…………」


 彼の言葉に頷くと不味いので反応はしないでおく。


 「だが倒れた父よりも我々が気に掛けねばならぬのは、この国に住まう者たちだ」


 神殿には結界で認識阻害魔術を使って、枯れた事実さえ知らないし、まともな教育を受けたこともない。時間は掛かろうとも、他国から情報や技術を買い農業をきちんと発展させ、いずれは教育もきちんと彼らに施したいと願っているそうだ。


 「聖女殿、神殿が抱える聖女の質は貴女方には及ばない。恐らく聖樹の魔力を追えと命を下しても、探し出すことは不可能だろう」


 捜索許可を出す、皆異論はないなと王太子殿下がリームの面々を見渡すと、確りと頷いていた。


 「この場は非公式とはいえ外交の場だ。聖女殿は我々に何を要求する?」


 あれ、報酬があるのか。リーム王との取り交わしで聖樹を枯らしてしまったことはノーカウント。だからこその言葉と受け取って良いだろう。


 「わたくしがリーム王国へと望むことは……――」


 聖王国の教会に一緒に乗り込んで頂きたく、と王太子殿下に望むときょとんとした顔をした。どうやら事情が呑み込めないようだった。

 まあ、王都の扇動騒ぎが二日前だから他国の王子さまがまだ知らなくても仕方ないのか。恥知らずな枢機卿さまが起こした事件の顛末を話し、どうせなら一緒に聖王国の教会の方々を弄びませんかと問いかける。


 「いや、あの……聖女殿?」


 「アルバトロスだけではなく、亜人連合国の方々も同道されます。聖樹を失えば神殿の求心力も失いましょう。何もしなかったのはリーム王だけではなく貴国の神殿も同様」


 聖樹に頼るだけの信仰を広めた責任は神殿にもある。聖樹が弱っていたことは把握していただろうし、その時点で危惧しなかったのならばリーム王や聖樹派のお貴族さまたちと同じ穴の狢。

 それに聖樹に頼れなくなるのだから、お金は必要になる。ぶんどれるだけぶんどっておけば、何かの時に気兼ねなく使えるのだから、一緒に行きましょと誘っておいた。


 「私で良いのならば、構わないが…………分かった、貴国が聖王国へ向かう際は我々も同道する」


 リーム王でなければといけないという話ではないから、王太子殿下でも大丈夫。聖王国の教会に腹いせでぐうの音も出ない程に、後悔して欲しいだけだから。よし、王太子殿下の同意は得られた。逃げた枢機卿さまよ、あんたの全財産と名誉と地位を全部奪って差し上げようと、誰にも見えないように机の下で握り拳を作る。

 

 「有難うございます。――ではいくつかご用意して頂きたいものが」


 「用意できるものなら直ぐにでも手配しよう」


 王太子殿下に要望したものはリーム王国内の地図と糸。大規模討伐遠征の際、異常地点を探す為に聖女に試したアレである。盲目のシスターの話を聞いてしまった私には意味がないものだが、アリアさまと侯爵家の聖女さまが居るのだから、二人にダウジングをして頂く予定。


 王城の部屋が狭かったので二部屋に分かれていたことが功を奏した。


 反応がなければ盲目のシスターを引き連れて、リーム王国内を探さなくちゃならないが、その時はその時だ。盲目のシスターは基本的に優しい方なので、リーム王国の現状を話せば、納得してくれるだろう。


 「そんなもので良いのか? 分かった、直ぐに手配させよう」


 王太子殿下の後ろに控えていた人が部屋から出て行き、少し時間が経つと大きな型紙を抱えて戻ってきた。


 「どうするつもりなんだ?」


 机の上に広げてくれた地図を眺めつつ、興味があるのか王太子殿下たちが私に問いかけた。自分で語るのは恥ずかしいので、副団長さまに説明をお願いする。


 「聖女さまに乞われたので、代わりに説明させて頂きます。……――」


 聖女には不思議な力が宿っており、探し物の際はこうしてダウジングを行い、大体の場所を特定したり怪しそうな場所を特定すると副団長さま。

 

 『不思議よね~』


 副団長さまの言葉を聞いていたお婆さまがそんな台詞を言ってのけたが、エルフの方々や妖精さんたちはやらないのだろうか。


 『ん~。そもそも、探し物なんてないんだもの』


 な、成程。前提条件が丸っきり違うようだった。そりゃダウジングなんてしないか。不思議そうな顔で副団長さまの説明を聞いていた第三王子殿下が、彼を確りとみて口を開いた。


 「ヴァレンシュタイン卿、我が国の聖女でも効果は望めるのであろうか?」


 「得手不得手はあるかと思いますので、試してみては如何でしょうか。なにも告げずに、指輪などを括りつけた糸を垂らして、地図上を添わせるだけですので」


 人によって効果がまちまちだし、鉱脈、水脈、岩塩や石炭、魔力的要素を探ったりと応用は利くそうな。ただ効果がまちまちなので、目的のモノ以外を探り当てる時も多々あるそうで。

 あれ、それじゃあ辺境伯領の異常地点を見つけたのって、偶然だったのか。そういえば他の地点にも探しに行っていたからなあ。無駄足にならなくて良かったけれど、本当失敗していたら今頃胃に穴が開いていそう。


 「殿下、時間が空き次第試してみましょう。その価値はあるかと!」


 第三王子殿下や他の方々が嬉しそうに、王太子殿下へと進言する。農業以外に特産物がないみたいだから、是が非でも欲しいのだろう。大当たりを引き当てれば、国家運営も楽になる。

 後は王家、神殿、領地貴族との間での協議で、利益配分等を決めるのだろうけれど、農業以外は弱いから技術者やらを他国から招聘することになりそうだ。


 「ああ。だが今はアルバトロスの聖女殿たちの助力だ。我々が聖樹からの脱却を求めているとはいえ、やはり聖樹は必要となる。張りぼてでも良いから、どうにかせんと……」


 いきなり聖樹が枯れたとあれば王国の民には動揺が走るし、王家への求心力低下もあり得る。意識を変えつつ、農業改革を起こして聖樹から脱却しないとなと王太子殿下。その言葉にこの場に居る面々が確りと頷いた。

 一瞬で民の意識を変えることが出来れば、一番楽なのだけれど……。何かいい方法はない物かと暫し考える。

 

 別室から呼ばれて来たアリアさまと侯爵家の聖女さまがギョッとして、私たちを見る。まあ、何をさせるのかは教えていないし、この国の王太子殿下や王子さまたちが揃っていたらそりゃ吃驚する。

 お二人が行ったダウジングの結果は、リーム王都周辺のとある場所で反応をみせたアリアさまと、アルバトロスとリームの国境近くのアルバトロス領内で大きく反応を見せたのが侯爵令嬢さまの結果だ。


 「あ……」

 

 侯爵家の聖女さまが執り行っているダウジングが終わると、短く小さい声が上がった。


 「どうしましたアリアさま?」


 「あの……実家、私の家の領です……!」


 おや……と首を傾げるが、まずはリーム王国での反応を調べるのが先。アルバトロス王国内のことになるので、確認は帰国した時に行おうという事になったのだった。

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