第254話:会議参加。

 アルバトロス王国からは、向こうが私たちに危害を加えようとしないなら、協力してやれとの返事が来た。危害を加えようとするなら、問答無用でやっていいとのこと。そうなっていれば副団長さまを軸とした虐殺部隊が誕生するところだった。


 もう一つ陛下からの伝言で『強要したのはリーム王なのだから、聖樹を枯らした責任は一切聖女にはない。気にするな』と伝えてくれと陛下から外務卿さまへと言伝を預かったそうで。確かに責任はないのだけれど、心情的にはどうにかしたいと思ってしまうもので。ただ次はないようにしないと。つけ入れられる隙になりそうだから。


 王太子殿下と第三王子殿下が理性的で良かったと安堵しつつ、聖樹を祀っている神殿から城へと戻って会議室へと案内されたのだ。


 リーム王国の会議室はすし詰め状態だった。アルバトロス側も参加しているから仕方ないけれど、リームのお城の規模は少々小さい気がする。一次産業が活発な国家だから仕方ないのかもしれないが、もう少し広くても良かったような……。リーム王は倒れたままで議長は第一王子殿下もとい王太子殿下が執り行う。

 それに第二、第三王子殿下も参加しているが、神妙な顔で議会に集まったメンバーを見ていた。お邪魔している身だし文句は良くないと、リーム王国の重鎮さまたちが集まっている部屋の片隅で黙っている私たち。


 「聖樹が枯れてしまった……これから我々はどうすれば……」


 年配のお貴族さまが禿た頭を両手で抱えてそんな言葉を零した。なんだかリーム王も同じ台詞を言いそうだなあと、目を細める。

 

 「どうしたもこうしたもないだろう。アルバトロスの聖女が枯らしたのだ。……陛下は何故『失敗しても不問とする』などと……」

 

 はい、枯らした本人です。それについては誠にごめんなさい。ただそれを命じたのは貴方たちの国の一番偉い人です。分かっているなら文句は言わない方が良いのにと渋面になる。

 この場にはアルバトロス王国から副団長さまと外務卿さまに書記官さま、教会の統括、ジークとリンに護衛の近衛騎士さま数名、アクロアイトさまと私。そしてこっそりお婆さまがこの場に居る。他の方は控室で私たちが戻ってくるのを待っている。


 「やめろ。――我が国の聖樹が枯れてしまったのは寿命だ。決してアルバトロス王国の聖女殿が悪い訳ではない。これ以上彼女らを侮辱する発言をしてみろ、分かっているな」

 

 ぬぐっ、としかめっ面を晒して口を閉ざすリームの上層部の方々。もちろん、顔色を変えない方も居るし、王太子殿下に窘められたことにほくそ笑んでいる方も居る。

 どの国も一枚岩じゃないよねと遠い目になる。リーム王国の内情には詳しくないから、私に対しての嫌味が止まるなら有難いけれどリーム王が倒れてこの場に居ないのに、王太子殿下はリーム上層部の進退を決めるような言葉を紡いだが大丈夫だろうか。

 

 「王太子殿下、以前から聖樹の問題は表面化しておりました。――聖樹に頼りきりの状況をどうにかしようと模索していた所に……」


 「嘆いても何も始まらん。我々は聖樹からの自立を目指し改善の道を歩む。――陛下は頑なに聖樹に頼ろうとしていたが、良い機会だ。神から与えられたリームに対する試練と受け取ろう」


 王太子殿下は凄く前向き。聖樹に依存しているリームの現状を良く思っていなかったようだ。こくこくと王太子殿下の言葉に頷く、第二王子殿下と第三王子殿下。彼らの意思は王太子殿下と同じみたい。

 

 「何を仰いますか、殿下っ! 神殿が聖樹を失えば、信仰を失うも同義っ!! 聖樹がなければっ、聖樹がなければ……! うっ……」

 

 神官さまによる男泣きが始まった。えぐえぐ咽び泣き、平手で机をべしべし叩いているのだが、同情している人とドン引きしている人が半々。

 ちなみに私はドン引き。心の拠り所というよりも、自分の仕事がなくなるから嘆いているようにしか見えない。本当に信仰心がある人なら聖樹の寿命と知れば諦めるのが普通のような。


 「聖樹に頼ることはもう出来ぬ、神殿の皆にはこれから苦労を掛けることになるのは十分理解している。聖王国の教会にも助力を乞い立て直しを図ろう」


 王太子殿下は随分と思い切りが良い。まるでこの展開を予想していたように。聖樹がもう駄目だとは理解していただろうから、対策を練っていた可能性だってある。リーム王より話の理解が早そうだし、無茶なことは言わなさそう。


 「皆、聞いて欲しい。陛下は聖樹が枯れたことにショックを受け倒れた。陛下の回復を待って協議など悠長なことは言っていられまい」


 だから陛下が目覚めるまで我々だけででも協議し、これからの事を考えようと。確かに神殿の聖樹は枯れてしまった。

 命の根幹となっていた魔石が機能していないので、復活は無理。だが、盲目シスターの言葉で少し希望が見えている。ただ彼らがシスターや私たちの言葉を信じてくれるかは分からない。せめてリーム王国内を移動出来る権利をもぎ取りたい所。


 「然り」


 王太子殿下を確りと見すえて、年若い男性が頷く。


 「ですな」


 彼もまた王太子殿下を見て、中年男性が頷いた。


 「ですが……我が国の聖樹が……」


 白髪頭の年配の男性は聖樹にまだ固執しているようで。


 「……聖樹なくしてどうしろというのか」


 聖樹に固執している人同様に、まだ聖樹を頼ろうとしている老獪そうな男性が。


 「しかし、陛下不在で我々で勝手に事を決めても良いのでしょうか?」


 王太子殿下の言葉に対する反応は様々だった。言葉を受け入れる人、まだ現実を受け入れられず聖樹に頼ろうとする人。責任の拠り所を気にする人。沈黙を守ったままの人。そんな人たちを王太子殿下はゆっくりと見渡して、口を開いた。


 「問題ない。責任は全てこの国の王太子である私が取ろう。それに助言役としてアルバトロス王国の聖女殿や、魔術師として名高い副団長殿も同席して下さる」


 「アルバトロス王国から派遣されて参りました、聖女ナイ・ミナーヴァと申します」


 「アルバトロス王国魔術師団副団長、ハインツ・ヴァレンシュタインです」


 王太子殿下が私たちに視線を向けたので、立ち上がり会議室の中に居る人たちに頭を下げた。ざわざわと騒いで『子供じゃないか』『あれが黒髪の聖女か……』とか、肩に乗っているアクロアイトさまを見て『本当に竜を従えておる』とかいろいろ好き放題に言われてしまい。

 副団長さまもリーム王国上層部では有名なようで『あれがアルバトロスの魔術師団副団長』とか言われてる。他のメンバーは王太子殿下に呼ばれていないから、着席したまま。


 「――始めよう。皆、建設的な意見を求む」


 聖樹に頼らない道を模索するなら、私たちが同席する必要はあまりなかったか、と天井を見上げるのだった。

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