第216話:聞き取り。

 屋敷に戻ってお城へ使者を出すと、直ぐに返事が返ってきた。今すぐは無理だから夜に登城してね、とのこと。

 ヴァンディリア王国第四王子殿下とリーム王国第三王子殿下が私と接触を図ったこと、無茶振りくんが吶喊してきたことを簡単に伝えておいたけれど、さてどうなるやら。教会への連絡は、王国の判断次第なので保留にしている。

 

 お昼を簡単に済ませて、私が少しばかり支援している孤児院へ顔を出す。


 「久方ぶり」


 孤児院の食堂で子供たちの相手をしていた幼馴染兼孤児仲間の様子を見に、顔を出したのだ。ひょっこり顔を出した私に驚きつつ、どうしたものかという顔を浮かべている。


 「あ、ナイ……さま?」


 「いつも通りで大丈夫だよ。敬称も要らない」


 苦笑しつつ、片手を上げて挨拶替わりに。


 「えっと……」


 「まあ、この状況じゃあ言い辛いだろうけど」


 ジークとリン以外で護衛の人が居るわ、ソフィーアさまとセレスティアさまという高位貴族さまのご令嬢を二人侍らせているから。アクロアイトさまはジークの頭の上に避難している。どうやら大勢の子供が苦手らしい。

 孤児院で過ごしている子供たちはジークの事を知っているから、興味から彼に集って『触らせろ~!』『ジーク兄、触らせて!』と懇願してた。まあ、出来ないのでジークは困り顔で『すまない、それは出来ない』と謝っているけれど。慣れたらその内勝手に降りてくるだろうと、スルーを決め込み。


 「ちょっと、ね。落ち着かないかも」


 肩を竦めて苦笑いをした孤児仲間は、言葉を続ける。


 「どんどん名声を上げていくね、ナイは」


 「不本意だけれどね。巻き込まれたという方が正しいのかなあ……」


 もう泣きたいくらいに巻き込まれていると思う。いや、泣いても許されるような。勝手知ったる孤児院で、勝手に椅子へと腰かけた。


 「あのね、少し聞きたいことがあるんだけれど良いかな?」


 「構わないけれど、ナイの時間は大丈夫なの?」


 最近はここに来ても、直ぐに帰っていたからなあ。もう少し時間を取りたい所だけれど、忙しかったこともある。


 「その分は確保してもらったよ。私に付けてくれた人は優秀だから」


 そう言ってソフィーアさまの方を見ると、少し照れているような。まあ、いいかと前を向いて孤児仲間へ向き直る。


 「教会の上層部に噂ってあるの?」


 「え……」


 私の言葉にきょろきょろと周りを見る孤児仲間。どうやら口にしても良いのか判断が付かないらしい。


 「此処にいる人たちはアルバトロス王国へ忠誠を誓ってて、教会とはあまり関係ない人たちだよ」


 信者の人が居るかも知れないが、基本的に彼ら彼女らが優先するのは国である。国に悪影響を及ぼすならば、死ねとか平気で言い放つ人たちで。


 「……――ああ、うん。まあ、最近はちょっと酷いよねってなってる」


 教会の神父さまやシスターたちは敬虔な人が多いし、仮に野心を抱いていたとしても登れる可能性は低い。

 酷いのは一部の教会系お貴族さま。聖女さまたちが預けているお金を着服しているとか、使い込んで豪遊しているとか噂が流れているそうだ。横領したお金は自領の教会や屋敷に隠しているとか、いろいろと噂されているようで。


 「あくまで噂だよ。だから真実かどうかも分からないんだ」


 噂で耳にしたことを確かめる術がないから、確証はないと。でも、火のない所に煙は立たたない訳で。おそらく着服してるのだろうなあ。

 しかし、私がお金を下ろした時はきっちりと支払われていたのだが。まあ全財産の三割程引き出したから、使い込みが五割なら分からないからなあ。残金を全額引き出した時に、教会が支払えるかどうかが鍵になりそうだ。


 あとは王国と無茶振りくんの話の内容次第かな。


 「ん。そこまで分かれば十分だよ、ありがとう」


 「でも、ナイは凄いね。――王都のみんなが黒髪の聖女さまは『竜使いの聖女さま』って呼んでるよ」


 「ぶっ!」


 吹いた。


 「汚いよ、ナイっ!」


 何それ聞いていないし、竜を使役したことなんて一度もないけれど。噂に尾ひれ背びれがついているなあ。王都の街に出たら大変な事になりそう。大人しく貴族街で暮らしていくしかないの、コレ。


 「ごめん……その噂本当なの?」


 「うん。一ケ月位前に竜が空を飛んだでしょう。その時にこの大群の竜を従えたのがナイだって――それに……」


 未だにジークの頭の上に乗っかっているアクロアイトさまを見る孤児仲間。


 「い、いろいろとあったんだよ。本当……」


 「あー……うん。その、僕はナイに頑張ってって、応援するしか出来ないから」

 

 眉をハの字にさせて困り顔になる彼。なんだか普通の反応ですごく癒されるんだけれども。みんなは確りしろとかちゃんと振舞えとかだものなあ。


 「ありがとう」


 「? ……うん」


 「あ、そうだ。あと一つ話があるんだった」


 そう言って、子爵家で開設する託児所の世話人を住み込みでやってみないかとお誘いを掛ける。子供の世話を出来る人って案外少ないし、身分も高い人は居ないからその辺の問題はクリア出来ている。

 託児所を開設するのは護衛の人たちが休憩所や仮眠室にお風呂として使う別館になるから、女性よりも男性を雇った方が良い気もするし。まあ女性や子供に手を出せば、問答無用だけれどね。

  

 孤児院の職員が足りないなら雇えばいいだけだし、ソレに掛かるお金は私がある程度支援すれば問題はない。

 

 「僕だけがナイの所へ転がり込む訳にはいかないよ」


 その年齢で他の仲間に気が回るのは良い事だと思う。

 

 「あ、向こうにも同じ話はしてるよ。適材適所だけれどね」


 もう一人の孤児仲間にも声は掛けている。我が家の家宰さまが助手か弟子が欲しいと言っていたので、商家で働いているアイツならば適任だろうと踏んだのだ。こちらもNGが出れば別の人を雇うだけなので、気楽に返事をしてくれとお願いしてある。


 「まあ、考えておいてよ。難しく捉えなくてもいいから。じゃあ施設長さんに挨拶したら帰るね」


 「分かったよ。ナイはいつも無茶を言う」


 「そんなつもりは……言ってるかも?」


 生き残る為に無茶を言ったり、無茶を望んだりしたこともあるからなあ。苦笑して、孤児仲間に手を振って孤児院の施設長さんが居る部屋へと行き、先ほどの彼と同じ問い掛けをして同じような返答を頂き。あと、孤児仲間を引き抜くかもしれないという許可も得て、孤児院を後にするのだった。

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