第197話:解散後。
夜も遅いので解散しようとなった。
銀髪くんは、あと数日ギルド本部の広場に放置されたままだそうだ。ご飯は一応与えてくれるみたい。鎖に繋がれているので、犬食いするしかなさそうだけれど。
で、銀髪くんは大陸各国を回って晒し者か市中引き廻しの刑に。ついでに彼の罪状もご丁寧に広めるそうで。自分を省みることが出来ないので、それくらいの事をしなければ事態を分からないだろうと代表さま。各国の転移魔術陣を使うとのことなのでⅤⅠP扱いだ。
「反省できるかな……?」
結末は変わらないとはいえ、反省しているのと反省していないのじゃあ違うしなあと、私の後ろを歩くジークとリンに声を掛ける。
「無理だろう。根本的な異常者だ、アレは」
手厳しく言い放つジーク。
「無理。あり得ない」
リンさん、言い切っちゃったよ。
ギルド本部の人の案内で廊下を歩くこと暫く。本部でアルバトロス王国勢が借りている部屋へと戻る。亜人連合国の人たちは、自分の国へ帰ると言ってそそくさと戻って行った。
銀髪くんを放置しておいて大丈夫なのだろうかと疑問が湧くけれど、逃げられないだろう。冒険者の人たちが自主的に監視に就いてくれるそうだし、亜人連合国の護衛の方も何名か残って監視業務に当たる。
「すみません、お待たせいたしました」
立ち番をしている近衛騎士の人に声を掛け、入室許可を得てから部屋へと入ると、何故だか皆さん疲れた顔を浮かべてた。
「ああ、戻ってきたな」
机の上には結構な数の書状が置かれており、それと格闘していたようだ。政治に関してなら私は関係ないと、とりあえず頭を下げて顔を上げる。そうすると陛下が手招きをして、下座にあった一人掛けの椅子へ座れと指示された。国へ帰らないのかなと疑問を浮かべていると、陛下が私の方を見る。
「これは君に届いた婚約打診の書状だ。各国からな……以前にも届いていたが、まだ諦めていないらしい。下位の貴族から王族まで様々だぞ」
「え?」
なんでそんなものが私の下へ舞い込むのだろう。――ああ、でも少し前に公爵さまが釣書が国内外から届いてるって豪快に笑っていた。まだ届いていることに驚きだけれども。
「我々の都合で悪いが、国外からの婚約関係は全て蹴るぞ。時折、治癒依頼の書状もあるから一応は目を通さんとな」
ぐにぐにと眉間を手で握って解す陛下。宰相補佐さまと外務卿さまも疲れた様子を見せている。公式な場ではない所為か、普段よりも砕けた口調だし雰囲気も軽い。
「私が見ても問題はないのでしょうか……?」
機密とかないよねと心配になってくる。
「聖女である君宛てだ。問題あるまい」
「ええ。貴女さま宛てなので問題はありませんなあ。ただ数が多くて大変です。持ち帰って精査しなければなりませんし」
おそらく得た情報から国外のお貴族さま情報を集めるつもりなのだろう。情報って大事だから、こういう小さい所からでも抽出して国外事情を把握するのは当然だ。陛下の言葉の後に続いた宰相補佐さまは苦笑いを浮かべつつ、仕事は増えたと言っている。
「外回りで聖女さまにと書状を沢山頂きました。その代わりと言っては何ですが、アルバトロス王国が益を得られたのですから、文句は言えんでしょう」
疲れてはいるけれど、何故だか嬉しそうな外務卿さま。外交がお仕事なので、自国が有利になるのならば嬉しいようだ。そのかわり書状の中身を確認しなきゃならないようで、大変そうだが。
「ああ、そうだな外務卿」
「有難いことですな」
陛下と宰相補佐さまも苦笑を浮かべ、書状に視線を落としている。見ても良いという事だったので、私に一番近い書状に手を伸ばして文字を目で追う。その方の経歴がつらつらと書かれており、もう一枚は姿絵だった。
年齢:五十二歳
爵位:伯爵位
趣味:狩猟・乗馬・読書
年齢以外は普通だし、年齢相応の姿絵。美中年と言ったところ。とある国の伯爵さまで領地貴族。領地運営も順調のようで、そこらに居るお貴族さまである。
一言:私の十六番目の奥さんになって頂きませんか?
「……十六番目」
十六番目って。五十二歳で十五人の奥さんを抱えてるのか。元気だなあと遠い目になる。まあ、国毎の風習で普通なのかもしれないし、偏見はよくないか。
「捨て置け。本気ではなかろう。そもそも我が国の聖女に手を出そうとしていることが愚かだぞ」
「聖女さま、そのお馬鹿な書状を頂けますか?」
「はい」
陛下が深いため息を吐き、宰相補佐さまがにこやかに笑って書状を渡すように促す。必要ない物なので素直に補佐さまへ渡すと『小物に分類しておきましょうね』と、楽しそうに笑っている。注目すべき所も特段なく、気にしなくても良い存在と判断されたようだ。
「こちらは治癒依頼ですね。――薄毛を治して欲しい……気持ちは理解できますがねえ。子爵さまですか、ふむ」
外務卿さまがポイと書状を投げ込んだ先は『小物以下』と書かれた箱に。この部屋での出来事は、部屋を出た後で見なかったことにしようと決意する。小物に分類されている箱があるということは大物があるのではと、他の箱を見てみる。一応、あったけれど今の所中身は空で、ほっと一息。
怖くて次が見れないなあと目を細めると、宰相補佐さまが一枚の書状を私の目の前へ置いた。
「えと……」
「目を通して頂きたい相手ですな。受ける受けないは全く別の話となりますが」
ようするに話があったということだけは、知っておいて欲しいということだろう。仕方ないので書状に手を伸ばし、文字を読む。この印はヴァンディリア王国の刻印だ。アルバトロス王国の隣国であり友好国。大会議室でやり取りも、裏で手を回していたみたいだし、無視はできないということだろうか。
年齢:十五歳
爵位:ヴァンディリア王国第四王子
趣味:読書・舞台、音楽鑑賞
「王族の方……」
「まだ居るぞ。我が国より格下だが、嫁でも婿でも好きな方で構わんとな。遠慮なく蹴るが……王女の嫁ぎ先は国内だな、碌な事になりそうもない」
はあと深いため息を吐く陛下。アルバトロス王国には第一王子殿下、王族籍から外れた元第二王子殿下に第三王子殿下。
第一王子殿下は学院の三年生なので、十七歳。卒業と同時に十八歳となり立太子と婚姻が同時に成される。第二王子殿下は以下略。第三王子殿下が確か今は正室腹の十歳だったはずだ。そして王族最年少の王女殿下が七歳だったか。一度もご尊顔を拝見したことはないが、王妃さま似と噂である。
「王女殿下を使って聖女殿へ話を通そうとするでしょうから。――しかし陛下、お決めになられるので?」
「可愛い盛りで意味も分かっておらぬだろうが、そろそろ腹を括らねばな。父としても王としても」
また深いため息を吐く陛下。男親は女の子供は可愛くて仕方ないと良く聞くので、陛下も親として嫁になんて出したくはないのだろう。だが一国を背負う国王さまだ。そういう訳にもいかない。政治の道具だし、国益となるなら決断しなければ。
しかし、こんなことを私が耳にしても良いのだろうか……。
「!」
嫌な予感。これは内情を耳に入れさせてお前は国の中枢部に居るのだぞという、陛下たちからの無言の教育なのだろうか。広場から戻って来るんじゃなかった……と頭を抱え、ヴァンディリア王国第四王子さまの釣書に視線を落とす。
一言:貴女さまに一目お会いしたい。
そう書かれた文字が目に入るのだった。
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