第192話:連行。

 引き篭もり体質のアルバトロス王国国王陛下とヴァンディリア王が『問題を起こした他国に、攻めるのも辞さない』と言ってのけたので、大会議室はざわめいてる。


 ――私の存在なんてちっぽけなもんです。


 目立たず、騒がず、そろそろ退室を……と願っていたのだけれど、なんでか注目されとりますやん。そこは代表さまやエルフのお姉さんズへ視線を向けるべきでは。魔力を練るのも止めているし、問題はないはずだったのに。


 『いや、無理だと思うよ~』


 エルフのお姉さんBが私の心の中を勝手に読んでるし。


 『何も話題にならないで、このまま退室なんてあり得ないでしょうねえ。さて、可愛い子が釣れると面白いけれど』


 お姉さんAにまで突っ込みを入れられ、くつくつと笑っている彼女はこの場を完全に楽しんでいる。馬鹿を発見する為に。


 「すまない。彼女が抱いている幼い竜は、彼の冒険者が屠り卵となり生まれた後の姿なのか?」


 お姉さんズが言った通りに釣れた人がいるけれど、片手を上げて口を開いた人は単純に興味か疑問っぽい。


 「そうだ。だが誤解がないように伝えておこう。愚か者の冒険者が屠り、卵となった訳ではない。彼女が浄化儀式の際に葬送も兼ねていたからこそ、魔石を卵へと変質させ、次代を残したのだよ」


 ふと漏れ出た声に答える代表さまが、私とアクロアイトさまに視線を向けて微笑む。彼の言葉に小さく頷き、膝に座るアクロアイトさまを見ると、一鳴き。


 「確かに凄い魔力を有しているようだが……そんな簡単に浄化儀式を執り行えるものなのか?」


 「彼女は我が国の聖女だ。――魔物が出現し対応の為に軍や騎士団が派遣されるとなれば、聖女も治癒師として同行する。彼女の実力に疑問があるならば、教会に問い合わせてみると良い」


 討伐派遣記録が残っているし、その際の行動が報告書として纏められている――と陛下が。教会もギルドと同じで国を超えて存在しているから、資料を取り寄せようと思えば出来るのだろう。

 自国の内情を開示しているようなものだけれど、問題があるような内容なら握りつぶすか内容開示出来ないように機密書類に分類されるかと、一人で納得。


 「はっ! 子供にそのような役目を押し付ける国がまともな筈はなかろう! やはり引き篭もりの腰抜けだなあ、アルバトロスは!」


 亜人嫌いの大陸南東部にある某国のお偉いさんが、また喰い付いてきた。嗚呼、学ばないなあと遠い目になる。


 『小物しか掛からないね~』


 『そうね。面白くないわ』


 好き勝手言っているお姉さんズ。確かに小物っぽいけれど、一応は国の代表者を務められるお偉いさん。


 「そう思いたいのならば、そう思っておけばよろしかろう。逸った行動を起こして困るのは貴国ぞ?」


 正しい情報を上に報告しろよと陛下が圧を掛けているようだけど、頭に血が上っていそうな彼に出来るかな。亜人嫌いと、引き篭もり体質な大陸南域の国々にアレルギーを持っているようで、正しい判断は難しそうだけれど。


 「ふむ、確かに。――それに此度の会談は冒険者ギルドの運営是正の為に赴いておる。亜人だの引き篭もりだのが問題ではない」


 偶々、大陸南部と亜人連合国が関わるようになっただけ。話を逸脱させる為に集まった訳ではないと、今回アルバトロス王国がこの件を機に食料援助をするようになった、大陸北西部の王さま。ぶっちゃけてしまうと冒険者を重用していない国は、あまり関係のない話である。

 

 「くっ!」


 嫌いな国以外の人の言葉には弱いのか、押し黙るお偉いさん。パワーバランスを把握するのが大変だけれど、こうして見ているだけなら面白い。


 「此度は我々が確りと管理監督すべき冒険者が私欲に負け、各方面へご迷惑をお掛けしたこと真に申し訳ない」


 話は終わったとばかりに、冒険者ギルド本部のお偉いさんたちが立ち上がって頭を下げる。冒険者システムが崩壊すれば困る国もあるから、これくらいが収めどころなのだろう。亜人連合国やアルバトロス王国が被った被害の補填を行うと宣言して、今回の会談が閉幕する。


 各々が立ち上がり大会議室から出ていくのを眺めていると、ふいに声が掛かった。


 「さて行くか」


 「そうね」


 「こっちがメインだよ~」


 代表さまとエルフのお姉さんズが軽い調子で言ってのけたけれど、一体何処へ行くのだろうか。席を立ちあがりギルド本部のお偉いさん方に声を掛けて、なにやら話し込んでいる。用は終わったのか振り返り、手招きされる私。


 「行ってきなさい。私たちは部屋を借り待機していよう」


 「はい。御前、失礼致します」


 まだ席に着いている陛下に頭を下げると、彼の横に座っているヴァンディリア王まで私に微笑み小さく頷いている。

 あの事件振りに会ったのだけれど、何か目的でもあるのだろうか。偉く好意的だし。何かあれば陛下や国を通して話がきそうだけれど、今の所その気配はなく。取りあえずは代表さまたちにくっ付いて移動だから、置いて行かれないようにと三人と護衛の人たちの背を追う私。その後にジークとリンに王国の近衛騎士数名が続く。


 ――ギルド本部、中庭。


 移動先は銀髪オッドアイくんが放置されている中庭だった。獣耳な亜人さんたちが厳しい表情で檻を取り囲んで、警備をしていた。そのうちの一人の手の中には、銀髪くんが得物として使っていた大剣が。軽々と持ち上げているので、亜人の方の力の強さが窺い知れる。


 「出して猿轡を外してやれ」


 「あいよ。――……出ろ」 


 結構気軽な返事だったけれど、代表さまとエルフのお姉さんは気にした様子はない。かちゃりと南京錠が開く音と、念の為に魔術を利用した施錠が解除される音が鳴る。銀髪くんの腕を無理矢理に掴んで、無理矢理に出される。

 抵抗する気力がまだ残っているようで、檻から掴みだした亜人の護衛の方を睨みつけていた。ぱちんと指を鳴らすと猿轡が外れる。


 「はっ……! ――おい、クソっ! なんなんだよ手前らはっ! ずっと俺を拘束して何が楽しいんだ!」


 威勢よく叫んだ銀髪くんが繋がれている手錠の鎖を代表さまが掴んで歩き始めると、お姉さんズに肩を押され歩くことを促された。私たちが街を歩いていると『離せっ!』『クソっ!』『何様のつもりだっ!』『解けねえっ!』等々の言葉を上げる彼。

 対して代表さまたちは始終無言を突き通している。割と表情豊かな方々だというのに、今は無。怖いよ、と口にしたくなるのを我慢しながら歩く。そうして辿り着いた先は、ギルド本部がある街の中心部。多くの冒険者が行き来をしており、武器屋さんや道具屋さんが立ち並ぶ場所でもあった。


 一体何を始めるのだろうと、無表情な代表さまの顔を見上げるのだった。

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