第190話:大会議室。

 ――ギルド本部。


 城下町をイメージしていたけれど、普通の小さな街といったところ。街の北端にあるギルド本部の窓から見る景色は、道行く多くの人たちは冒険者の装いだし。喧嘩をしている声も聞こえてくる。

 王都の王城から見る景色とは、随分と趣が違っていて面白い。アルバトロス王国に生まれていなければ、銀髪くんのように冒険者になっていただろうか。

 

 視界の端に映っていた銀髪くんの姿を、きちんと捉える。


 失礼な言い方ではあるが、てっきり亜人連合国で処分を下されていると考えていたけれど。本部の中庭で檻の中で猿轡を噛まされている銀髪くん。何もできないので諦めている雰囲気もありつつ、目は死んでいない気がする。

 謁見場で陛下の言葉に萎んでいたけれど、反省は出来たのだろうか。これから彼に訪れる結末は変わらないかもしれないが、己の行動を顧みることが出来ているのと、いないのじゃあ違うと思うから。

 

 「ナイ」


 窓から景色を眺めていた私をジークが呼ぶ。予定時間が訪れたようでギルド本部にある大会議室で会談が行われる。

 既にギルド本部上層部は入室を済ませているそうで、あとは大陸各国の代表者の入場を待つばかり。大会議室は特殊な造りとなっており扉が多く設けられ、同時入場が可能だそうだ。そして中は丸い大机があるとかなんとか。

 

 「あ、うん」


 彼の声に答えて、窓枠から手を放す。

 

 ジークとリンの腰には彼と彼女専用となるドワーフさんが腕を振るって打ってくれた、両刃の剣を下げている。刀身を少しだけ見ることができたのだけれど、ジークの剣が黒色の刀身がベースに赤のライン、リンの剣が赤色の刀身がベースに黒のラインが入ってる。

 二人の身長に合わせて刀身の長さも違うので、オーダーメイドで作った甲斐があった。あとは試し切りをしたいよねと話し、そのうち討伐依頼で出来るだろうと言ったけれど、その機会はいつになるのやら。

 

 陛下や代表さまの背を追いつつ、最後尾を歩く。ジークとリンに近衛騎士の方々も居るから、正確には違うけれど。しばらく歩くと大会議室の扉の前に着いたようで、みんなが立ち止まり団子状態に。暫くすると、代表さまと陛下以外の方々が少しだけ移動して、私の方を見た。


 「聖女、ナイ。前に」


 陛下に呼ばれ、空いたスペースに来いと手で示された。そこは扉の前で、右隣後ろにはアルバトロス国王陛下以下王国側重鎮勢プラス護衛の騎士さまと副団長さま。左側には亜人連合国の代表さまとお姉さんズと護衛である獣耳の亜人の皆さま。


 「この位置は不味いのではないでしょうか……」


 うん、絶対に。不味いし、おかしい。


 「構わぬ。身罷られた竜の現身をそなたは抱いているのだ。問題はあるまい」


 しれっとした顔で陛下が私に言葉を投げる。それに続いて代表さまが口を開いた。


 「我々にとってかけがえのない方だからな。また二度と同じことを繰り返さぬように、周知させねばならん。すまないが、ひとつ我らと踊ってくれ」


 道化を演じろと言うことだろう。決められたルールを破ったのは、欲をかいてしまった銀髪の冒険者くんだ。確かに、事情を知らない第二、第三の銀髪くんが出てくれば、王国も私も困るし亜人連合側も気が気でなくなるだろう。


 ――腹を括るか。


 私の腕の中に居るアクロアイトさまを見ると、それに気がついたのか私の顔を見上げて一鳴きした。


 「分かりました」


 なるようになるだろうと意を決すると、エルフのお姉さんズから念話のようなものが飛んできた。


 『大丈夫だよ~』


 『代表に従っていればいいから――……癪だけど』


 仲が良いのか悪いのか、冗談なのか本気なのか。よく分からない三人の関係性に苦笑していると、真正面の大扉がゆっくりと開き始めた。

 

 「こういう場所は堂々と胸を張れ」


 「視線は真っ直ぐ。誰かと目が合ったなら自分から外すな。不敵に笑ってやればいい」


 こういう場に慣れているのか陛下と代表さまが私にアドバイスをくれた。背を真っ直ぐに張ることも、視線を真っ直ぐに見据えることも直ぐに実行できることだ。


 「はい」


 お二人の言葉に返事をして大会議室の中へと足を踏み入れると、厳しい視線が直ぐに飛んでくる。『あれが……竜』『本当にアレが古から生きた竜の生まれ変わりなのか?』『何故このような場所に子供が』『不釣り合いな』とまあ、私に対するお決まりの台詞のオンパレード。子供が竜を抱いていることが信じられないのか、懐疑な顔を浮かべている。


 ほとんどはアクロアイトさまに向けられているが、椅子へ座っていない護衛の人たちからの視線は私に向かってる。綺麗に分かれていることに不思議に思いつつ、扉から真正面にある椅子が三つおあつらえ向きに空いている。


 どれかが私の席……というより真ん中なのだろうなあ。


 真ん中は嫌だけれど、私が左右どちらか端に座る理由がないような。先程決意した意思が霧散しそうになるのを、必死に抑えつつ歩く速度を若干抑える。やはり代表さまと陛下はそのまま左側と右側の椅子へと歩いて行く。一緒に踊ると決めたのだから踊り切らねば失礼だろうと、真ん中の椅子へと足を運び席へと着く。


 『それでは全員揃いましたので、先ずは冒険者が引き起こした今回の内容を、詳しく丁寧にご説明させて頂きます』


 大きな会議室全体によく響く声は、拡声器のような魔術具を使用して伝播させているのだろう。真正面に設置されている木で出来た教壇に片手を突き、反対の手で顔の汗をしきりに拭っているギルド職員の人。


 王族を派遣している国もあれば、外務卿や宰相さまを、更には一段下げたような国もある。

 これ、事態の重要度を把握している現れなのだろうか。亜人連合国に近い国々は王さまや王族の方が顔を出している。逆に亜人連合国から遠い国や、亜人差別が根強い国はあからさまに下位職の人を派遣している気が。


 丁寧に事態説明されている声を右から左に流しつつ、大会議室に集まった人たちを見て、いろいろと考え始める私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る