第187話:教会は。

 各国の代表と冒険者ギルドの上層部が集まる場が決定した。昨日、代表さまとエルフのお姉さんズに同行を願われ、陛下も了承してくれているのならば断る理由はなく。

 

 代表さまたちが帰った後、教会のお偉いさんたち数名も姿を見せていた。


 借りている主室ではなく、応接室での対応。嫌な顔をしたのを直ぐに読み取ったのか、ソフィーアさまが応接室で会えばいいとアドバイスをくれたのだ。

 アクロアイトさまはセレスティアさまと一緒に部屋でお留守番をしている。ここで待っていて欲しいと告げると、彼女の膝上に乗ったのだ。滅茶苦茶幸せそうにしているセレスティアさまに、苦笑いをしながら応接室へと行くと、既に苦手な香の臭いが充満していて。


 相手が話を切り出すと、私が国側にどっぷり足を浸けたことに不満があるようで『戻ってきなさい』『待遇を良くしよう』と口々に告げられ。

 彼らと共に応接室で顔を合わせた、私担当の神父さまはしきりにハンカチで汗を拭っていたから、教会側も一枚岩ではない様子。神父さま以外は金満な臭いをぷんぷんさせているから、正直苦手。以前にリンも『嫌な感じがする』と口にしていたので、関わらない方が良いのだろう。


 一応は教会宿舎から移動の打診は、彼らからもあった。


 お断りを入れると『清貧で素晴らしい』『倹約は美徳ですな』とか言い残して去っていき、再打診はなかったので体裁上なのだろう。

 その時はお貴族さま出身のお偉いさんだから、自分の娘を優遇したいからだと考えていたけれど。飛躍的に上がった私の知名度に、急いでこちらへ来たようだ。


 爵位も賜るし屋敷も与えられる予定だ。陛下の言葉を反故にする訳にいかないのは、お貴族さまな彼らも分かっているだろうに。


 『有難いお誘いですが、国から爵位を賜る予定となっております。それと同時に屋敷も頂くことになりました。この国に住まう者の一人として、王家の方々からのご厚意を無下にはできぬのです』


 うん、ごめんなさい。国王陛下ならびに王族の皆さま。面倒だし、しつこそうな顔をしているので、複数形にして圧を高めておいた。

 国が無ければ教会運営もままならないから強くは出られないし、アルバトロス王国の教会系貴族に国を傾けるような力は持っていないと聞いている。


 敢えてもう一度言うけれど、教会上層部やお偉いさんはあまり好きになれない。もちろん全員という訳ではなく、単純に私が苦手とする人が多い印象を受けている。


 民あってこその国、国あってこその民。民あってこその教会、教会あって……ぶっちゃけ、なくとも困らないと言いたい所だけれど、救われた部分もある。教会の炊き出しで腹を満たしたこともあった。聖女として救い上げられて、今の私がある。もちろん仲間も。


 教会は貧しい人たちのセーフティーネットにもなっているし、聖女を管轄する場でもある。


 あれ、国の魔術陣へ魔力を補填する聖女の扱いって、どうなっているんだろう。教会所属であることは間違いないけれど、今の私の立場って国に保護されているようなものだ。

 教会の人たちよく文句を……まあ、王国側が説き伏せているのかもしれないし、抗議を封殺している可能性だってある。やりすぎると対立しそうだけれど。


 「どうした?」


 学院メンバーしかいないので、ソフィーアさまが普段の口調で問うてきた。アクロアイトさまは何を考えているのか、公爵令嬢さまの肩の上に乗って首を傾げ、ぐぬぬとセレスティアさまが悔しそうな顔をしてる。


 「あ、いえ。今回の件って教会が全く噛んでいないというか、気配すらなかったなあと」


 浄化魔術からここまで教会側の人とは会っておらず、昨日訪れた教会のお偉いさん方が初めてだった。


 「教会では対処できん規模だったからな、仕方あるまい。ナイが公爵家で過ごす予定になった時や、離宮に仮住まいすることになった時は抗議がきたそうだが――」


 どうして警備が緩い教会宿舎という場所で、国の障壁維持を担う聖女を過ごさせていたのだ、と陛下が一喝したようだ。

 国側も聖女の実態を知らず放置していたのではと、言い返しを試みたけれど陛下に敵うはずもなく。まあ、中途半端な立ち位置に居たのが悪かったかなあ。魔力の高い人はお貴族さま出身者に多く、障壁維持をしている平民なんて聞いたことがない。平民なら、対応がおざなりになっても構わないくらいに捉えていたのかも。


 「私が望んだのですが……」


 教会や公爵さまの打診を断っていたし。


 「本人の望みを叶えていたと言えば聞こえは良いがな。命令もなかったのだろう?」


 「"お願いは"ありましたが"命令"はなかったですね」


 移り住まないかという打診があっただけだ。打診であれば選択の余地があり、断る一択になるのは当然で。命令と言われれば、嫌な顔をしつつ移り住んでいたとは思う。過去のことだから、今更なにを言ってもしかたないけれど。


 「なら、国に文句を言うのは筋違いだろうな。聖女は『教会』という組織に所属して管理を担っているなら『命令』が出来る。まあ、どちらも怠っていたのだから強くは言えんな」


 「しかし聖女の衣食住の提供は教会が主体。ケチな教会が痛い目を見ただけでは?」


 政教分離を意識しているのか、国が教会へ口を出すことは少ないし、監査が入るとかも聞いたことがない。教会は国への納税義務を優遇されているようで、美味しい思いをしたい人にとっては良い隠れ蓑だろう。


 ――大変だなあ。


 国も教会も。組織が大きいし、いろんな人が居るんだもの。世界のみんなが力を合わせれば、平和が手に入るだなんていう人もいるけれど。

 出来るのならば、とっくの昔にそうなっている訳で。そうならないのは結局のところ、世界が滅亡する危機に瀕しても誰かの欲が邪魔をするのだ。


 だからこそ、私が巻き込まれる羽目になるのはもう少し先の事であった。

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