第184話:後ろ盾増えた。
公爵家から王城の離宮へと移った次の日。
アクロアイトさまが部屋の備品を壊さないかと、戦々恐々していたけれど今の所は大丈夫だった。壊してはいけないことを理解しているのか、余り近づかない。お姉さんズから譲り受けた連絡用の魔法具もちゃんと置いてあって『服は出来た~?』『ご飯は食べたかしら?』とか些細な事でも連絡を寄越してくれる。。
そして変わった住環境。
昨日の夕ご飯も、今日の朝ごはんも豪華だった。公爵家のご飯も豪華で美味しかったけれど。ジークとリンに聞いたところ、騎士宿舎に併設されている食堂も結構良い物が出るようだ。量も質もあるし、食べ盛りな二人には丁度良いのだろう。
近衛の人たちに何か言われていないか心配だが、二人なら言われた所で気にしないだろう。学院のように実力でねじ伏せるのは無理だけど、彼らも近衛で立場もある。無茶はしないはずだ。
「ヴァイセンベルク辺境伯閣下とセレスティアがお前に面会を求めているが、どうする?」
ソフィーアさまは私のスケジュール管理役となったらしい。彼女が着替えやお風呂の介添えに立ち会う事は少なく、他の侍女さんたちがメインだった。最初、他の人の目もあるからと敬語を使っていたソフィーアさま。部屋に誰も居なければ、普段通りの口調でと、先ほどお願いした所。
「辺境伯さまとセレスティアさまが?」
「ああ。大規模遠征の礼を伝えたいそうだ」
王城内なので魔術陣への魔力補填は直ぐに行えるので、先ほど終えてきた所。タイミングを見計らっていたのだろうと苦笑して、分かりましたと彼女へ伝えると、呼んでくると部屋を出ていくソフィーアさま。
「……立場が逆になった」
少し前までは私は呼ばれる立場だったというのに。まさか向こうからやって来ることになろうとは。まあ住環境が王城で外出も難しいから、辺境伯さまとセレスティアさまが足を運ぶのは仕方ないけれど、妙な気分だった。
「偶には良いだろう」
「うん。今までは向こうに呼びつけられていたからね」
お貴族さまを好きになれないジークとリンはこの調子だ。アクロアイトさまは部屋の中で、猫のように気ままにしている。
私の膝上に乗って寝たり、肩に乗ってみたり。ジークとリンの下へ行くこともあれば、外に出たそうに窓を眺めていることも。そんな時はなるべく一緒に散歩と称して庭園を歩くのだけれど、護衛の人たちの緊張感が凄くて落ち着かない。
何だか申し訳ないけれど、部屋に閉じこもるのは勿体ないし、運動もかねてアクロアイトさまを連れての散歩であった。
あとは王城内にある図書館への立ち入りも許可されていた。暇なら使って良いそうで。さっそく行ってみたのだけれど、蔵書が多いしなんでも揃ってた。暇潰しに丁度いいし、これからちょいちょい利用することになりそう。
「どうぞ」
ノックの音が聞こえたので入室許可を出すと、扉がゆっくりと開いてソフィーアさまを先頭に辺境伯さま、その後ろにセレスティアさまの姿が。更に後ろにはワゴンを引いた侍女さんが控えているので、お茶の用意をしてくれるのだろう。
このまま座って出迎えるのは流石に失礼だと立ち上がり、深い礼を執る。
「ヴァイセンベルク辺境伯閣下、セレスティアさま、ご足労をお掛けし申し訳ございません」
辺境伯さまの言葉を待つべきかと迷ったけれど、先に声を掛けた方が良さそうだと判断して言葉にした。
「聖女殿、仕方なかろう。貴女の価値は計り知れないのですから」
顔を上げた私に苦笑を浮かべながら、声を掛けてくれた辺境伯さま。以前より纏う空気が違うのは、魔物の異常発生が収まった故なのか。
「立ち話では疲れましょう、こちらへどうぞ」
そう言って応接用のソファーへと案内する。下座へ座ろうとするとソフィーアさまに止められて、一人掛けの椅子を指された。
辺境伯さまが座るべきのようなと疑問を浮かべつつ、教育を確りと受けている彼女が言うのなら間違いはないだろう。辺境伯さまとセレスティアさまが席に着いたと同時に、侍女さんが各人へお茶を配り茶請けも置いてくれた。
「再度になりますが、此度は竜の浄化儀式と我が領地への寛大な手配、有難うございます」
配り終えると、辺境伯さまとセレスティアさまが居住まいを正して、言葉を紡ぎ頭を下げた。浄化儀式をするだなんて思ってもみなかったが、仕事の内である。というか、仕事じゃないとやらない。
鱗や牙の加工は、話が自分へ巡る前に国に丸投げしたのと、タイミングの問題だ。辺境伯さまの領地復興が早くなるなら、国としてもその方がいいだろうと思い付きで言っただけ。
「閣下、私は自分の仕事を成しただけです。亜人連合国との交渉の件は彼の国の皆さまと王国の方々へお願い致します」
私の言葉を聞いて辺境伯さまが妙な顔をし、セレスティアさまが苦笑している。不味いことは言ったつもりはない。当然のことを言っただけだ。
「そうはいきません。これでただ貴女の好意に甘えるだけでは、辺境伯家の名が廃ります」
以前申していた後ろ盾の件は確実に行うこと、私が賜る屋敷の改築費用や警備の一部負担、爵位を賜る際の推薦状を書いてくれるそう。もう決まっていることだから意味はあるのかなと首を捻ると、セレスティアさまが笑って口を開いた。
「馬鹿な連中を完全に沈黙させるのは無理ですが、王家と公爵家に辺境伯家の名があれば少しはマシでしょう」
「だな、娘よ。――あとは彼の国も後押しすると聞きました。五月蠅い小物は黙りましょうぞ」
残りは本物の馬鹿か実力者でしょうなあと、意味深な言葉を辺境伯さまが言い残す。アクロアイトさまを狙えば確実に亜人連合国の皆さまが、烈火の如くキレるだろうけど、私を襲う価値なんてあるのだろうか。あったとしても他国から障壁を維持する聖女を減らしたいとか、そんな理由じゃないかな。
「最後ですが、我が娘を行儀見習いとして、貴女の侍女となることをお許し頂きたい」
「え」
なんでセレスティアさままで私の侍女になるの……。。
「あと二週間ほどで、学院が始まりますが……」
「学力に関してなら心配ありませんわ。教育は十分に施されておりますもの。それに学院内でも貴女の護衛は必須。クラスメイトですし都合が良いのですよ」
クラスメイトとして普通に学院生活を送りつつ、私の護衛をこなし放課後も侍女の仕事に就くそうな。
「その辺りも陛下方と相談の上話は通してあります。娘は魔術も近接も対応できます故、盾になさると良い」
王家と相談済ませているあたり用意周到だが、お上にお伺いを立てるのは普通か。ジークとリンが護衛に就いているけど、学科が違う為クラス内での護衛は無理だからと駄目押しされて。
もう逃げられないなと観念して、無茶だけはしないようにと伝えながらセレスティアさまにお願いしますと頭を下げるのだった。
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