第173話:新たなお土産。

 また王都の空に竜が現れたと騒ぎになった。――辺境伯領のあの場所に花を添えた日から、五日後のことだ。


 王城には連絡が入っていたようで、直ぐに『聖女さまが呼んだ』のだと騒ぐ王都の民を静める為に兵士の方々が走り回ったようだ。白竜さまよりもサイズが小さいけれど、そもそも彼が巨大すぎる訳で。やってきた中型の竜の方も十分に大きいので、王都の人たちが騒ぐのも止む無し……。


 『若さまとお二人から預かってまいりました』


 連絡が入っていたので王都の壁の外で待っていたのだけれど、大空で旋回を数度した後にゆっくりと高度を落として、こちらへに降りてきたのだった。器用に前足で引っ掛けていた籠を離して、私の前にゆっくりと置いて。


 「ありがとうございます」


 『戻ったら、一度連絡をとも言付かっております』


 恐らく中身は直接連絡出来る魔法具だろう。ジークとリンも使えるように、魔術式を付与する為少し時間が欲しいと聞いていたけれど、まさかこんなに短期間で終わるとは。後ろに控えている二人の為にドワーフさんたちに依頼したものは、少し時間を貰うと言っていたから。

 

 「分かりました。――長距離の移動お疲れさまでした。食事でもご用意をと考えていたのですが、浅学で竜の方々の嗜好が分からず……」


 『お気遣いは無用……と言いたい所ですが、少しだけ貴女さまの魔力を頂きたく』


 「私の、ですか?」


 魔力は回復しているので問題はなく、城の魔術陣への魔力補填もしばらく予定はない。


 『ええ。ご意見番さま程の方を空へと還したのです。少し、いえ……随分と興味があります』


 「私の魔力が美味しいのかは分かりませんが、倒れない程度でしたら」


 彼の言葉に苦笑いを浮かべながら、要望に応えた。どのくらいが適量なのか分からないし、彼が満足できる量となるのか。


 『私の我儘を受け入れて頂き感謝致します』


 目を細めて頭を下げる竜の方はそのままの状態。おそらくこのまま魔力を渡せば良いのだろう。取りあえず魔力を練って、目の前の彼の鼻先に触れると、少しだけ魔力が減ったのを感じたあと、竜の方が顔をゆっくりと上げた。


 『ああ、やはり素晴らしい』

 

 「満足いただけたなら、良かったです」


 『勿論、不満などありませんよ。帰り道はゆっくり戻ろうと考えておりましたが、予定が早まりそうです』


 「無茶はしないで下さいね」


 なんだか鱗に艶が出たような。気持ち身体が大きくなっているような。ん、気の所為だ、気の所為。細かいことは気にしないことにしよう。


 『はい。――ああ、再度になりますがエルフの二人に連絡を忘れないで下さいね』


 私が怒られてしまいますので、と冗談めかして竜の方が言い残し、大きな身体を空高く舞い上がらせた。首が痛くなるほど見上げていると、フライパスのように体を左右に揺らして、そのまま飛び立っていく。

 

 「……行っちゃった」


 地面に置かれた荷物を見る。そんなに大きなものではない。簡単に使えるそうだから、使い方を書いた紙を読んでねと、以前に伝えられている。設置が終わったら、とりあえず連絡を入れてみよう。先程の言葉は『絶対に連絡をしろ、直ぐにしろ』と言われているようでならない。


 「だな。まさか直ぐに戻るとは……」


 「ね。ちょっと大きくなっていた気がするけれど……」


 「気がするだけだよ!」


 リンの言葉を誤魔化すように言葉を被せた。二人はそんな私を見て呆れている。


 「戻るか。中も確認しないとな」


 尤もなジークの言葉に頷いて、待機してもらっていた馬車へと乗り込み、公爵邸を目指し離れの屋敷へと戻った。侍女の人に『おかえりなさいませ』と言われて『ただいま戻りました』と返し、借りている客間へと入る。

 そうして丸テーブルの上に籠を置き、蓋を開けると木箱が二つあったので、取り出して籠の横に置いた。


 「なんで二つ?」


 「見てみるしかないんじゃないか?」


 ジークの言葉に頷いて、右側に置いた木箱を開けるとそこには魔法具と呼ばれるものが入っていた。その上に紙が二枚置いてあったので手に取って読んでみる。


 『箱の中身を確認したら連絡してね~』


 『使い方は簡単。魔力を通すだけよ』


 間延びした声を出すお姉さんBとぱちんと片目を瞑るお姉さんAの姿が浮かび、連絡を忘れるとゴゴゴゴゴと黒いオーラを背中から出しているお二人の姿も浮かぶ。もう一つの箱を確認してからとの事なので紙を元に戻して、もう一つの箱を開ける。


 「うわあ……」


 「凄いな」


 リンが感嘆の声を上げ、ジークが驚いているような声を上げた。そして私は顔が引きつっているのが、自分でも分かる。


 「これ、絶対希少品だよね……」


 絹のようでいて、絹よりも上質な反物だった。量も結構あるのだけれども……。何の布かは分からないけれど、素人の目で見ても良いものだと判断が出来るのだ。相当に良いものに違いない。

 

 『エルフと妖精のみんなからのお礼だよ~』


 『服、作って貰いなさいな。質は良いから、仕立て屋が下手でも多少は誤魔化せるでしょうし』


 亜人連合国で一夜を過ごした時から、総出で取り掛かっていたそうだ。蚕から糸を拝借したのち織機を使いつつエルフの魔力を通し、妖精さんが鱗粉を振りかける。着用していると魔力の回復が早くなるそうだ。困ることは早々ないけれど、魔力の回復が早くなるのは有難い。

 

 絹より更に上位の品質らしいので、公爵さまかソフィーアさまに相談して仕立て屋さんを紹介して頂こう。こんな上質な反物を下手な仕立て屋さんに頼むことは出来ないし、公爵家の紹介ならば腕は一流だろうから。


 「何を作って貰おうか」


 部屋の呼び鈴を使って侍女さんに、公爵さまかソフィーアさまと話がしたいと言付けた。どうやら彼女たちに頼むと執事さんを経由してお二人のどちらかに、伝わるそうだ。人の手を煩わせるので、少々気が引けるけれど仕方ない。基本的に公爵さまやソフィーアさまの予定なんて知らないのだし。


 「お前に送ってくれたんだ。好きなものを作って貰えばいいんじゃないのか」


 「うん、そうだね兄さん」


 「んー……センスないからなあ……」


 服に頓着をしていない生活だった為か、ファッションには詳しくないのだ。


 「なら任せればいい。公爵家の紹介なら手堅いものを作ってくれるはずだ」


 「だといいけれど」


 ジークの言葉に苦笑いをしつつ、二人や残りの仲間にも何か服を作って渡せないかなあと頭の中で考えつつ、連絡用の魔法具に魔力を通すのだった。

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