第169話:仮家へ帰ろう。
――戻った。
何かいろいろと残っているような気がするけれど、王都へと戻ってきた。
途中、帰路に付いていた遠征組の人たちを見つけると、白竜さまがいたずら心を見せて低空飛行を敢行したのはご愛敬。
連絡が入っているだろうけれど、驚いただろうなあ。流石にあの人数を拾える訳がないので、申し訳なさを覚えながら王都まで帰って来たのだけれど。王都を守る壁の外。白竜さまが降りられる場所を見つけて、ゆっくり下降。
「白竜さま、ここまでありがとうございました」
首を上げて白竜さまへ話しかけると、顔を地面へと下げてくれた。
『礼には及びませんよ。何か用があれば私を呼んでください。何処へなりとも参りましょう』
そう言って白竜さまは空へと飛び立つ。会談を終えた後、お三方の移動手段が居なくなってしまった。代表さまが竜の姿を取れるから、そうして帰るのだろう。暫くすると、壁門が開いて豪華な馬車が数台連なりやって来きて、私たちの前で止まった。お迎えの馬車のようで、同道して馬に乗っていた近衛騎士の方々が降りてきて、敬礼。
「お迎えにあがりました! 亜人連合国代表さま。城まで案内をと陛下から命を下され参りました」
「手間を掛ける。すまないが彼女らも送って貰えるか?」
「はっ! 勿論でございます、そのようにと陛下からも伝えられております故!」
随分と緊張した面持ちの騎士さまの言葉にこくりと頷く代表さま。あまり感情が読み取れない顔になっているのだけれど、営業用なのだろうか。ポーカーフェイスが出来るのは羨ましいなと、彼を見上げているとこちらへ視線を先に寄こして、身体はあとからゆっくりと向いた。
「我々はアルバトロス王国との打ち合わせに入る。君はもう休むと良い」
代表さまの言葉は魅力的だけれど、私が言い出したことだから、責任の一端はある訳で。
「言い出しっぺは私なので、同席させて頂きたいのですが……」
「今回は君が責任者だったのだろうが、ここから先は我々為政者の場だ。心配は要らぬ、どちらも損をしないように取り計らおう。――任せて貰えるか?」
そう言われると頷くしかない訳で。
「よろしくお願いいたします」
代表さまに礼を執ると後ろに控えていたお姉さんズが『任せて』『大丈夫だよ~』と軽い調子で笑ってる。彼の言葉より、彼女たちの言葉の方が心配になるだなんて。まあお姉さんたちが飛ばすようなら、代表さまも流石に止めるだろう。
「どうぞ」
近衛騎士さまのエスコートを受けて馬車へと乗り込む。私より後から乗り込んだソフィーアさまとセレスティアさま。王都で取引の会談が行われるから、辺境伯さまも一緒に王都へと白竜さまの背に乗り、セレスティアさまも同道を願い出ていた。
そして馬車へと乗り込んだのだけれど、割り振りが先頭の一番豪華な馬車に代表さまとお姉さんズ、最後に辺境伯さまとなった。
私たち三人は各々の屋敷へ送ってもらう為に別の馬車に乗っている。ジークとリンは外で護衛に就き、先に公爵邸へと行き後で辺境伯さまのタウンハウスを目指すそうだ。
「大丈夫かしら、お父さま」
「大丈夫だろう。まあ……生きた心地はせんかも知れんが……」
二人の言葉が終わると同時に馬車が動き出す。取って喰われたりはしないだろうし、大丈夫、大丈夫……。大丈夫かなあ。
三人とも魔力値が高いから、なんにもしていないのに威圧されているとか勘違いを引き起こす可能性もある。辺境伯さまだし、魔力が低いということはないだろうけれど、亜人連合国の人を相手にしたことなど皆無だから、その辺りは気を使うだろうなあ。
「…………」
お二人の会話を聞きながら窓から見える景色を眺める。もう見慣れた王都の風景は、いつも通りで何も変わっていない。
「ん?」
窓から視線を外して、声を上げた本人を見る。
「どうか致しましたか、ソフィーアさん」
「ああ、いや。何か引っ掛かったんだが……」
そうして考えるような仕草を見せるソフィーアさま。確りしている彼女がそうした仕草を見せるのは珍しい気がする。顎に手を当てて馬車の床を眺めて、頭の中の引っ掛かりを探しているようだ。そして――。
「……あ」
彼女の視線が下から上へと上がって、呆けた顔になった。
「思い出したのですか?」
「あ、ああ。外務卿がな……」
「影が薄いと言われている方ですわね。それが何か?」
「いや。関係各国との連絡役で、亜人連合国の隣の国で待機していたんだが…………」
「?」
セレスティアさまが不思議そうな顔をする。そういえばいつの間にか外務卿さまは居なくなっていた。
確か、最初に彼も同行していた筈だ。影が薄いというか、存在感があまりなかったが。最初の転移と次の転移までは彼は一緒に居たはずだし、一泊した亜人連合の隣の国では晩餐会に出席していたはず。
影が薄かったが。
そうして亜人連合の隣の国で一夜を過ごし、馬車に乗り込んだのだが、そこから彼の記憶がない。隣の国で待機していたというのは、初耳である。亜人連合国へと向かう馬車の中で殿下も宰相補佐さまも、そしてソフィーアさまも気にも留めていなかったし、私も全く気にならなかった。
――あれ。
私たち使節団一行は王都へと戻っている。
「どうやって外務卿さまは帰路の途に就くのでしょうか……」
そう。私たちと別れて行動していたことに問題はない。仕事なのだから。でも、竜に乗ってアルバトロス王国へ帰還した今、彼の移動方法が転移か馬車での長距離移動しか選択肢が残されていないような。
「ま、まあ、帰る方法はいくつかあるし、最悪は迎えがでるのではないか?」
「……でるのかしら?」
顔を引きつらせながらソフィーアさまが外務卿さまへのフォローを入れるけれど、セレスティアさまの言葉を発した瞬間に目を逸らす。
外務卿って外交官の長だよね……なんだか立場を疎かにされている気がするのだけれど。流石に隣国に居残るのはあり得ないだろう、向こうだって迷惑だもの。そんなに心配する必要はないのじゃないかなあと、また馬車の窓へと視線を向けるのだった。
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