第167話:代表さまと陛下。
王都へと降り立って代表さまのエスコートに導かれて、陛下たちの前へと立つと同時にエスコートを解くのだった。恐らく聖女を無事に届けたぞというアピールなのだろう。あと仲良くなったというアピールだったのかも。
「よくぞいらした、代表」
「突然の来訪を受け入れて頂き感謝する、アルバトロス王よ」
握手をする代表さまと国王陛下、どうやら平和的にファーストコンタクトを終えたようだ。次に王妃さまとあっさりとした挨拶を終えて、公爵さまと続く。
「では、ヴァイセンベルク辺境伯領へ参られるか?」
「ああ。――その後に時間を頂きたい。聖女殿より、貴国と我が国で取引をと願われた。細かいことや書面に認めるまでは時間が掛るだろうが、手始めの会合の場が欲しい」
「よろしいのか? 貴国は我々人間となるべく関りを持つことはないと聞いているが……」
「構わぬ。我らは変革を求めている。これは最初の一歩となるだろう」
その一歩はゆっくりで良いらしい。亜人の命は人間より長い者が多いから、少しずづ意識を変えていくそうだ。
代表さまのことだから陛下たちにも、この辺りの事はきっちりと説明するだろう。閉じ籠っていた国が急に他国と取引を始めれば、他国から何を言われるか。
「聖女、ナイ」
「はい」
代表さまとの会話がひと段落した陛下に呼ばれて視線を向けると、その手には花束が。控えていた侍従の人から渡されたのだろう。
「これを。――我が国から少しばかりの気持ちだ。手向けて貰えるか?」
彼から花束を渡される。それを受け取って『承りました』と返事をすると確りと頷いた陛下。気軽な気持ちで言ったことが、どんどん規模が大きくなった上に、大役まで受けてしまった。
ご意見番さま程の竜が空へと還ったのだから、少しくらい派手になっても彼はきっと怒るまい。
ソフィーアさまも公爵さまから小さい花束を渡されているので、どうやらこの話は大分広まっているようだ。数が多いと迷惑だろうから、限定的なものになっているのだろう。誰彼から渡されても、困るだけなので良かったと思う。
「そろそろ、行こう」
ご意見番さまが好きだったという花は私が持っている。派手でも地味でもなく目立たない、どこにでも咲いているような花。貰った一本から増えて、一握り程にはなっていた。枯れないように状態維持の魔術と、紙を水に浸して切り口に当てているから暫くは持つだろう。
そうしてまた代表さまにエスコートされて、白竜さまの背に乗る。
殿下や宰相補佐さまは、王都に残るそうだ。これまでの報告や、これからの打ち合わせを急いで執り行うとのこと。申し訳ないが私たちの分もよろしくと言われ、花束を渡されたのだった。私たちと同行する護衛を選出。
大規模遠征で十日掛かった道のりが、一時間も経たずに着いてしまうのだから、本気を出した竜の方の速さは本当に凄い。
『飛びますぞ』
その声でまた障壁を張り、一時間。辺境伯領都が見えてきた。また白竜さまは領都の真上を通り過ぎ、大きく旋回しつつ高度を落としていく。王都の時と同じで、領都を守る城壁の外に人影が。先程よりも出迎えの人数は確実に少ないけれど、辺境伯さまと奥方さま、そして王都から転移でトンボ帰りしたであろうセレスティアさまの姿があった。
先程と同じように代表さまは私をエスコートしながら、白竜さまから降りた。私たちの姿を確認すると、辺境伯領の皆さま方が一斉に礼を執る。
「騒がせて済まない。亜人連合国代表だ。この度は我が同族が迷惑を掛けた」
言い方は悪くなってしまうが、ご意見番さまが死を受け入れていれば、周辺に被害をまき散らすことはなかったそうだ。自然に生きるものだから、強い者に淘汰されるのは仕方のないこと。長く生きた故に、理想の死に方に憧れていたのだろう……と代表さまが何とも言えない顔で私に教えてくれた。
「ようこそ、代表殿。理由は国の者より報告を受けました。――此度の事、真に残念でなりませぬ」
「気にするなとは言えんが、致し方のない事だ。貴殿らも被害を受けたと聞いている。水に流せとは言わぬが、禍根はなるべく残したくはない」
代表さまの言葉に続いて、一匹の竜がのしのしと歩いて来て、口に加えていた大きな籠を地面に置いた。
「大陸では竜の鱗や牙は高値が付くときいた。市場を乱せば価値が下がるだろうが、適切に売り払えばそう下がるものでもあるまい。領地運営の足しにすればいい」
「い、いや、しかしこれは……!」
辺境伯さまが目をひん剥いて驚いている。どうやら本当に珍しいものらしい。私が頂いた物より品質は劣るけれど、おそらく高値が付くと言っていた。納品された時が怖いなあと、いまだ固まったままの辺境伯さまを見つめる。
「加工技術がないと聖女殿から聞いた。問題がないのであれば我が国の職人を紹介しよう。アルバトロス王国ともこの話を付ける予定だ。国を通すなり直接なり好きな方を選べばよい」
辺境伯という国境を守る国の精鋭を務める領だから、お金が良いのか武器関連が良いのか分からなかったので、この話が出た時に選択肢があるようにと代表さまに伝えておいた。タダで作って貰う自分の事は完全に棚の上で。今回の被害賠償は彼が所属していたギルドや国へも請求するようだし。
辺境伯領という国の防衛を担う重要な場所。お金が無くなる=戦力が落ちる、だから辺境伯さまには頑張って貰わないと。
「代表殿、お心遣い感謝致します」
どうやら魅力に負けたみたいだ。話がすんなり進むならそれで良いし、亜人連合国の方も外貨を得られるので、お互いに良い関係が築ければ良いのだろう。契約やらは後の話になるだろうけれど、とりあえずの一歩は踏み出せた。
「ナイ、こちらを」
セレスティアさまに小さな花束を渡される。辺境伯領でもこの話が広まっていたようだ。苦笑いしながら受け取ろうとすると、エルフのお姉さんたちがこちらへやって来た。
「君も彼女の匂いがするね~」
すんすんと鼻を鳴らしながらセレスティアさまを嗅ぐお姉さんB。何だか変態チックな発言だ。
「本当ね、貴女も彼女の祝福を受けたのかしら?」
「え、いえ、その……」
珍しい、いつも堂々としている彼女がお姉さんズの手によって翻弄されている。というか話の内容が端的過ぎて、セレスティアさまの頭の上に疑問符が浮かんでる。
「浄化儀式の際に、セレスティアさまには補助を担って頂きましたから」
ああ、そういうことと納得して頷いたお姉さんズ。
「なら一緒に行けばいいじゃない。関係者だし」
「え?」
「だね~。一緒に行こう」
お姉さんズに背中を押され、花束を持ったまま白竜さまの前に突き出されるセレスティアさま。
「あ、あの……わたくしのような者がこのようなご立派な方に乗っても良いのでしょうか……?」
困惑しつつ言葉を紡ぐと、白竜さまの顔が地面へと下がってきた。
『構いませんよ、お嬢さん。皆さんも私に乗っていますので、お気になさらずとも。貴女のようなお綺麗な方を背に乗せられるのは、嬉しいことでもあります』
遠慮している彼女を説き伏せる為に、口説き文句を言っている白竜さま。そんな台詞も言えるのかとちょっとした驚きだったし、エルフのお姉さんズは『気持ち悪いわね』『似合わないよねえ』と零していた。
「無駄話はそこまでだ。あまり長居をしても迷惑が掛かろう。行くぞ。――では、また」
「はい。ご配慮痛み入ります」
代表さまと辺境伯さまが短く言葉を交わして、竜の背に乗り込む。搭乗者が一人増えたけれど、巨竜の背中の上だ、なにも困ることがない。そうして漸く、ご意見番さまが朽ち果てた場所へと辿り着いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます