第166話:王都の空。
雲一つない晴れ渡った空を、随分と速く翔けている。既に亜人連合国とアルバトロス王国まで半分を切ったそうだ。
何故、地図もなにも見ないまま方角や距離を算出できているのか聞いたところ、私が魔力補填をしている障壁があるので分かりやすいそうだ。王都を離れて二週間近くなるけれど、他の聖女さまは補填をしていないのだろうか。いまいち信憑性がないなあと感じつつも、代表さまの説明だし亜人特有の能力なのか。
眼下に広がる雄大な光景。
前世で飛行機にも乗ったことがない貧乏人だったから、飛行機の旅がどんなものか知らないけれど、障壁を張っているので空気抵抗はないし、飛んできた虫や鳥が当たるなんてこともない。
あと半分の距離で終わってしまうことを残念に思いながら、後ろを向く。白竜さまを先頭に等しい距離を保って他の竜の方たちが飛んでいる。眼下から見上げれば、渡り鳥が編隊を組んでいるような。そんな形。地上に居る人たちは驚いているのだろうな。今まで見たこともない巨大な竜が群れを成して飛んでいるのだから。
「どうした?」
「地上に居る人たちは、さぞ驚いているだろうなと」
「まあ、この数で飛ぶことはないからな。仕方のないことだろう」
代表さまに声を掛けられる。どうやらこの規模で飛ぶのは彼らも初めてらしい。示し合わせたように、この形になったそうだ。気ままに一匹で亜人連合国を出て、大陸の空を飛ぶのが彼らの普通らしい。番となった雄雌で飛ぶことはあるそうだが、それも滅多になく。
「偶には外に出んとな。良い機会だ、我々はこうして飛ぶこともあると知っておけばいい」
そうすれば気兼ねなく空を飛べるしな、とのこと。今後、自由に竜の皆さまが空を飛ぶ姿が想像できるのだけれど、本当に今まで大陸北西部に引き籠っていたのかと疑問になる。
なるけれど、やはり彼らには空が似合う訳で。閉じ籠っているよりも、こうして空を飛んで自由を堪能している方が好ましい。
「そなたはアルバトロス王国の貴族について詳しいとみるのだが、聞いてもよいか?」
「私で答えられることならば、なんなりと」
会話が途切れて暫く、代表さまがソフィーアさまに声を掛けた。少し離れてしまったので、ここからは声が聞こえない。代表さまがアルバトロス王国の貴族について、何か興味を引いたようだから、私が関知できることじゃないなと、眼下を見る。
「あれ、王都かな?」
「みたいだな」
「あ、本当だ」
なんとなくいつも見ている光景から、遠くから見る景色を脳内で設計する。まだ小さいけれど、見慣れた王城に城壁が見える。
王都に近くなった為か白竜さまが速度を落として、高度を下げ始める。どんどんと近くなっていく王都。時刻は真昼間。城壁外に広がっている、小麦畑から私たちを見上げている人たちは指を指しているようだ。
打ち合わせだと陛下方が城壁の外で待っていると聞いているけれど。
王都の真上をいったん過ぎて旋回する白竜さまと後に続く竜の方々。この光景を見て腰を抜かした人も居るのでは。
なんだか悪い気がしてきたから、あとで教会と相談して無料診療所開いてもらおう。人海戦術ならばすぐ終わるだろうし、聖女が私だけなら時間が掛るけれど魔力切れにはならないだろうし。本当に忙しいなあと苦笑いをしていると、野原の一角に大勢の人たちが集まっていた。どうやらアルバトロス王国の出迎えの人たちだろう。
「降りるか」
『ああ、若』
その言葉と同時に出迎えの人たちが居る、少しずれた位置の上で滞空し、少し間をおいてゆっくりと降りていく白竜さまと竜の一部の方々。全て降りることは不可能だと判断したのか、上空に残っている竜の方々がちらほらと。
「先に降ります」
エスコートの為、先にジークが白竜さまの背中から降り、次にリン。続いてソフィーアさま。彼女の手をジークが取って地面へと導く。
「先に行くわ」
「後でね~」
次にエルフのお姉さんズ。順番的に私の番だったのだけれど……気にしたら負けか。身体能力が高いみたいで、エスコートは必要なかったようで、白竜さまの背からぴょんとジャンプして地面に降りる。この高さを飛び降りる勇気と身体能力の高さに驚いていた。
「行こう、聖女殿」
「はい。先に降りますね」
代表さまが先に降りるのは不味いので、先に行こうとすると止められた。そして手を差し出される。一体何事と思いつつも男性が女性をエスコートすることは、なんらおかしい事ではない世の中で。断ったら断ったであとで問題になりそうなので、大人しく彼の手を取る。
「ありがとうございます、代表さま」
「先程、彼女に聞いた。王国では男は女をエスコートするものだと」
代表さまとソフィーアさまが話し込んでいたのはこのことか。確か私を抱き上げた時に貴族うんぬんとかで断ったのから、王国のルールを聞いて反映させたようだ。
頭の切れが良いのは羨ましいけれど、使い方の方向性を間違えていないだろうか。私をエスコートするよりも、エルフのお姉さんズを両手に引き連れて現れた方がインパクトがある。貞操観念云々は言われそうだけれど。亜人連合国だから気にされない可能性もある。
「嫌よ」
「嫌だね」
心の中を読まないで下さい、お姉さんズ。地面に降りて速攻で否定された。なんで心の中が分かるかなあ……。迂闊に考え事が出来ないじゃないか。
「顔に出ているもの」
「分かりやすい~」
そうですか。もう少しポーカーフェイスが出来るようにならないとなあ。今後はお貴族さまの世界に足をもっと踏み入れそうだから。
学院でも必須事項として教育してくれれば良いけれど、普通科なら可能性がありそうだけれど、私が通っているのは特進科。先行してお貴族さま教育を確り受けている人ばかりだから、望みが薄そう。
「ほら、腕を取れ」
「失礼します」
身長二メートル近い代表さまとチビの私では、恋人や夫婦ではなくパパと子供にしか見えないような。
本来ならこのまま陛下方への報告なのだろうけど、代表さまたちを引き連れているから、このまま軽い挨拶を済ませて辺境伯領まで飛ぶのだろう。領主さまへの挨拶もする為、辺境伯さまには連絡を済ませてあると殿下が言っていた。
兎も角、代表さまと国王陛下との挨拶はどうなるかと、目の前に立っている陛下や王妃殿下に公爵さまと、名だたる王国側の面子に目を細めるのだった。
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