第157話:エルフの街かな。

 閉じていた目を開ける。会談場がセッティングされているであろう街へと着いたようだ。妖精さんたちも一緒に飛んできたようだけれど、飽きてしまったのか少し数が減っている。


 「着いたわ」


 王国の魔術とは違うのか、お腹の中身が浮く感覚を全く感じないまま転移を終えている。どっちが優れているのかは分からないけれど。街は森の中にあった。というかファンタジー世界でよく見る、木の上に建っている家だった。木の上に建てられる程だから、巨木が多いので樹齢とか凄そう。


 「さて行きましょうと言いたいけれど、全員は無理だから人数を絞って頂戴な」


 馬車はさっきの村へ置いてきているし、銀髪くんたちも檻から出て連れてこられていた。

 流石に数が抽象的過ぎて分からないので、聞いてみる他ないと口を開く。


 「何人までなら可能でしょうか?」


 うーん。手に持っている卵を地面に落としてしまいそうだから、仕舞い込みたいけれど妖精さんたちがふよふよと卵の周りを飛んでいる。このまま手に持っておくしかないのかと諦めて前を向く。


 「そうねえ……とりあえず最低限の希望者はどなたかしら」


 そう言われたので挙手をすると、指折り数えているお姉さん。ちなみに挙手したのは、第一王子殿下に宰相補佐さまとソフィーアさま私である。


 「あと申し訳ないのですが、護衛を数名同行許可を頂けませんか?」


 「人間って弱いから強い個体に守って貰うんだっけ?」


 指折り数えていたお姉さんAの肩に顔を乗せ、疑問符を浮かべたお姉さんB。


 「はい。少々騒がしくなり申し訳ないのですが、お認め下さればと」

 

 お姉さんBの言葉に反論もなにもしないまま、許可だけ欲しいと強請る。


 「ふむ。えっと、想定していた人数より多いから、椅子が用意できないけれど構わないかしら?」

 

 「護衛にそのような気遣いは無用です。入室のご許可さえあれば幸いです」


 第一王子殿下の護衛を最低限は付けたい。殿下の専属護衛の人たちが二人、一歩踏み出て敬礼する。連れて行って欲しいというアピールだろう。

 あと私の後ろに居たジークとリンも一歩出て、私の両横について敬礼を執ったので二人も離れる気はないらしい。無理なら諦める他ないだろう。何かの不手際で相手を怒らせば、私が障壁を張って……逃げられるかなあ。魔力多い方が沢山居るみたいだから、無理だよなあ。


 「ん。それならどうにかなるわね。いいわ、この人数でいきましょう」


 そう言われて街の真ん中にある、一番大きい巨木へと歩いて行くエルフのお姉さん二人と妖精さんたち。人間が珍しいのか、遠巻きに見られている。

 エルフの人が多いから彼らの街……なのかなあ。その中に混じって少数ではあるものの、ドワーフや耳と尻尾の生えている人間っぽい人たちが居る。亜人の国に来たのだなあと普通の感慨を浮かべ、エルフの女性AさんとBさんの後ろ姿を眺めながら、階段を上っていく。


 「よく参られた、歓迎しよう」


 男性にしては長く伸ばしている黒髪に新緑色の瞳、鼻筋は通っているし彫りの深い顔。背は高く細身。見た目は二十代中頃といった処の男性の姿が。何よりも特徴的なのは額の両横から、黒光りしている立派な角が生えていた。そんな彼に妖精さん数匹が飛んでいき、体をくるくると囲うように舞っていた。


 視線は私が持っている竜の卵に釘付けとなっているので、なるべく早く返却したい。そしてエルフの女性AさんとBさんが、彼を挟み込むように左右に立つ。


 ――もういいかな。


 よしと心で唱えて、大きく息を吸って吐く。

 

 「この度の会談の特使をアルバトロス王より拝命しております。聖女、ナイでございます」


 そう言って深く頭を下げる私。


 「亜人連合代表だ。我々の風習で、個人が認めた者にしか名乗らないとなっている。許されよ」


 名前は名乗らない風習なのか。ここまで出会った人達が名乗らないことに合点がいった。けれど呼び名がないというのは、不便極まりない。


 「心得ました。――では、代表さまとお呼びするご許可を頂きたく存じます」


 先程エルフのお姉さん方が『代表』って言ってたし、この辺りが適当なのだろう。


 「ああ、構わんよ。名がないと不便と聞くからな、人間は」


 個人を特定できる能力でも備わっているのだろうか。やはり人とは文化が違うようだ。短く目を伏せて、笑っている代表さま。

 

 「代表殿、この度は会談の機会を頂き感謝いたします。――私はアルバトロス王国第一王子、ゲルハルト・アルバトロスと申します。以後お見知りおきを」


 「ああ」


 塩、塩対応だった。一応次代の王さまなのだけれど、亜人連合の方たちにとっては、気にすることではないのか。

 国力とか大陸での知名度ならアルバトロス王国が上かもしれないが、こと戦闘になると亜人連合が突出しているみたいだからなあ。握手をしようとした王子殿下は右手を引っ込めた。妖精さんの件を思い出したらしい。

 

 「――席に案内させよう」


 長い一枚板で出来たテーブルへと殿下や宰相補佐さまにソフィーアさまが、エルフのお姉さんによって着席を促されていた。私はどうすればいいのかなと、若干冷や汗を流しながら待っていると、妖精さんたちが服の袖を掴み『こっち』と言葉が聞こえ。

 いいのかなと考えるけれど、行くしかないよなあと足を進めた先は、代表さまが座る対面の席。私の左横に殿下、その更に横にソフィーアさま。右横は宰相補佐さまの席順で。亜人連合側は真ん中に代表さま、そして左右をお姉さんAとお姉さんBという布陣。

 種族の代表が持ち回りして、四年ごとに代表を務めると聞いていたけれど、随分と少ない気が。ドワーフらしき方もいたので、この場に居てもよさそうだけれど、深く考えない方が良さげだ。


 「では今回、我々が亜人連合国へお伝えしたい――」


 「――聖女よ、それは必要ない」


 まず事態説明からと言われていたので、竜の卵は巾着袋を座布団代わりに机の上へと鎮座させると、代表さまに止められた。

 

 「必要ありませんか?」


 「必要はないというより、まずはそちらを確認させてくれ」


 「はい」


 卵に視線がいっているので、ゆっくりと代表さまの下へ差し出すと、ゆっくりと手を添えて触れた。


 「戻ってこられたのか……――聖女殿、これが竜の卵だというのは認識しておられるな」


 なんだか呼び捨てから敬称を付けられた気がするけれど、先に質問に答えねば。


 「はい。我が国の魔術師から聞いております」


 「そうか。――」

 

 銀髪オッドアイくんが、何故ドラゴンを倒せたのかを代表さまの口から聞くことになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る