第153話:亜人連合国入り口。
――味、わかんない。
この国における最上級の料理なのだろうけれど、味なんて感じないのだけれど。というよりもカトラリーの使い方とか習っているけど、付け焼刃だからちゃんと出来ているのか謎。
私が恥を掻くだけなら問題はないけれど、他の人の評判にも繋がるからなあ。晩餐会の前にソフィーアさまに泣きついて、カトラリーの使い方とか気を付けることを聞いたけれど、出来ているのやら。
学院でならば『品格がない』と笑われていたであろうから、ある意味で気楽だった。
今この場では、みんな笑顔を張り付けて食事に勤しんでいる。私を責める人や窘める人が居ないので、逆に居辛いというか。
「――聖女さまはドラゴンの浄化儀式を行ったと聞き及んでいますが、真実でしょうか?」
唐突にこの国のお偉いさんであろう人が疑問を投げかけてくる。私が答えるべきなのかと第一王子殿下を見ると、小さく頷いたので任せろということだろう。じゃあ任せようと微笑みだけを浮かべておく。
「ええ。我が国の騎士や軍人からの報告により事実です。疑うのであれば現場に居合わせた者がこの場にも居ります。――確認をしてみては?」
「ああ、いえ疑う訳では……。ただ信じられぬのです。ドラゴンの浄化を行える者が居るのかと」
「我が国では魔力量に恵まれている者が多いですから。この場に居る方は聖女の中でも突出している。何ら不思議ではありませんよ」
ははは、ウチの国の聖女を馬鹿にするな。ふふふ、どうにかして利用してやる。そんな火花が散っている気がする。
「いやはや、これは失礼を。――では治癒魔術の効果も素晴らしいものなのでしょうなあ」
「そこまでにしておけ。殿下、我が国の者が失礼した」
陛下によってお偉いさんが止められた。これ以上喰い付く気はないようで、お偉いさんはスッと引いたのだった。彼も大変だ。お貴族さまを全ての意思を統一なんて出来ないもの。こうして飛び込む人が居れば、止めるのがやっとなのだろう。
「お気になさらず。手順さえ踏んで頂けるのであれば、我が国の聖女を治癒師として派遣することも可能ですので」
そうそう浄化儀式なんてあってたまるか、とういうのが本音。また全裸にならなきゃいけないし。治癒依頼ならば私でなくとも、もっと腕がある聖女さまがいらっしゃる。巻き込まれそうになくて良かったと、小さくナイフで切ったお肉をフォークに刺して口へと運ぶ。
やっぱり味が分からないと愚痴を心の中で零し、晩餐会をどうにか乗り切るのだった。
で、次の日の朝。
用意してもらった馬車に乗り込む。ちなみにメンバーは第一王子殿下に宰相補佐さまとソフィーアさまに私。取りあえずは向こうについてからの予定を聞かされて、残りは時間が許す限り私のお勉強タイムだとソフィーアさまが言っていた。
「なにか分からない所はあるかい?」
第一王子殿下が私に問いかけるのだけれど、何も思い浮かばない。――あ。
「竜の卵は結局誰の手に渡るのかな、と」
王国では私以外に卵を持てる人居ないし、面倒ごとは御免だとなるべく話題に出さないようにしてたようだし。亜人連合国の誰かが触れると良いのだけれど。竜の亜人が代表だと聞いたので、竜の亜人ならば触れる可能性が高そう。
「向こうの出方次第だね。返せといわれれば勿論返さなければならないよ」
「――置いていったら怒られますかね……」
こう滞在していた部屋にこっそりと。ホテルをチェックアウトする際にゴミを置いていくような感覚で。
「それは、止めておいた方が良いと思うよ。卵を無下に扱ったと言われかねない」
「ぬぅ」
私の様子を見て殿下たちは苦笑い。今、卵は私が持っている。
流石に肌身離さず持っておくのは無理なので、私に与えられた部屋で鎮座していた。触らなければ問題はなく、ベッドサイドにあるチェストの上に飾っていたのだ。
雑に扱っていたので、侍女さんたちが顔面蒼白になって色んなものを用意してくれ。小さい座布団のようなものを譲り受け、落ちないように落下防止の木枠とかも用意してくれたので、気持ちを無下にできず。自然に生きる生き物に対して、過保護な扱いだよなあと心の中でぶーたれつつ、二日近く過ごし。
今も今で、ボロボロの麻の巾着袋から絹にグレードアップである。しかも中には綿が仕込まれていて随分と過保護。
「大きくなっていないか?」
「……」
「このように近くで見るのは初めてだから判断が付かないが……」
話題にしたので、超贅沢な巾着袋の中から卵を取り出していた。ソフィーアさまの言った通り、鶏の卵程度の大きさから一回り大きくなっているような。ソフィーアさまと宰相補佐さまに殿下が、私の手のひらの上にある卵に顔を寄せる。
「……」
「割るなよ」
「……」
「捨てるなよ」
「……」
「……投げるんじゃないぞ。ソレは今回の事態説明の為に必要なものだからな」
ソフィーアさまに私の思考を読まれてる。ちくせう。
「拾ったことを黙っておけば……」
「露見した時にアルバトロス王国の立場が悪くなるねえ。君の気持ちは理解できるけど我慢してくれ、国の命運が掛かっているからね」
今度は第一王子殿下。笑っているというか、苦笑いに近い顔をしてる。殿下から視線を反らして、馬車の床を見る。分かってはいるけど、そうでも考えてどこか逃げ道でも作っておかないとやっていられないというか。
「――ん?」
「なんだ、これはっ! 殿下っ! お下がりください!! ナイもだ!」
殿下の短い言葉に反応してソフィーアさまと宰相補佐さまが立ち上がり、彼の前に立つけれど狭い馬車の中では逃げ場がない。上を向いているソフィーアさまと宰相補佐さまと同じように視線を上げ、兎にも角にも殿下を守らねば。
「――っ!?」
みんなと遅れて視線を上げつつ詠唱を唱えようとした、その時だった。
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